魔都ガイウス  ルドラ 3

 そして、8月25日、日没後、ラインガルデンの城壁が光り輝く。

 丘の下にあるブラウハーフェン市からも、北側のアーヘン市からも、その異様な光景は見る事が出来た。

 次の瞬間である。

「掲げぇ!旗!!」

 突然の大声が、通りのどこからか響く。

「掲げぇ!旗!!」

 復唱が各通りから響く。

 人々は驚き周囲をキョロキョロと見回す。

 すると、ついさっきまで、荷馬車に寝そべって居眠りをしていた男が、荷物を担いで家路を急いでいた男が、民芸品を売っていた男が。

 そこかしこに、普通にいた男たちが、長柄の旗を掲げる。

 その旗は、白地に黒の十字。世界一シンプルな国旗で、見間違えようのない物。すなわち、グラーダ国の旗だった。

 港町の住人たちが驚く中、あっという間に、その旗の下に、市民の変装を解いた兵士たちが集結する。旗持ちたちも、すぐに装備を改める。

 この光景は、ブラウハーフェンだけで無く、城塞都市を囲む全ての町で繰り広げられていた。


「以上、べにがらす騎士団、一名の離脱者も無く揃いました!」

 部下の報告を受けて、ラモラック将軍が笑う。

「当然だ!我々は完璧に訓練されている精鋭だからな!!」

 黒十字の旗の下に、赤い烏の騎士団旗がはためく。

「いよ~し!では隈無く捜索しつつ、城塞都市に向かって、進軍!!」

 ラモラック将軍の声が轟く。



◇     ◇



「さて、動いたな」

 闘神王、グラーダ三世が立ち上がる。向かう先はアインザーク国王の部屋である。

 

 グラーダ三世は、この事を予見し、地獄教徒を殲滅するために準備を進めていた。

 カシムの事、ジーンの事、白竜の事を知り、更に緊急クエストすらも利用して、このために準備してきたのである。わずかなパズルのピースすら見逃さずに、利用し尽くしている。

 さらに、諸国を煽って、他国に散らばっている地獄教徒を呼び寄せる真似までしている。

 アインザークを追い落とすには、魔物を利用すれば良い。その為には地獄教徒をアインザークに送り込む。その為に色々裏に手を回す事が良い、と言う事だ。

 その狙い通り、今このラインガルデン城塞都市には、ラジェット派、カキーマ派、ジンス派、その他の宗派の地獄教徒たちも集まっている。

「今度は逃がさん!!」

 王女誘拐事件の時は、デネ・ポルエットをまんまと逃がしている。

 それ故に、ジーンに紹介された冒険者「アルフレア」の巫女の力を借りている。


 手段を選んでやるほど、闘神王はお人好しでは無い。やると決めたら、絶対にやるのだ。その為の方法は分かる。何が必要なのかは分かる。それも闘神王の持って生まれた能力である。必要な情報が光り輝いて見えるのだ。


 だからといって、必ず成功するわけでは無い。

 今回もそうである。

 魔物を召喚させるために、儀式で犠牲になる人は救えていない。その方法までは分からない。

 そして、魔物が出現する以上、犠牲者が出る事も防げない。

 わずかなりとも危険があると分かっていればこそ、グラーダ三世はリザリエを伴わなかったのだ。

 また、自分の計画を知ったら、きっとリザリエはグラーダ三世を諫めただろう。

 

 今、犯してはいけない失敗は、アインザーク国王、リヒテンベルガー王が危険に見舞われる事である。

 万が一にも何かがあってはいけない。自らがグラーダ条約を破った事になってしまう。

 聖魔大戦が近い今、大義を失ってはいけない。時間に余裕があれば、再び世界を制覇すれば良いのだが・・・・・・。

 グラーダ三世は大股でアインザーク王の下に急ぐ。



 アインザーク王の側には、自らの部下たちが装備を固めているし、キースとオグマも貼り付けてある。なので、グラーダ三世が到着するまで、何事も無く待機していた。

「お待たせした、リヒテンベルガー王」

 グラーダ三世は、リヒテンベルガー王に対面して座る。

「民に被害を出した事をお許し願いたい」

 グラーダ三世が頭を下げる。若いときから、無様を演じてきたグラーダ三世だ。カシム以外に頭を下げる事など、必要で有りさえすれば、矜持も傷つかない。

「いや。結構。無論心は痛んでいるが、これもアインザークが長く抱えていた病の治療であると認識している。痛みを伴って当然ですな」

 そう答えるリヒテンベルガー王の顔色は、数日前より明らかに良い。

 これも、執務室と私室にシズカが護符を貼ったおかげだろう。

「『アルフレア』とは、噂以上の連中ですな」

 リヒテンベルガー王の驚きには、グラーダ三世も思いを同じくしている。

 シズカの魔法もそうだが、他のメンバーの働きにも目を見張る物がある。

 今、リザードマンのボボア・ロノと女ドワーフのベンジャミン・イオーフは、市中に潜む地獄教徒たちをいぶり出している。

 シズカの魔法の為の準備や下調べ、条件を整える事も、連中が行動を起こすタイミングの予想も、リーダーのリードが行った。

 魔法使いは腕は立つようだが、何をしていたのか分からない。


 リードはグラーダ三世とも話し合い、市内に関しての様々な手配を行った。グラーダ三世が直接動けないので、外部の冒険者を使うのは良い手だった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る