魔都ガイウス  地獄教壊滅 5

「さて、ではご報告致します」

 バハラム将軍が告げる。再びイスに座ったグラーダ三世が頷く。

「まず、今回の件でのアインザーク市民の死者、54名。他国の者、139名。

 貴族に類する身分の者、18名。他国の王、並びに世界会議出席者に被害はありません」

 事件の規模にしては被害は小さい。

「ですが、地獄教に捕らわれて命を失った者は恐らくですが、230名。皆、アインザークのなる市民です」

「いえ、訂正があります。ラジェット派の生け贄の中の40名ほどは、罪人でした。牢屋から脱走していた者たちです」

 ラモラック将軍が、アスラン将軍から受けた報告を告げる。

「ふむ」

 アインザーク王は顎を撫でて唸る。

「いずれにせよ、多くの国民の命を損なってしまったな・・・・・・」

「いえ。国王陛下は、賢明にも変事を予測して、グラーダ国軍警護を依頼していただきました。それ故に、地獄教徒の暴挙の被害を最小限に抑える事が出来ました」

 ラモラック将軍が明るい声で言う。

 アインザーク王は深いため息をつく。

「そう言う事に・・・・・・するしかないものだな」

 自分の知恵では無い。どこが賢明な者かと、自嘲したくなる。

「建物の被害は火事が少々、倒壊家屋も10棟のみです。居合わせた冒険者たちの活躍も聞いております」

 バハラムが報告を続ける。

「最後に、地獄教徒ですが、恐らく逃亡者はいないと思われます。ラジェット派のデネ・ポルエットは捕らえてあり、白蓮騎士団が連行中ですが、その他のカキーマ派、ジンス派の首魁どもは、討ち取っております。

 討ち取った地獄教徒の数は、約900名」

 

「これで、地獄教徒は一掃できたと言う事か・・・・・・」

 グラーダ三世がようやく大きなため息をつく。



◇     ◇



「多分、地獄教はまた復活する」

 俺が告げる。

 俺たちがいるのは、大使館の応接室。

 そこに集まったのは、仲間たちと、グラーダ国の大使、オブセット卿だ。

 ランダの報告を受けて、俺は状況を把握できた。

「まず、今回の件は、グラーダ三世が構想した、世界会議を餌にしての地獄教徒殲滅作戦だ」

 あくまでも想像だが、状況から言っても恐らく正しいだろう。

「その作戦は成功した」

「じゃあ、なんでだね?」

 オブセット大使が戸惑う。

「この城塞都市の外側には、ぐるりとグラーダ軍、それとアインザーク軍が包囲網を敷いている。今回は『アルフレア』のシズカさんの魔法で、地獄教徒も炙り出せたようだ。だが、人の認識をゆがめて姿を隠す能力を持った男がいる。多分、そいつは逃げている」

 俺は左腕を見つめる。

「その男はメイグリフ・ゼス。今は『ルドラ』と名乗っている。ルドラが言うには、宗派に細かく分かれていた地獄教をまとめ上げて、1つの大宗教にして、グラーダに仇なすと言っていた」

 俺の言葉に、仲間もだが、大使は驚きを隠せない。それはそうだろう。大使はグラーダの人間だ。メイグリフ・ゼスの名前は聞いた事はあるだろう。

「ルドラの口ぶりでは、逃げる算段は付いていそうだった。となれば、他にも脱出できた地獄教徒は、少ないだろうがいるだろう」

 俺が大使に言うべき事を伝える。

「で、オレたちはこれからどうすんの?」

 ファーンが尋ねる。

「うん。ここにいても仕方が無いからな。さっさと出発するか」

「そだな。まだまだアインザークは混乱してるだろうけど、カシムなら顔パスだしな」

 ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。

「これから、マイネーと約束している通り、南の港町、ヘルネ市に向かう。そこで装備を調える」

 俺は斬られてしまった腰の剣を見る。

 この剣じゃだめだ。俺には合っていたが、まだ弱い。あのルドラの剣、リヴィアタンとメルビレイに勝てる剣が欲しい。

 防具も、何もかもを見直さなければいけない。

「わ、私はどうすれば良い?」

 大使がうろたえる。

「至急、グラーダ王にこの事を報告してください。恐らく世界会議の内容にも関わってくるはずです」

 一応、強めに言っておく。その為に話した訳なんだが・・・・・・。「では、我々は準備ができ次第、出発します。目的地は伏せておいてください。お世話になりました」

 俺たちは応接室を出る。


「さて。準備ができ次第って言っても、俺たちはもういつでも出発できるぜ」

 ファーンが笑う。だが、一名、エレナだけが慌てる。

「ええ?!ちょ、ちょっと待っててください。あたしは荷物持ってない!」

 慌てて部屋に戻っていく。

「あいつの武器長いもんな・・・・・・」

 ファーンが肩をすくめる。

「馬はどうする?」

 ファーンが尋ねる。

「じゃあ、俺がマイネーの乗ってた馬に乗るよ。アール。一緒に乗ろう」

「じゃあ、私がエレナと乗ります。あの子、馬には乗れないそうだから」

 リラさんの提案に頷く。

「じゃあ、ミルはまたファーンとだね」

「それは良いけど、カシム。お前胸当て装備して乗れよな!」

 ギクゥッ!!

「そ、それはもちろんだけど、何でだ?」

 俺は動揺を隠しつつ尋ねると、ファーンがニヤリと笑う。

「ほほう。ここで言っちゃっていいのかな?」 

 ひい。バレてる!!

「ファーン。俺はお前を本当に大切に思っているんだよ?」

「ああ。知ってるぜ。だからオレはアドバイスするだけに留めておくわけだ」

「兄様?ファーンさん?」

 まっすぐな目で俺を見るアールに申し訳なくて、心が痛む。


 そんなやりとりをしていたら、エレナがドタバタと走って荷物と長槍を持って戻ってくる。

「エレナ。リラさんと馬に乗ってくれ。乗馬も教えて貰うといい」

 俺がエレナに告げると、エレナは飛び上がって喜ぶ。

「やったぁ~~~!最高!天国ぅ~!リラさん、よろしくお願いしますね!!」

 すごく良い笑顔に、リラさんもやや引き気味に微笑む。 



 準備が出来たので、すぐに馬小屋に行って、馬に乗り出発する。

 ランダ以外は相乗り状態だが、ウチのパーティーは荷物が少ないので助かる。

 俺もウエストポーチに入れていた予備の剣(安物)を装備して、トビトカゲはしまっている。このポーチには予備の武器がたくさん入っている。小さいのにロングソードが簡単に収納できるんだから驚きだ。

 あの時も身につけていれば良かったが、貴族服に、この素朴なウエストポーチは合わないのでファーンに預けていた。


 やはり、ファーンのリュックこそが、このパーティーの生命線である。食料から野営道具、水、それぞれの着替え等々が、小さなリュックに収まっている。

 ちなみに、リラさんのウエストポーチには、使わない時の杖や、笛、竪琴といった楽器が入っている。後は乙女の秘密らしい。

 ミルのウエストポーチには、武器やら実用品も入っているが、ドングリや、おもちゃ、ゴミなど、あまり知りたくないような物が平気で入っているらしい。



 馬で城塞都市の門をくぐり、丘の道を下っていくと、グラーダ軍の検問があった。それを顔パスで通過すると、港町のブラウハーフェン市内を抜けて、一路ヘルネ市に向かって行った。


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