魔都ガイウス  地獄教壊滅 2

 ラジェット派は、背景に第六層の魔王「ゲネヴィ・エル・ズウィット」を持つ。

 戦闘は得意では無いが、多くの地獄教徒を集める事が出来る最大宗派である。

 地獄の顕現のために、積極的に儀式を行っている、もっとも恐ろしい地獄教である。

 ラジェット派の手によって、毎年どれほどのな人々が犠牲になっているのか。


              今回の儀式のために、現状集められる、ほぼ全ての人員をアインザークに配置している。

 地下の大空洞に200人。

 地上のラインガルデン城塞都市内部に400人。

 地獄の穴を広げて、多くの血が流れれば、更に穴は広がる。城塞都市に配した400人の地獄教徒たちも生け贄なのである。

 その混乱の間に、デネ大司教たちは大空洞を脱出して、国外に逃れる準備も出来ていた。途中で、この大空洞にいる200人も切り捨てる予定だ。


 だが、様子が違う。

 地獄の穴が広がらない。それどころか閉じてきている。

 元々、小さな穴だ。実体を持たない魔物がさまよい出るだけの穴でしか無い。

 穴の大きさが元に戻れば、実体のある無限に溢れ出る魔物たちは出現できなくなる。

 地下にいて、その異変を感じ取ったデネ大司教は、未だに生け贄の死体を弄んでいる教徒たちを放置して、ロビルと数人を伴って、大空洞の出口に急ぐ。

『おかしい!魔王様の使いの声が届かぬ!!』

 デネ大司教は焦る。

 だが、誰も知らないはずの通路の先に、灯りが見える。1つや2つでは無い足跡も聞こえてくる。


 デネ大司教は、教徒たちには、「死は怖れるべきものではない」と説いていたが、自分では死ぬのを誰よりも怖れていた。

「ロビル!」

 デネ大司教に言われて、高位魔法使いのロビルが進み出る。

 前方から迫る一団に向けて、先制の魔法攻撃を仕掛ける。


 巨大な火球が通路の先に飛ぶ。

 しかし、その火球は敵に当たる前に消滅する。

 強力な障壁魔法である。

 となると、前から迫るのは魔導師部隊を抱えた軍隊と言う事になる。

 ロビルがいかに魔法使いとして優れていても、集団魔法を使われては無力化された様なものである。

 そのロビルの胸に矢が刺さる。

「む。ぐむぅ」

 一声呻くと、ロビルは倒れて動かなくなる。

「おお。これはこれは。首魁しゅかいたるデネ・ポルエット氏ですな。よろしければ、我らが王の御前にご招待致しましょう」

 朗らかに告げて、姿を見せたのは、白蓮騎士団の団長ケレム・アスランだった。

「き、貴様、グラーダ軍!?なぜここに?!」

 デネ大司教が後ずさる。

「グラーダ条約を破る事が出来るのは、我がグラーダ国だけだ。もっとも、今回はその条約を破ったわけでは無い。アインザーク国王の要請を受けた形になっている」

 アスラン将軍が笑う。

「おっと。しゃべりすぎたな。さて、諸君。デネ・ポルエット氏を捕縛せよ。他の連中は1人も残さず殲滅せよ!!」

「ははっ!」

 兵士たちがデネ大司教の横を素通りして通路の奥に後を絶たずになだれ込んで行く。

 数人の兵士に、デネ大司教も取り押さえられる。

「無論。あなたも、最終的には地獄教徒どもの後を追っていただく。ただで死ねると思うなよ!」

 アスラン将軍が穏やかな表情を崩して、デネ大司教を睨み付ける。

「馬鹿な!こんな馬鹿な!!」

 地下空洞にデネ大司教の叫びがこだまする。



◇    ◇



「なぜ、俺を狙う!?」

 俺は懸命に叫ぶ。

 ルドラの攻撃が激しく、反撃など思いも寄らない。すでに何カ所も斬られている。まだ命があるのが不思議なくらいだ。

「俺の兄は、長くグラーダに仕えた。だが処刑された。兄の家族は他国に移ったが気を病んで幼い子を巻き添えにしての死を選んだ!俺があの狂王を憎んで何が悪い!そして、カシム!お前はペンダートンだ!グラーダを象徴する騎士だ!」 悪鬼の如き形相で、2本の剣を振るう。俺はひたすら後退しながら受ける。一瞬でも気を緩めると、そこで俺は殺されてしまうだろう。

「そして、貴様は竜騎士になろうとしている!!弱い貴様が、竜騎士だと!?英雄だと!?笑わせるな!!そんな不条理は俺が許さぬ!!」

 何故だ?将来を嘱望されていたのはルドラも同じだ。いや、実績があったのだから、俺以上だ。なのに、何故こんなにも歪んだ?!これが地獄教の洗脳なのか?! 

 怒りがこみ上げてくる。

 だが、ルドラの攻撃が更に激しくなり、俺は対応できなくなってくる。

 ウシャスたちにやられた傷が無くても、はっきり言って手も足も出ない。

 ルドラは俺より遥かに格上の相手だ。

 かつては少年だった頃の俺と同程度の実力しか無かったとは思えない。

 祖父の訓練1回で、ここまでの怪物になったか・・・・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る