魔都ガイウス  魔都 2

 俺たちは、結局2日マイネーを待つ事になった。

 ただ待っていた訳では無い。

 いや、仲間たちは、まあ、ただ待っていただけだ。

 だが、俺は忙しかった。


 と、言うのも、普通の宿にはとても泊まれる状況じゃ無かった。

 監視者や、俺を籠絡するための罠(三文芝居)、訪問者が多く、少しも気が休まらないのだ。

 だから、即日、グラーダ国の大使館に避難した。

 グラーダ国は、各国に大使館を建設し、大使を派遣していた。同時に、グラーダ国内にも、各国の大使を大使館員として住まわせている。

 これはグラーダ条約での取り決めで、他国も同じシステムを取るかは自由だった。

 現在、この制度を取ろうとしているのは、アインザークと、トリスタン連邦、カナフカ国だが、近隣国の大使しか招けていないのが現状だ。


 そして、グラーダ国の大使館には、許可無く侵入する事は、例えその国の国王にもできない。

 侵入すれば、問答無用で切り捨て御免だ。


 大使館があるのは、王城のあるラインガルデン市内、王城近くだ。

 今、ラインガルデンには、多くの賓客がごった返している。

 俺は保護を求めると同時に、「ペンダートン」としての務めも要求される事になった。

 それこそ、竜騎士候補兼、ペンダートンである。

 だから、これまでの面倒を、搦め手無しで、正面から引き受ける事となった。

 

 朝から晩まで、他国のお偉いさんと、くだらない挨拶や、面会、宴会の繰り返しだった。

 

 だが、一度、グラーダ三世が、庭園で、貴族の女性と歩いているのを見かけた。

 女性は、気が弱いのか、真っ青な顔で震えつつも、懸命に愛想笑いをしていて、グラーダ三世は、憮然とした表情で、何とか言葉を探している風だった。

 それが愉快だった。

 どうも、再婚相手を探しているとか、噂が立っていて、各国、大急ぎで美女を用意するのに忙しそうだった。

 注文が「死にそうな女」とか、「死にたがりの女」とか、「気が弱い女」とか、「病気の女」とか、何ともおかしな趣味だと言う事になっている。

 遠方の国は、9月1日までに間に合わないと、嘆いている。

 まあ、グラーダ三世も忙しいようで、俺と直接会う機会は無かったのが救いだ。

 俺はもう良いのだが、グラーダ三世にとって、俺はまだ憎い相手なはずだ。世界会議を前に、邪魔してはいけないだろう。



 そして、忙しく2日を過ごしていた夕方、マイネーがくたびれた様子で、俺と面会してきた。

 一応、ペンダートン家と、獣人国大族長との面会という体裁を装っている。

 場所は、大使館では無く、俺に与えられた、王城の一室だった。

「おう。お疲れ・・・・・・」

 そう言うと、マイネーはドッカとソファーに座り込む。

「お前の方が疲れてそうだな?」

 俺は笑って、酒を注いだグラスをテーブルに置いてやる。もちろん、俺は飲まない。

 酒はおいしいとは思えない。料理に使われている分には良いのだが、アルコール分をまずく感じる訓練をしていたからなぁ。

「そうして見ると、随分貴族らしく見えるな」

 マイネーが酒をあおって笑う。

 今日は貴族風の服に、黒に銀十時の刺繍が入ったマントを身につけている。

 腰には、愛用の魔剣トビトカゲを身につけているが、他の武器や、鎧、アームガードは身につけていない。

 ペンダートンは黒と白が家の色なので、上着が黒、ズボンが白。所々銀の刺繍が入っているが、地味な見た目になっていると俺は思う。ただ、マントの裏地はえんじ色だ。これはオグマ兄さんのマントを借りている。

 兄さんたちにも会ったが、マントを借りただけで、話す暇などお互いに有りはしなかったな。


「まあ、面会時間もお互いに少ないんだろ?」

 俺が言うと、マイネーはため息をつく。

「他国の奴らは、ぶん殴ってお仕舞いには出来ないからな」

 その言葉に笑う。

「しかし、獣人国は、連合国から国にまとめるなんて、すぐに出来る事じゃないだろ?」

 それが、マイネーに課された仕事らしい。

「そうだよな。過去に血で血を洗う闘争があった部族だからな。簡単には行きそうもねぇな」

 マイネーがうんざりしたように首を振る。

「そもそも、世界会議も、なにをどう話す事やらだ。会議の期間も分かってねぇんだ」

 参加者、しかも、一番の同盟国である獣人国の代表であるマイネーですら、俺たちと同じ情報しか持ってないのか・・・・・・。

 さすがに俺も驚く。

「だから、会議が終わるだろ?で、その後、帰国して、会議の内容について話し合って、更にそれから取りかかる事になる」

 うわあ。これは終わらないぞ・・・・・・。

 俺の表情を読んで、マイネーも頷く。

「そうだ。すまねーが、竜騎士探索行に付き合えなくなっちまったかもしれん・・・・・・」

 そう言うと、マイネーはソファーから降りて、地面に膝をつき、手をついて、額を床にぶつける。

「この通りだ!男マイネーが、言葉をたがえた!本当にすまねー!」

 俺は驚き慌てる。

「や、やめろ、マイネー!そんな事しなくて良い!!」

 マイネーの腕を取って立ち上がらせようとするが、ビクともしない。

「いや!この筋は通させて貰う!」

 マイネーは床に頭をすりつけたまま微動だにしない。

「いや。多分手はあるはずだ!!」

 俺が言うと、マイネーが頭を上げる。

「何?手はあるのか?!聞かせてくれ!!」

「いや。出来るかどうかは分からないけど、他国では無理でも、獣人国なら可能なのかも知れない。一応話すけど、責任はとれないぞ」

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