魔都ガイウス 地獄教壊滅 1
城外での戦闘も激しく続いている。
「何だよ!?敵は魔物だけじゃねぇぞ!?暴徒か?」
魔物に混じって、逃げる人たちを襲う者がいる。
「おっさん!気を付けろよ!」
ファーンがオレンジ色の騎士に声をかける。
逃げ惑う人たちを、グラーダの大使館に避難させているのだが、ガーランドが魔物から庇った男は、一般人の様な恰好だが、不自然に右肩が下がっている。
「むむ?!」
ガーランドが警戒すると、男が右手に隠し持った武器を、鎧の隙間に刺し込んでこようとする。
「曲者めが!!」
ガーランドは、大きな盾をふるって、男を殴り飛ばす。
ガーランドを襲ったのは、カシムを襲った男たちとは違い、戦闘のプロでは無い。ただ武器を持っただけの、普段は普通に暮らしている地獄教徒だった。
「お嬢さん。我が輩はオッサンでは無い!」
ガーランドの抗議をファーンは無視する。
男と思われたのが腹立たしい。
「もうちっと、女らしい恰好するかな・・・・・・」
想像してみてすぐに面倒くさくなる。
グラーダ王城でドレスを着たりしたが、ファーンはやれば出来るのだ。だが、あまり興味が無いし面倒くさい。それだけである。
そうは言っても、男に間違えられるのは嫌だ。それは、カシムに勘違いされた事が発端で、それ以前だったら気にしなかっただろう。
だから、ガーランドに間違えられても腹が立つ。
『そんな事考えてる場合じゃ無いだろ?!』
ファーンが自分の頬を叩くと、城の方に向かって戦闘を繰り広げているランダに指示を出す。
「ランダ!あまり戦域を広げるな!一角を死守しろ!」
叫ぶファーンは、大使館の壁の上から指示を飛ばしている。
「了解した!」
ランダが前衛で共に戦うミルとアールに指示を出す。
「わかった!」
「承知しました!」
2人が答えて、戦いながら後退する。
「おい!エレナ!避難してきた人たちを一応チェックしろ!」
「任せてくださ~い!」
エレナはのんきに笑顔でファーンに手を振る。
「リラには指示はいらねぇな」
リラがいるのは、ファーンよりも高いところである。
空を飛べる魔法使いなど、今の世にはいない。
精霊使いだからなのだろうが、ハイエルフの長老の話だと、リラは天才の部類に入る才能を持っているそうだ。
エルフの大森林にいた時のような規格外の力はもう出せないが、それでも、メキメキと精霊魔法が上達している。
今は、空から逃げ遅れた人を発見しては、下に指示を出したり、風魔法で戦ったりしている。
精霊魔法は空を飛ぶ事にのみ使っているようだ。
「ちょっと、ファーン!私にも指示ちょうだい!!」
自分にだけ声かけが無い事に、リラが不満を漏らす。
『いや。いらねーだろ・・・・・・』
そう思いながら、ファーンは頭を掻きながらリラにも指示を出す。
「現状維持!!」
「わかったわ!!」
◇ ◇
地獄教のカキーマ派は、その背景に地獄の第6層の魔王「ビルキア・ソウエン」を持つ宗派である。
薬物売買や、強姦、売春を行う集団で、荒くれ者、ならず者が多く参加している。
地獄教としての目的、地獄の顕現への取り組みよりも、こうした活動自体が目的となっている節が見られるため、ラジェット派とは闘争に発展するほどの間柄である。
そのカキーマ派のトップは、ラジェット派と同じく「大司教」と呼ばれている。
その大司教の名はベェネ・ルビィ。女性である。
「ラジェット派のクソどもが!先走りやがって!」
ベェネ大司教が口汚く毒付く。
「あたしたちも儀式の準備をしていたってのに、台無しじゃないか!!」
カキーマ派は、ラインガルデン市には入らずに、丘の下のブラウハーフェン市に潜入していた。
そこで世界会議の開催中に混乱を起こそうと企んでいたのだ。
だが、他宗派との連携など、カキーマ派には望むべくもない。
今回は、多額の報酬を受け取り、かつ、アインザークまでの入国にも手を借りたので、珍しく儀式をしようと張り切っていたのだ。
その為、カキーマ派の教徒110人全員をつれてブラウハーフェン市に潜入していた。
生け贄は、現地調達だ。
薬でおかしくさせて、死ぬまで犯して痛めつける、何とも残虐な儀式である。
だが、すっかり周囲を取り囲まれている。
グラーダ国の黒十字の旗を掲げた兵士たちにである。
「クソがぁ!!」
ベェネ大司教が叫ぶ。
同じく、ジンス派の教徒も、すでに壊滅している。
ジンス派は、人数は少なく30人程度である。
だが、皆戦闘の専門家で、剣術、武術、暗殺術の達人である。
今回はラジェット派と共同して、要塞都市に騒動を起こす事が目的である。
その際に、出来るだけ多くの人間、出来れば位の高い人間、他国の賓客を殺す事が出来れば重畳である。
その為に、ジンス派のトップである教皇も参加している。
教皇自身、戦いや殺戮を楽しむ武闘派である。
教皇の名はテルメル・レンダール。一見すると、穏やかそうな老人だが、細い体は鋼のように鍛えられていて、人間凶器とも言える、素手での殺人術を修めている。
背景には地獄の第六層の魔王「エオシク・ツイヨ」がいる。
ジンス派は、今回、全滅する覚悟である。
せっかくだから派手な戦場で戦い、命を散らしたいと考えている。
どうせ、全滅しても、また誰かが教皇をやって復活するのだ。ならば、死に場所は選びたい。
この世界会議は、テロとしては最高の舞台である。
だから、ジンス派は喜々として参加していた。
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