魔都ガイウス 魔都 1
8月25日。太陽が傾き始めた14時頃である。
王城のあるラインガルデン市は、その市全体を、高い城壁で囲い、更にいくつかの層に分割する内壁も備えている、難攻不落の城塞都市である。
城壁の外は、全て丘の斜面となっているため、攻めにくく、守りやすい。
その歴史は古く、アインザーク建国以前から、この立地を生かして、城塞都市が築かれていた。
現在の城塞都市も、過去の物を、改修したり、改善して使われている。
だから、所によって、新しい箇所、古い箇所が見られる。
古い歴史を、その建物に凝縮した城は、カシムが見たら、何日も興奮して調べまくった事だろう。
だが、現在の国王はもとより、その城塞都市に住んでいる人々も知らない事がある。
それは、この城塞都市が立っている丘の一部は、中に大きな空洞があり、そこが、太古から続く、地獄教ラジェット派の総本山であると言う事を。
これまでは、ここに続く隠し通路を知っているのは、大司教と、3人の高弟たちだけであった。ただし、大きな儀式を行う時だけは、他の信徒たちも、高弟たちの案内で立ち入る事が出来る。
入り口は、ラインガルデン市の北、アーヘン市にあり、数キロにも渡る、長い地下道を経て、大空洞に至る。
現在、大空洞には、300人になる男女が集まっていた。
その内、信徒は200人ほど。
他は、攫って来た、
「良くこれだけ集めたな」
デネ大司教が、背後で跪くヴァジャに満足そうに言った。
しかし、ヴァジャは頭を垂れたまま、淡々と告げる。
「いいえ。私が集めたのは40名。他の者は私が集めた者たちではありません」
その報告に、デネ大司教が眉を上げて訝しむ。
「どういうことだ?」
尋ねられても、ヴァジャには答えられない。
「私が手配しました」
大男の魔導師、ロビルが感情の無い声で答える。
「計算したところ、当初の予定では足りないと思いましたので、60名ほど、信徒に用意させました」
デネ大司教は首を傾げる。
「それは良いが、目立つ行動にはならなかったのか?」
多くの人間を攫えば、捜査の目が向く。人の噂にもなる。
「みな、信徒の家族です。引っ越す事にして連れてこさせました」
「なるほど」
デネ大司教が笑う。
「家族を殺す自由を、信徒たちに与えよう。これは慈悲で有り、救いなのだ」
デネ大司教が満足そうに頷く。
「では、準備は出来ておるな?」
「後は大司教のお言葉があれば、すぐにでも」
ロビルの言葉には、何の抑揚も感じられない。
ヴァジャは、頭を垂れたまま、身動き1つしない。ウシャスはこの場にいない。カシムを探すため、ジンス派と共にガイウスのどこかの市を探しているのあろう。
袋を被された、哀れな人々は、皆服をはぎ取られ、地面に打ち付けらた杭に四肢を縛られる。女は四つ這いの姿勢で固定される。男は仰向けに寝かせられる。その周囲を、袋状の白い服を頭からかぶった異常な集団が取り囲む。
更に、斧を持った男たちもいる。
これから、デネ大司教の合図の後、哀れな生け贄たちは、男女問わずに犯されて首を切られて殺される。
その儀式を以て、地獄の穴を少しだけ広げる。
「皆の者。死と、生とは表裏一体」
一際高いところに、演台が設けられていて、そこにデネ大司教が登る。
「死と生が繰り返し行われる、永遠の楽園の到来のために、今は愛する家族に別れを告げよう。再び再会する時は、永遠を約束された世界である。さあ、新しい世界への扉を開けるのだ!!」
デネ大司教が、狂乱の宴の開始を告げる。
「うおおおおおおおおおっっ!!」
正気を失ったとしか思えない、大凶乱が始まる。
信徒たちが、縛られた生け贄に群がり、ひたすら犯す。
そこには、男も女も、老いも若きも関係ない。醜悪で邪悪な一方的な陵辱であり拷問である。
猿轡を外され、泣き叫んでも許される事は無い。
ヴァジャは、その場を立ち、外に向かう。
「なんじゃ。せっかくの饗宴を見ないのか?」
デネ大司教が振り返って尋ねる。
ヴァジャはニヤリと笑う。
「私には興味がありません。私が興味があるのは、復讐だけですから・・・・・・。ウシャスに遅れを取りたくありません」
ヴァジャの兄は、ペンドルン・ゼス。王妃護衛失敗の責任を取らされて、グラーダ三世に処刑された。
ペンドルンの家族は、罪の連座は免れたが、それで唯々諾々とグラーダ国内に住めるものでもない。他国へ逃れて、そこで一家無理心中した。
ヴァジャは、それまで、グラーダ国軍にあって、十二将軍、
戦士として、伸び悩んでいたが、あるときから急速に力を付けて、天才の名をほしいままにしていた、新進気鋭の若者であった。
だが、兄夫婦の悲劇を聞き及んで、騎士団を辞し、姿を消していたが、今は地獄教のラジェット派幹部である、高弟ヴァジャとなっていた。
胸にあるのは、復讐心。
その為に、己の快楽のためにカシムを殺そうとする、またはカシムに殺されようとしているウシャスごときに、先を越されてはならなかった。
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