魔都ガイウス 地獄教壊滅 4
食堂には、グラーダ国民の避難者が大勢いた。皆、商人だったり、旅人のようだ。
今回の世界会議のためにアインザークに来た人もいるだろう。
一様に、疲れ切った顔をしている。廊下で寝ている人もいるので、俺たちの待遇の良さが、何だか申し訳なくなる。これは早めに旅だった方が良さそうだ。
食堂で、俺は出された飯を食べる。
味とか、感想も思い浮かべる事無く、ただ黙々と食べる。
「おおい。にいじゃん。おめ、どっが、いだいんげぃな?」
対面に座っていたおじいさんが声をかけてくる。久しぶりに聞くグラーダ語はエレス標準語から比べると、かなり濁っていて聞き取りにくい。
「え?いえ」
俺は驚いて答える。
「じゃばら。どげすて泣いでるだ?」
泣いてる?俺が?
気付いて頬を触ると、涙が伝っていた。
俺は慌てて涙を拭く。
どうしたんだろう。そう言えばさっきから食事も止まって、気付いたら奥歯をきつく噛みしめていた。
「辛えごど、あっだもんだげな」
おじいさんは俺をいたわるように接してくれるが、違う。
多分、俺は悔しかったんだ。
俺は負ける事になれているし、逃げる事も、蔑まれる事も、あまり気にしない。自分の事ならば怒りもそれほど湧いてこない。
自分の周りには、すごい人たちが沢山いて、自分は特別でも何でも無いと、早い時期に思い知らされてきた。
だから、俺は劣等感の塊だ。
だが、今は悔しい。たまらなく悔しい。
俺が12歳の頃に、5歳年上のメイグリフに敗れた時に味わった挫折感が蘇る。俺の劣等感をたまらなく刺激する。
だから、今、自信を取り戻しつつあるこの今、再び現れたメイグリフ、いや、ルドラに、またしても手も足も出なかった事が堪らなく悔しいのだ。
力も、技も、経験も、武器も、ルドラの方が圧倒的に優れていた。
俺はルドラに勝ちたい。もう負けたくない。
こんなにも誰かに勝ちたいと思った事は初めてだった。
漠然と強くなりたいのでは無い。明確にあの男と戦って、打ち倒すための力が欲しい。
「にいじゃん。おめ、ほんどに、でえじょぶがなえ?」
俺は再びこみ上げてきた涙を、ぐっと堪えると、おじいさんに頷いてみせる。
「もう、大丈夫です」
それから、残った飯を一気に食べて、2階のアールが寝ている部屋に戻った。
◇ ◇
「さて、ひとまずは、状況終了だな」
グラーダ三世の前には、冒険者「アルフレア」のメンバーと、十二将軍の内の2人、黒獅子騎士団団長バハラム将軍と、紅烏騎士団団長のラモラック将軍がいる。
グラーダ三世の横には、アインザーク国王。2人の背後には親衛隊のキースとオグマ、それと赤子のような見た目のアインザーク国の大臣カーマンが控えている。
「アルフレアのメンバーには報奨金とギルドへの貢献を報告しよう。特に、シズカ殿の呪術は今回の作戦の根幹となった。厚く礼を言おう」
グラーダ三世が告げると、アルフレアのメンバーが頭を下げる。
「私からも、諸君らの助力に礼を言わせて欲しい。それと、約束の品も取らせよう」
アインザーク国王も言う。
そこで、リードが「有り難く」と答える。
「しかし、本当にアズマの呪術はすごいですな」
ラモラック将軍が唸る。
「こちらのお嬢さんの札を頼りに、地獄教徒を見つける事が出来たんだ。おかげで、集結していた地獄教徒どもを一網打尽に出来ました」
その言葉にグラーダ三世が頷く。
「シズカ殿は、アズマでも特別なお方なのですかな?」
バハラム将軍が尋ねる。
「あ、あの・・・・・・」
シズカが何かを言おうとするが、リードが遮る。
「冒険者の身元を詮索するのはマナー違反ですよ。それに、アズマは神秘主義の国だ。知りたいなら、アズマ自身に尋ねるのが筋ってもんじゃ無いかな?」
リードの言葉に、バハラムは眉根を寄せる。十二将軍では一番の年長者だが、幼児のようなこのセンス・シアは、恐らくバハラムより遥かに年長者なのだろう。その風格がある。
「その通りだ。我らグラーダは魔法文化を花開かせたばかり。一方でアズマでは独自の魔法、つまり呪術を発展させ続けている事が、これではっきりした」
グラーダ三世が立ち上がる。そして、床に片膝を突くと、シズカに請う。
「せめて、アズマとの国交を開かせてはもらえないだろうか?来る聖魔大戦に向けて、アズマの協力は不可欠なのだ」
そして、シズカに頭を下げる。
「あ、あの・・・・・・」
シズカは戸惑い、周囲をキョロキョロ見回す。
だが、今度はリードも何も言わない。筋が通っていると考えたのだろう。
「その。私には、その権限はありません。私を通されましても、私も一巫女に過ぎないのです・・・・・・」
あれほどの力を見せても、まだシズカは下っ端と言う事なのかと、アルフレアのメンバーでさえ驚く。リードもこの事は初めて聞いている。
リード自身、シズカはアズマでそれなりの影響力のある姫君なのだろうと思っていたのだ。
「では、誰に話を通せば良いのか、せめてそれだけでも教えていただきたい」
なおもグラーダ三世は床に膝を付いて尋ねる。
「・・・・・・そ、それは、多分、
グラーダが思わず呻く。
「アマツカミ・・・・・・。やはりそこは避けて通れぬのか・・・・・・」
アマツカミは、ハイエルフと反目している。ハイエルフの方は交流を持ちたがって和睦を申し入れているのだが、アマツカミは頑なで、ハイエルフの和睦を有史以来拒み続けている。
その原因も、理由も、全く知らないのだ。
「あ、あの小僧の手に掛かっていると言う事か・・・・・・」
グラーダ三世にはそれが腹立たしかった。
カシムこそが、ハイエルフが望みを託した相手なのだ。
「ともかく、アルフレアの方々は、お疲れでしょう。どうぞ心ゆくまで我が城にご滞在くだされ」
アインザーク王が告げると、アルフレア一団は、立ち上がって部屋を出て行く。
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