魔都ガイウス  ランダの目的 1

 ヘルネ市までは、同じガイウスの中なので、半日で付いた。

 だが、景色は城塞都市であるラインガルデン市と違うのはもちろんだが、同じく港町のブラウハーフェン市と比べても違っていた。

 丘は緩やかで、大きな湾を臨み、街が広がっている。

 白い壁なのは同じだが、屋根は色んな色合いだし、窓辺には花が飾られていて、色とりどりだ。

 道も広く、行き交う人々も明るく朗らかな様子で、田舎の様な雰囲気がある。

 しかし、ここも王都で、大街道リア街道が通っている栄えた街である。

「なんか、良いところですね」

 リラさんが街の景色を眺めながら言う。

「ええ。何というか、落ち着く雰囲気だ」

 混乱の内に出発したので、今俺たちには追跡者は付いていない。王城はそれどころでは無いのだろう。さらに陰謀の魔都っぽさが増したのではと思う。残ったマイネーが哀れでもある。


「で、どうするんだっけ?」

 ファーンの問いに、俺はのんびり答える。

「取り合えず、宿泊先は『足の豆亭』だ。そこに数日分部屋を取ろう。マイネーが一度来るので、それまではこの街に滞在する。リラさんたちはのんびり観光すると良いよ」

 俺が言うと、リラさんとミルが嬉しそうに顔を見合わせる。

「やった~!」

 エレナも大喜びをするが、俺がその喜びに水を差す。

「エレナ。お前は一度ブラウハーフェンに戻って、冒険者ギルドで冒険者登録をするぞ」

「ええ~~~!なんで空気読めないかな、この男は」

 嫌がりつつ毒を吐く。

「大体、わざわざまた戻るとかって、意味分からない!」

「しょうが無いだろ?まずは宿の位置を確かめるのも大事だが、何より、俺が王城付近から離れたかったんだよ」

 あそこにいたら、俺はペンダートンとしての責任を果たさなきゃいけなくなる。面倒ごとはごめんだ。

「まあ、待てよ。この街にも冒険者ギルドあるぞ。確か登録も出来たはずだ」

 おお。それはすごいな。

「何でも、冒険者としてはブラウハーフェンよりもここの方が利便性が高いからだそうだ」

 ファーンの説明には納得がいく。ブラウハーフェンだと、港は商人が使う事が多い。あそこは商人の街という印象だった。

「じゃあ、ここで登録しよう。俺も付き合う」

 俺が申し出たが、エレナはより一層嫌そうな顔をする。

「アール。お前も、冒険者登録をしよう。持ってないだろ?」

 俺がアールに問うと、アールが俺の後ろで頷く。

「はい、兄様。・・・・・・でも」

 アールは不安そうにする。

 俺もアールに関しては不安がある。

 冒険者登録試験では、一番重視されるのが適性試験だ。犯罪を犯さないか、人助けが出来るのか、問題行動は無いかなど。大体は、元冒険者の勘なのだが、これがなかなか当てにできる。

 アールは暗殺者の里で洗脳されていて、今もまだその洗脳は解けたわけでは無い。暗殺業もこなしてきただろう。

 だから、適性試験で見抜かれるのではと怖れている。

 冒険者の職業に暗殺者アサシンがあるが、これは本当に暗殺を生業にしているわけでは無い。盗賊職の上級職として、より攻撃に特化した者が名乗る職業名だ。


「まあ、大丈夫だ。俺も一緒に行ってやるから」

 何の保証にもならない事を、とりあえず言って不安を少しでも和らげようとする。

「アールさんが行くならあたしも行きます!」

 エレナが一転して行く気になった。何なんだよ、こいつは。

「じゃあ、オレもギルドに付き合うよ」

 ファーンが言ってくれたので心強い。

「・・・・・・俺は、宿で待機していよう。カシム。後で話したい事がある」

 何やら深刻そうにランダが言う。俺はその様子に不安を覚えたが、とにかく、まずは宿を探して部屋を取ろう。


 



