魔都ガイウス  ルドラ 1

 王城のあるガイウスのラインガルデン市は、丘の上の平地に広がる城塞都市だ。

 市の境界を、ぐるりと高い城壁で囲い、更に内側にも何層にも内壁が張り巡らされている。

 その為、城壁内の建物は、どれも狭く、道も細く入り組んでいる。場所によっては、人がすれ違うのがギリギリの道もある。路地裏になれば、すり抜ける事など子どもかネコしか出来ない有様である。


 今、市を囲む城壁が、青白い光を放っている。

 そして、1つ内側の城壁も光り、また1つ内側に城壁も・・・・・・。

 城壁内に住む市民たちは、異状な状態に困惑している。

 一番の異状は、王城である。

 王城全体が青白く輝き、天に向かって光を放っている。光は上空で5つに分かれ、市を覆う城壁に当たっている。

 5つの光の当たったところから、光線が伸びて、空に星形の線が浮かび上がる。

 

 人々が、王城と、空を見上げていると、王城の方から悲鳴が聞こえてくる。

 混乱した人が、狭い道を走って逃げてくる。

 その背後に、黒い異様な化け物が、濁流の如く、大量に迫ってきて、人々に襲いかかろうとしている。




 大使館の中で、暇をもてあましていたファーンは、窓から外を眺めていたので、いち早く異変に気付く。

「おい!!みんな!!魔物が出た!!」

 そう叫ぶや、仲間の準備が出来るのを待たずに、外に駆け出す。

「待って!!」

 ミルが急いで後を追い、ファーンを追い抜いて通りに飛び出す。

 パリーンと音が鳴り、2階のガラスがテラスに落ちる。そして、2階の窓から、ランダが、そして、舞うようにリラが地面に降り立つ。

 アールも、2階から飛び降りてくる。だが、アールとファーンは武器を持ってきていない。

「アール。これ使え!」

 ファーンが背中のリュックから、アールが隠し持っていた、折りたたみ式のなぎなたを渡す。自らは武器を手にしない。

「ちょちょちょちょ!ちょぉっと待ってくださいよぉ!!」

 エレナは、トリ獣人なのに、ドタドタと階段を駆け下りてくる。一応武器の長槍を手にしている。

「ミル、アール。行くぞ!」

 ランダの指示で、ミルとアールは、ランダを戦闘にして、押し寄せる魔物の大群に突っ込んでいく。

「よし!オレとエレナは逃げ遅れた人を助ける!!」

 ファーンが、その広い視野で周囲の状況を確認する。

「私はバックアップね」

 リラが杖を握る手に、力を入れる。

 早速、ランダたちが討ち漏らした魔物たちが、狭い通路を走ってくる。

 リラが指を空中に走らせようとした時、目の前に、長い柄の長刀が差し出される。


「おおっと!お嬢様方はお下がりめされい!!」

 古めかしく仰々しい言い方で、リラたちの前に進み出たのは、オレンジ色のフルプレートを着た、大男だ。

「女性を守るのは、騎士のつとめでござる!!ガッハッハッハッ!!」

 高笑いして、魔物に向かって通せんぼをするかのように長刀を構える。

「んん?こいつ、緊急クエストの時のガッハッハッおじさんじゃねぇか?!」

 ファーンが気付く。

「我が輩はまだおじさんでは無い!!」

 振り向くと、兜に面は無く、濃い眉に整えられた口ひげ。長くカールした睫毛に三白眼。大きな鼻と口の、かなり濃い顔である。

 そして、振り向いた隙に、魔物たちに体当たりされ、群がられてしまう。

「ぬおおおおっ!?卑怯なり!!」

「いや。魔物相手に卑怯って、あんた・・・・・・」

 ファーンが呆れる。

「もう。邪魔!!」

 リラが指を振ると、風が巻き起こり、オレンジの騎士に群がる魔物を空中に巻き上げる。

「ぬうう!そなたらは冒険者であったか?!」

 騎士が驚いた顔をする。

「覚えてねぇのかよ・・・・・・。あんた確か、ガーランドさんだったよな?!」

「うむ。その通りである!!」

 ガーランドは満足そうに頷く。

「騎士は女性を助けるんだろ?じゃあ、オレを助けてくれよ!」

 ファーンは人助けしたくとも非力である。助けるべき人は見つけられるので、馬力が欲しいところだった。

「は?」

 ガーランドが、マジマジとファーンを眺めてから、焦ったように頷く。

「お、おう。無論助けましょう、お嬢さん」

「・・・・・・お前、オレを男だと思ったな・・・・・・」

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