魔都ガイウス  ルドラ 4

「さて、城内の魔物は、ほぼ制圧できたようだ。あとは、外に溢れた魔物たちだね」

 リードが言う。

「悪いがボクはここを離れられない。君が役に立つつもりがあるなら、外の援護に行くと良いよ」

 リードが笑って見せる。俺はいちいち反応するつもりが無いので、軽く肩をすくめると、城外に続く扉に走る。

「でも、あの件はチャラに出来ないからな!!」

 去り際に言ってやる。「ウンコの英雄」を言いふらした本人を責めてやりたい。

「やれやれ。心が狭い男だね」

 そんな言葉が、俺の背中に届いた。

 狭くて結構だ!充分自覚してるんだよ!



 俺は大きな扉をくぐって、城の外に飛び出す。

 城の外では、アインザークの兵士たちが、右往左往する人々を助けながら戦っていた。

 だが、その中に、明らかにおかしな動きをしている連中もいる。

 どさくさに紛れて、兵士に襲いかかっている。それも、助けられた振りをして、後ろから不意打ちをしているようだ。

「地獄教徒か!!」

 俺は確信して、兵士を攻撃している男に向かう。

「地獄教徒が混じっている!!気を付けろ!!」

 俺は叫ぶ。気付いている兵士も少なからずいるが、見分ける方法が無い。

 俺の目の前の男は、正体がばれると、開き直って俺に武器を振りかざしてくる。

 剣で受け止めると、すかさず体当たりを喰らわせてきた。

 ギリギリ避けたが、どうも相手は戦い慣れている。

 先日の傭兵崩れよりよっぽど戦いにくい。

「くそっ!ただの信徒じゃないな!?」

 剣をしっかり構えて、間合いを計る。商人風の服装の男が手にしているのは、鎌のような武器である。間合いは俺の方が長いが、懐に入られると刈り取るような攻撃をしてくる。更に、多分左手にも刺突系の武器を隠し持っているはずだ。

 攻めにくい・・・・・・。

 そう思いつつ、俺は一気に間合いを詰めつつ、剣を横凪に一閃する。

 男は鎌の様な武器で、俺の剣を受け止めると、左手を俺に突き出してくる。思った通り刺突系の武器が握られていた。

 先端がのどに迫る。

 俺はそれを、更に踏み込んでタイミングを外し、しゃがみ込んで躱し、肩にひねって担ぐようにした剣は、相手の武器を巻き込んで、男の右脇の下に来る。

 そのまま引き抜くように剣を持ち上げれば、男の右腕を切断できる。

 だが、男は、あっさり自分の武器を手放して、俺との距離を取る。

「クソ!思い切りが良いな・・・・・・」

 俺は毒づく。

 

 手間取っている内に、俺は1人で、4人の敵に囲まれていた。

 これはまずい。

「いたいたいたよぉぉぉ~~~~。探したぜ~~~。カァシィムゥ~~」

 聞いた事がある寒気のするような声がする。

 俺を取り囲む男たちの後ろの路地から、見覚えのある男が、ゆらりと危険な雰囲気をまとって現れる。


 背は低く、体は細いが、長い手と、長い黒髪。

 裂けたような口を大きく開けて、舌をだらりと垂らし、笑っている。

 目は完全の正気を失っている。

「ウシャス・・・・・・」

 地獄教ラジェット派の高弟の1人、棒術使いの男、ウシャス。ヴァジャ同様、恐ろしい相手だ。

 この状況に、ウシャスまで加わるとなると、本格的にヤバい。

「おお~~~。俺の名前を知っていてくれるとは。これぞ愛だぁ。素晴らしい愛だぁ~~~」

 ウシャスは恍惚とした表情を浮かべる。

「お前がヴァジャの呪いに殺されなくて良かった。おかげでこうして愛し合えるんだぁ~~」

 ウシャスは右腕を持ち上げる。鉄製の義手が、肩から伸びている。魔法道具なのか、しっかり動くようだ。

「この腕が痛むんだ。その度にお前と王女様を思い出して、俺は、俺は燃え上がる。興奮する」

 アクシスの事を言われて、俺は一瞬で頭に血が上る。こんな奴らが口にして良い名前じゃ無い。

 俺は圧蹴で、他の男たちを無視してウシャスに斬りかかる。

 しかし、ウシャスは柳のように体をしならせて、あっさり躱す。

 そう言えば、こいつは初見でも圧蹴を見抜いていた。この技は通用しない。

「そんなに焦るなよぉ~。俺はもっと、ゆっくり愛し合いたいんだ」

 見えない角度からの一撃が、俺の頭を打ち据える。

「ぐあっ!?」

 どうなってる?俺は無明で、視覚に頼らずに360度見通しているんだ。死角からの攻撃なんて、意味ないはずだ。

 頭を振って、体勢を立て直そうとする。

 だが、間髪入れずに、俺を取り囲む4人の男たちが切りつけてくる。

 避ける、受ける。避ける、受ける。反撃する。

 だが、俺の剣は届かないし、腕や足に傷が増えていく。


「クソッ!ウシャス!1対1じゃなくて良いのかよ!?」

 破れかぶれで叫んでみる。

「あいにくと、彼らはジンス派だ。俺の命令は聞かんよ」

 ウシャスがクスクス笑う。

 地獄教のジンス派は、武闘派と呼ばれる過激なテロ集団だ。だからこそ、この実力か・・・・・・。

「ぐあっっ!?」

 再び額に衝撃が走る。死角どころでは無い。真っ正面から突かれたのに、奴の棒が認識できなかった。

 ウシャスが棒を槍にしていれば、今の一撃で俺は死んでいた。

 倒れ込みかけて、俺は足を踏ん張る。低空の剣技「地蜘蛛」で、俺を取り囲む男たちの足下を狙う。

 さすがにとっさには対応できなかったようで、男たちは俺から距離を取る。

 額から血が流れる。このままじゃヤバい。取り囲む男たちを何とかしないといけない。

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