 「足の豆亭」はすぐに見つかった。海に近い坂の途中の宿だ。

 うまやがしっかりしていて、他の預けられている馬も、丁寧に世話がされている。ただし、部屋はあまり大きくなく、4人部屋が2つとなった。

 ファーン、リラさん、エレナ、アールで一室。俺とランダと、ミルで一室だ。それについては少しもめたが、とりあえずそうなった。数日滞在するので、変更があるかも知れない。


 リラさんとミルは観光。今日はもう午後なので、ヘルネ市内だけの観光にしてもらったが、明日には近隣の市にも足を伸ばすのも良いだろう。

 

 俺たちは、歩いて冒険者ギルドを目指す。

 船着き場の近くにあるらしい。

 石畳の舗装路を、のんびり歩いてギルドに向かうと、すぐに大きな3階建ての建物が見えた。

「そう言えば、アール。お前今、魔法使いの恰好をしてるけど、冒険者職業はどうするんだ?」

 今更ながらの質問を投げかけると、顔を半分仮面で隠したアールが不安そうに首を傾げる。

「兄様。私、魔法は使えません」

 う~ん。思わず頭を抱える。するとファーンが頭の後ろで手を組みながら言う。

「オレたちのパーティーってさ、軽戦士、探求者、盗賊、精霊使い、黒魔導師。アールは前衛だったし、エレナは中堅ってところか?」

 なるほど。まあ、その中では探求者は謎だし、ランダは戦士としても一流だ。

「エレナは『戦士』扱いで良いんじゃないか?」

 俺がエレナに声をかけると、「はぁ!?」と、まず、嫌悪感を表してから頷く。なんだよ、一々さぁ。

「まあ、そうですね。『狩人』とかでも良いですが、『戦士』で我慢します」

 俺の提案だからか、とりあえず文句を言ってみたようだ。

「アールは?」

 アールには希望を聞いてみたい。

「兄様がなれというものになりたいです」

「ひゃあ。ブラコンだねぇ!」

 ファーンが茶化す。それに対してエレナが不満そうに俺を睨む。

「じゃあ、かなりの体術だったし、『武闘家』ってのはどうだろうか?」

 俺が提案すると、アールは無条件で頷く。

 一方で、ファーンが首を傾げる。

「でもさ。アールって、結構武器使うよな」

 その通りだ。だが・・・・・・。

「それは違うぞ。武闘家ってのは素手で戦う者では無い。『武芸十八般』という言葉があってだな。武闘家ってのは、色んな武器を使うんだ。素手で戦うのは、『格闘家』と言うのが本来は正しい」

 俺は自分の習ってきた事を言う。

「無駄に頭だけは良いんですね」

 エレナが馬鹿にしたように感心する。

「なんか、『マスター』みてぇだな」

 ファーンが唸る。

「いや。マスターはもっととんでもないだろ?!」

 マスターについてはファーンの方が詳しい。

「そりゃそうだ。マスターになったら、近接武器だったら何でも使えるようになるし、人を選ぶ魔剣でも、個人認識武器だろうが、問答無用で従わせる事が出来るんだ」

 ファーンが得意そうに言う。確かにすごい能力だ。俺のように魔剣に選ばれない人間としては羨ましい限りだ。

「すっごーーい!ファーンさんってすっごく博学ぅ~~~!」

 エレナが目をキラキラさせてファーンの話に感心する。

 俺の時と大違い過ぎて笑えるよ・・・・・・。

「じゃあ、変装変えていくか?」

 ファーンが近くの防具屋を指さす。ゴリゴリの魔法使いのスタイルで「武闘家になります」では、さすがに怪しまれるな。

「そうだな。簡単な服だけで良いから、それっぽくしよう」


 そういうわけで、急遽、服だけ武闘家のセットを購入して着替えてからギルドに向かった。

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