魔都ガイウス  邪眼の魔女 1

 翌日、8月28日。

 ランダは朝早くから出掛けていった。それとなく聞いたら、グラーダ三世にこき使われているようだ。

 

 昼前になって、俺たちはくだんの魔法道具屋に出掛けていった。

 エレナは留守番で宿に残しておく。アールは、俺かリラさんがいないと何かあった時に困るから、一緒に連れて行く。

 

 ミルが先導してくれるが、本当に近くて、「足の豆亭」から、緩やかな坂を僅かにカーブして降りていった先だった。広場に出る為の道の角地で、土地としては三角の形の小さな店だ。

「良い匂いだね!」

 ミルがさっきからクンクン鼻をひくつかせている。

「食べ物屋が多いですものね」

 リラさんも、気になるようで、周囲の店を見回す。

 魔法道具屋の向かいはパン屋。その隣は菓子屋。

 向かいにも食堂、肉屋が並んでいる。

 足の豆亭のある通りは商店街となっていた。魔法道具屋は、港側の一番端に位置している事になる。

 広場の先は、多分造船所で、大街道リア街道が横切っている。リア街道を右に進めば冒険者ギルドがある。つまり、俺は何度もこの店の前を通っていた事になる。

「気付かなかったな」

 小さく呟いた。

 リア街道は海に面しているので、大きな建物の造船所で見えないが、すぐそこが海である。足の豆亭からは綺麗な海がよく見えた。


 店先にはランプの看板があり、「パインパイン魔具店」と書かれている。

「可愛らしい名前だな」

 俺は呟く。

「ね~~。どんなお店かなぁ?」

 ミルがウキウキした様子で階段の上をのぞき込むように背伸びをする。

 店は6段の階段を上った上にあるのだが、階段を登っても、右に曲がって道が続いている。生け垣も生い茂っていて、店の外観は、ほとんど見えない。それがちょっと不気味でもある。

 一応煙突の付いた、2階部分の屋根が見えるが、ヘルネ市の建物の屋根は大体がオレンジ色なのに、この建物の屋根は紺色だ。


「取り敢えず、行ってみようぜ」

 ファーンが言うので、俺たちは頷いて階段を上る。

 6段の階段を登ると、右に曲がり、生け垣の間の小道を少し進むと左に曲がる。

 曲がると、魔法道具屋の店が姿を現した。

「あら、可愛い」

 リラさんが呟く。

 確かに想像していたよりも可愛らしい外観の建物だった。

「名前通りの可愛い店だね~」

 ミルが囁く。

 

 店は、玄関までに3段の階段があり、階段の先に白い柵の玄関ポーチに続く。

 魔法道具屋は、三つの建物が連結したような構造になっている。

 外から見えた2階建ての建物は右奥だ。

 左奥の建物と、手前の建物は平屋である。

 壁はどれも白で、屋根は、手前の店になっている建物はオレンジ色ので、左奥の建物は黒の瓦だ。

 左奥の平屋の建物にも煙突が付いていて、そこから煙が上がっている。

 出窓には、花が飾られていて、店の中の装飾品とか、売り物が少しだけ、ポーチの下からも覗ける。

 明るい雰囲気の可愛らしい店に見える。

 ・・・・・・見えるのだが、何となくポーチに上がるのが躊躇われる。


「どうする?」

 ファーンが聞いてくる。

「この感じだと、大丈夫なんじゃ無いか?」

「でもよ・・・・・・」

 ファーンが尻込みしている。その気持ちは分かる。

 

 朝食の時に、食堂で旅人が話しているのを小耳に挟んだ。

「この街の魔法道具屋な。お前聞いたか?」

「ああ。魔女の店だろ?恐ろしい老女だというじゃないか」

「いや。見た目は若いらしいが、代金の代わりに、寿命を要求するらしい。だから、若さを保っているって話だ」

「それを断ると、とても払えないような金額を要求してくるそうだ」

「払えなかったらどうなるんだよ」

「・・・・・・そりゃあ、これだろ?」

 男は首を掻き切るポーズを取る。


 それで、俺たちはすっかり尻込みしていた。

 マイネーも扱いにくいと言っていたし、3番目に強い奴の一角に入れていた。

「とりあえず、外から店の中覗いてみるか・・・・・・。一応店なんだから、そのくらいは平気だろう?」

 俺を先頭に、静かに階段を上って、玄関ポーチに行く。

 玄関のドアには、綺麗なステンドグラスがはめられていて、おしゃれな外装だ。

 出窓から中を覗くが、すぐ近くに棚が置かれていて、ランタンやら、装飾品のような商品、鏡等が見えるだけで、奥までは見えない。店主はいるのか?

 俺たちは無言で顔を見合わせると、店のドアを開ける。

 

 カラン、カラン。

 

 ドアに付けられたベルが鳴る。

 店の中に入って眺めるが、店主の姿は見えない。

「何だか素敵なお店みたい・・・・・・」

 リラさんがいくつもの棚に並べられている商品を見て、楽しそうに言う。アクセサリー類から、ジョウロとかスコップとかの日用品まで置いてある。

 魔法道具屋には見えない。店を間違えたって訳じゃ無いよな・・・・・・。

 店の雰囲気は、リラさんの言う通りおしゃれな雑貨屋だ。それに勇気づけられて、俺は店の奥に向かいながら、声をかける。

「すみません!店主さん、いますか?」

 すると、俺の声に反応して、店の奥の開いたままの扉の方から、ゴトンと音がする。

 俺たちはその扉に向かい、中をのぞき込んで、一瞬で固まる。

「ヒィ!?」

 ファーンが小さく悲鳴を上げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る