魔都ガイウス  地獄教壊滅 3

「せりゃあああ!!」

 2本の剣を振りかぶっての攻撃を、俺は何とか魔剣トビトカゲで受ける。

「ぐうううう!!」

 懸命に押し返そうと力を入れるが、ルドラも押してくる。

 

 その時。

 俺のトビトカゲに、ルドラの剣が侵入するのが見えた。

『剣が、斬られる?!』

 そう思った瞬間、トビトカゲを押す手に、抵抗を感じなくなる。

 音も無く、俺の剣が半ばから押し切られた。

 とっさに身をひねったが、ルドラの青い反りの入った方の剣が、俺の左腕を斬り飛ばした。


「うあああああああああっっっ!!」

 凄まじい激痛。焼けるような熱さ。

 俺は地面をのたうち回る。

「俺の剣は聖剣リヴィアタンと、魔剣メルビレイ。2つで1つの剣だ。その雑な魔剣如き、押し切られて当然だ」

 ルドラが悶え苦しむ俺を見下ろしながら言う。

 だが、攻撃してこない。

 俺は必死に、折れた剣を滅茶苦茶に振って距離を取ろうともがく。

 立ち上がる事は出来ない。

 地面に転がった俺の左腕が目に入る。なんて無様なんだ。

 このまま、俺はここで命を失うのか?!

 竜騎士になる願いを持ったと言うのに。


 だが、ルドラの方が俺から距離を取る。

「時間切れだな。俺は退かせて貰う。だが、忘れるな。地獄教は殲滅できない。俺が1つにまとめて、グラーダを潰す。そして、俺は必ず、貴様を直接殺してやるからな!待っていろ!」

 そう言うと、倒れたままの俺にとどめを刺す事無く、現れた時同様、姿がかき消える。

 その直後、路地にマイネーが姿を現した。

「カシム!カシム!!」

 マイネーが俺を抱え上げる。

「マ、マイネー。助かった」

 あと少しマイネーが来るのが遅かったら、俺はルドラに殺されていただろう。

「助かってねぇ!腕斬られてるじゃねぇか!?」

 痛みで気が狂いそうだが、今は気を失ってはいられない。

「状況は?」

「おめぇが一番ひでぇ!魔物どもはほぼ殲滅し終わった。地獄教徒もな!すぐにリラもここに来るはずだ。辛抱しろ!!」

 それを聞いてようやく安心したのか、俺の意識は遠のいていった。



◇     ◇



 目が覚めると、俺は大使館に与えられていた部屋に寝かせられていた。

 すでに夜は明けている。

「お兄ちゃん!気がついた!!」

「兄様!!兄様!!良かった!!」

 ミルとアールが、俺にしがみついてくる。

 俺は体を起こす。左腕を見ると、何事も無かったようにくっついていて、動きも問題ない。他の傷も治っている。

「カシム君。どうですか?」

 リラさんが赤い目で微笑む。泣いていたのだろう。俺のために心配して泣いてくれたのかな・・・・・・。

「ありがとうございます。すっかり回復しています」

 多分、リラさんはエルフの大森林で長老に習った、ハイエルフの回復魔法を使ったのだろう。

「心配掛けてしまって申し訳ありません」

 俺はリラさんに頭を下げる。

「ミルたちも心配してたんだから!」

 ミルがブーブー言う。アールも真剣な表情で頷く。

「そうだな。ありがとう」


 左腕にしがみつくミルをしっかり感じる。

 改めて、この魔法は大したものだと思う。

 普通の回復魔法よりも簡単で、しかも効果がすごい。

 正直言って、リラさんのこの魔法を当てにして無茶をしたところがある。とっさに左腕を切り捨てる覚悟が出来たから、俺は命を取り留めたようなものだ。


「大したもんだ。何て名前の魔法ですか?」

 俺は右手でアールを、リラさんにくっつけて貰った左手でミルの頭を撫でる。

「ええ。ベホ○ミです」

 ・・・・・・なるほどなるほど。ベホ○ミね・・・・・・。

「あの、リラさん。よく分からないんですが、それは何かまずそうな名前なんですが、他の名前で呼べませんか?」

 得も言われぬ寒気が俺を襲う。

 リラさんは首を傾げる。

「長老も、あまり魔法名を公表しないでくれって言ってました。・・・・・・実は、他にも呼び名はあるんです」

「じゃあ、そっちで」

「ケア○ラです」

 それもまずそうだ。よく分からないが、まずそうな気配がプンプンする。

「そっちもダメです」

 リラさんが頷く。

「そうですね。長老も言ってました。私も何だか嫌な予感がします。素敵な響きの魔法名なのですが・・・・・・」

 俺たちは、今、何の会話をしているのだろう・・・・・・。だが、これが公式なんだから仕方が無い。

 ・・・・・・・「公式」ってなんだ?


 きっと、疲れて頭が混乱しているに違いない。大体一度に沢山の事が起こり過ぎた。


「じゃあ、『ケアミ』とでもしておきましょう」

 ハイエルフの魔法は、詠唱も無いので、魔法名も好きに決められるのがすごい。

 ただ、長老クラスのハイエルフに直接指導して貰う必要があるので、一般化は絶対にしないだろう。

 俺はまだまだ魔法は苦手で、せっかく習った「虚像(ファントム)」も、集中する時間が無ければ使えない。今回のように立て続けに攻撃されると使用不可になる。更に、使いどころがまだ分からない。魔法初心者ならではだ。


「ファーンたちは?」

 俺が尋ねると、リラさんが眠そうな表情で微笑む。

「寝てますよ。ファーンは今回も頑張りましたからね。エレナも一緒です。ランダは街の状況を見に行ってます。マイネーは知りません」

 相変わらずマイネーには容赦ない。

「って事は、リラさんたちは寝てないんですね。俺はもう大丈夫です。3人とも寝てください」

 俺がそう言うと、ミルが俺のベッドに潜り込む。

「お兄ちゃんも、もっと寝た方が良いよ」

 一緒に寝る気か?!アールまで布団に入り込もうとしている。いやいや。アールからすれば俺は兄なのだろうが、俺からすれば、アールは女の子だ。それはまずい!

「いや!俺は腹が減ったから、何か食べに行く。2人はここで寝ていてくれ!」

 慌てて俺はベッドから出る。

「ええ~~!」

 ミルが頬を膨らませる。

 アールは不安そうにして俺の手を取る。

「兄様・・・・・・」

 俺はアールの手をそっと離す。

「大丈夫だ。俺は消えたりしないし、みんながいるから死んだりしない」

 それでも尚不安そうにしているアールの頭を撫でる。

「何か食べたら、この部屋に戻ってくるよ。今度は俺が見守るよ。だから、安心してお休み」

 それを聞いて、ようやくアールは頷く。

「アール。寝よ~」

 察して、ミルがアールに抱きついて促す。やっぱりミルは良い子だが、無理をさせてないかな・・・・・・。

「じゃあ、私も休ませて貰いますね」

 リラさんがのびをして立ち上がる。

「本当にありがとうございます」

 俺が礼を言うと、リラさんが嬉しそうに微笑む。

「こっちこそ、カシム君には感謝してます」

 そう言われて、俺は首を傾げる。俺が感謝されるような事したっけ?

 だが、リラさんは嬉しそうな笑みを浮かべたまま、寝室に入っていった。

 俺は不思議な心持ちで、1階の食堂に向かう。大使館には専用の料理人がいて、行けば料理を出してくれるのだ。


 少し頭も整理したい。

 ランダが戻ってきたら、改めて情報も整理した方が良いだろう。

 何にせよ、仲間たちが無事で良かった。

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