魔都ガイウス  ルドラ 2

 城が輝きだし、これがシズカさんの魔法(?)による物らしいと聞かされて、俺は驚く。

「シズカさんって、何者なんだ?呪術師?」

 俺が尋ねると、リードは首を傾げる。

「さあ。アズマは神秘主義だからね。聞いても分からないよ。何やら使命があって大陸に来たらしいんだけど、まあ、ボクに捕まったのが運の尽きだね」

 リードがクックックッと悪そうな顔をして笑う。シズカさんは人が良さそうだったから、このセンス・シアに、いいように利用されているんじゃ無いか?

「それはそうと、そろそろ第二段階に移る頃だよ!ボクらは、この階段を死守すれば良い!」

 地下から上がってくる魔物は、明らかに少なくなっている。

「第二段階?!」

「シズカの結界が、この街全体に張り巡らされている。外からは入れるが、中からは絶対に外に出られない。人も、物もだ」

 それって、とんでもない大魔法じゃないか!?神や魔神そのものだ。

「この騒ぎの首謀者を殲滅するのさ!!」

 リードが冷え冷えとした笑いを浮かべる。

「地獄教か?!」

「ご名答!!」

 

 俺は剣を投擲する。剣が黒い魔物を貫く。

 剣が戻ってくるまでの間に、宙に漂う実体無い魔物に回し蹴りを入れる。煙を蹴るようで、手応えは全く無いが、俺は気にせず、大振りの蹴りや掌打しょうだを繰り出す。

「ふうん。その様子だと、実体の無い魔物の対処方法は知っているようだね」

 リードが感心したように言うが、小馬鹿にしているのだろう。

 戻ってきた剣を受け取って、頷く。

「奴らは実体が無いんじゃ無い。体をつなぐ力が弱いんだ。見えにくいが、目をこらしたり、気配で察する事が出来る」

「その通りだ。体を構成するのは、粉みたいな小さい物で、結合が弱いから、物理的な攻撃は聞かないと思われているが、実は弱い。アークレア!」

 言われてアークレアが詠唱を始める。

 城の1階ホールに、つむじ風が巻き起こる。

 よく見ないと分からないが、大量にホールにあふれかえっていた、実体の無い魔物たちがつむじ風に吸い込まれ、霧散していく。

「だから、広い面積での攻撃、極端に言えば、虫のように手で払うだけで倒す事が出来る」

 リードが笑う。

「奴らの厄介なところは、闇に紛れて、あまり見えなくなった時に、耳元で地獄の言葉を囁く事だ。お化けと違って、壁抜けも出来ない、実に弱い存在だ」

 常に上から目線で話されるので、何だか授業を受けているような気になる。まあ、興味深い話ではあるが。

「それにね、実は奴らは気にしなくても、最終的に結界内で消滅する事になっている。だから、実体のある奴らを優先して倒すだけで良い」

「わかった!」

 俺は答える。



◇    ◇

 


 白竜に炎を吐きかけられた、グラーダ軍の兵士たちは、炎が吐き終わり、一瞬のうちに上空に白竜が飛び去った後も、それに気付く事無く、地面に伏せて目を閉じていた。

「はああああぁぁぁ~~~」

 安堵のため息をついたのは、ラモラック将軍だけでは無い。地面に座り込んでしまった将軍もいた。

 無理も無い。絶対に防御不可能な、創世竜の炎をまともに浴びたのだ。

 未だに自分が無事でいる事が信じられない。

「は、はははは」

 乾いた笑いを漏らす。

「姿勢を正せ!!」

 ビシッと叱責したのは、一位のガルナッシュ大将軍だった。

「そ、そうでした!」

 ラモラック他、将軍たちは姿勢を正し、地面に伏している部下たちを眺める。

 はっきりとは分からないが、列に空白が見られる様に思う。


「では、た~~~てぇぇ~~~い!!」

 ラモラック将軍が号令を掛ける。

 兵士たちが一斉に立ち上がる。どの兵士も、自分たちが白竜の炎に晒されていた事など、みじんも気付いていない様だ。

「では、各部隊長に命ずる。直ちに点呼し、いなくなった兵士がいたら報告しろ!!」

 部隊長たちが、素早く動き、点呼を取る。


「いますでしょうか?」

 バハラム将軍がガルナッシュ大将軍に囁きかける。

「いたようだ・・・・・・」

 ガルナッシュ大将軍は、短く答える。

 

 点呼はすぐにまとめられた。

 結果、八万五千の兵の内、いなくなっていたのは8人だけだった。だが、ガルナッシュ大将軍たちにとっては、8人もいた事に衝撃を受ける。

「8人も地獄教徒が混じっているとは・・・・・・」

 エッダ将軍が小声で呟くと、バハラム将軍がジロリと軽率な発言を咎める視線を送る。エッダ将軍は、慌てて口を覆う。


 この場で、グラーダ軍が行ったのは、創世竜の、地獄教徒を見抜く力で、軍内部に潜入した地獄教徒を判別する事だった。

 これはジーンが提案して、白竜に直接頼みに行った物だった。白竜はそれを受け入れる。

 それから、緊急クエストに参加する将軍たちに伝達したのだった。

 方法として、白竜の炎で消滅した者が地獄教徒だと言う事である。

 これに親衛隊は参加していない。人数が少ないので、皆、身元が確かだからである。別の任務があるので、急ぎメルスィンに戻っていた。


「しかし、これでもう我々の情報は漏れまい」

 ガルナッシュ大将軍が頷く。

「では、次に移れますな」

「長くなるが、これからそれぞれ、ドロンですな!!」

 ラモラック将軍が、バハラム将軍の言葉を受けて笑う。

「各軍、バラバラになるが、示し合わせた通りの日時に、集結するぞ」

 ガルナッシュ大将軍が各将軍に指示する。

「兵士たちは、何も聞かされていない。動揺させぬようにするのだぞ」

 実戦経験豊富なバハラム将軍が告げると、ガルナッシュ大将軍含め、全員が頷く。

「では、彼の地で」

 言葉では伏せたが、各将軍が集う、最終目的地は、アインザークが王都ガイウスだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る