魔都ガイウス  魔都 4

 時はさかのぼる事、6月9日。

 緊急クエストが終わって、カシムたちがデナンの町で祝勝会を楽しんでいる頃。

 ダンジョンの包囲をしていたグラーダ国軍は、魔物の掃討と後始末を終えて、ダンジョン近くの平原に集まっていた。

 このとき集結していたのは、グラーダ国軍の十二将軍が率いる軍の七軍団。それと、一位の「堅雄」ガルナッシュ・ペンダートンが率いる第一軍で、併せて八万五千人の大軍団だった。

 7つの騎士団は、黄狐おうこ騎士団エッダ・ロッド。

 黒獅子騎士団バハラム・カムラン。

 白蓮びゃくれん騎士団ケレム・アスラン。

 紫蝶しちょう騎士団ティーダ・ルヴァイル・ディー・エレムス。

 灰狼はいろう騎士団ユース・アルトゥン。

 水燕すいえん騎士団クラック・ビタート。

 そして、十二将軍最強と目される紅烏べにがらす騎士団ラモラック・ペリナー。


「ようし、昨日訓練したヤツ、ここでやるぞ!!」

 ラモラック将軍が、陽気に声を張り上げる。

 その眼前には、八万五千人の兵士たちが、綺麗に整列している。

 騎馬隊も、馬は宿営地を設置して、そこにつないでいる。

 このだだっ広い平原には、ラモラック将軍の前に整列している人間以外には、誰もいない。

「他の隊も、大丈夫ですか~?」

 ラモラック将軍は、十二将軍の中では下から3番目の若者である。この場では水燕騎士団のクラックが唯一の年下だ。

 なので、全体への号令はしても、他の将軍に、一応遠慮して尋ねる。

 最年長の黒獅子騎士団のバハラムが、不愉快そうにしながら頷く。


「はい。大丈夫そうですね!じゃあ、かま~~~え~~~!!!」

 ラモラック将軍の声は良く通る。だが、八万五千人全体までは声が行き届かない。その為、陣の両端に同じく声が良く通る水燕騎士団のクラックと、紫蝶騎士団のティーダが立ち、指示を復唱する。

 拡声魔法もあるのだが、それを使わない。

「かま~~~え~~~!!!」

 八万五千人の兵士たちは、全員がその場に両膝をつき、手を地面に付ける。四つん這いの姿勢だ。

「この訓練に何の意味があるって言うんだ?」

 部隊長の1人が、小声で呟く。それを聞き咎めた副団長が、同じく小声で注意する。

「黙っていろ。将軍たちには、何かお考えがあるのだ」

 副団長は思う。いや。将軍と言うよりは、恐らくもっと上の・・・・・・。


「ふせぇぇぇ~~~~~い!!!!」

 ラモラック将軍が叫び、両端の二将軍も復唱する。

 兵士たちは全員が一斉に地に体を投げ出して伏せる。顔を真下に向けて目をつぶる。

 今、目を開けて立っているのは、将軍と一位のガルナッシュの8人だけである。

 その8人は、地面に伏せた部下たちでは無く、遙かな上空を、一心に見つめている。


『うおおおおおっっ!来た来た来た来た!!マジで来やがったぁ!!!』

 ラモラック将軍が心の中で叫ぶ。

 大胆不敵で勇猛果敢なラモラック将軍だが、全身から冷や汗が吹き出す。胃が持ち上がる程の恐怖感を覚える。


 上空から、凄まじい速度で、音も全くさせずに急降下してきたのは、創世竜の白竜である。

 白竜は、音はおろか、風すら起こさずに急制動して、グラーダ軍の上空100メートルほどの高さで静止する。

 白竜の口の周りが赤い光を発する。兵士たちに炎のブレスを吐きかけようとしている。

 地面に伏せている兵士たちは、上空で起こっている異変に全く気付いていない。

『尊敬しているし、信じていますよ、総長閣下!!俺もあなたに憧れて、グラーダ軍に入ったんだ!信じていますよ、剣聖ジーン!!でも、でも、これ、マジで大丈夫なんスか~~~?』

 叫びたい衝動を必死で堪える。

 それは、ここにいて、上空を見ている8人全員が同じ思いなのだろう。

 総長の義理の息子である一位のガルナッシュからして、かつて見た事が無いほどの険しい表情をしている。


 

 音も無く、創世竜の炎の息が吐き出される。

 どんな魔法防御も、火炎耐性も完全に無視した、純粋な温度の炎。創世竜の炎に耐えられる生き物は存在しない。

 その炎は、八万五千の兵士全体を、一瞬で覆い尽くす、とてつもない巨大な炎だった。



◇     ◇



 開催者にとっては愉悦と快楽の、被害者にとってはただひたすら苦痛の狂宴は、実に4時間以上にも及んだ。

 夕刻、日が西の水平線におちる時刻。

 デネ大司教が手を上げる。

 後ろに控えた信徒が太鼓を鳴らす。


 拷問が終わり、処刑が始まった。

 哀れな生け贄たちは、次々首を切られていく。せめてもの幸いは、すでに意識を失っている者が多かった事である。

「さて。これで儀式は済んだな」

 デネ大司教が笑う。

 興奮しきった信徒の中には、自らも命を絶ったり、首を切られた哀れな遺体にまで、姦淫行為を続ける者もいたが、それを誰も止めたりせず、狂気のはらんだ目を輝かせていた。


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