魔都ガイウス  赤髪の烈虎 6

「で・・・・・・。これはどういうことですか?」

 リラさんが、めっちゃニコニコしている。

 ニコニコしているが、ものすごぉ~~く怒っていらっしゃるのが分かる。

 俺とファーンとエレナに対面して、リラさん、ミル、ランダ、アールがテーブル越しに座っている。


「女の人が、また増えた・・・・・・」

 ミルがぼそりと呟く。

「だ、だから、マイネーが抜けて、代わりにエレナがメンバーに加わらざるを得ない状況になった訳で・・・・・・」

 俺はしどろもどろ、もう一度説明しようとするが、滝のような冷や汗で、思考がまとまらない。

「ああ。そう言う事だな。女がまた増えちまったって事だ。ヒヒヒ」

「『ヒヒヒ』じゃないでしょ!?なんでファーンは笑ってられるんですか?!」

 ついにリラさんが叫んだ。なんで俺は怒られているんだか、全く分からないが、とにかく俺が悪いのだろう。肩を縮こまらせてしまう。

「そ、そうだよ。エレナだって乗り気じゃ無かったんだから、それなら無理してパーティーに加わらなくっても良いよな?マイネーやノインさんには、俺から話せば澄む事だし!!」

 俺の提案に、リラさんの表情が明るくなる。

「ええ?!あたし、いつ嫌だって言いました?」

 ところが、エレナが非常に明るい顔で俺の言葉を否定する。

「は?」

 俺とファーンが目を丸くする。

「やだな!竜の団に入れるなんて、すごい事じゃないですか!?何このメンバー?ここは天国?!」

 すごいハイテンションだ。

「お、おい、エレナ。さっきと違うじゃ無いか?!」

 俺がエレナの肩を揺さぶる。すると、エレナが俺の事を睨み付ける。

「触らないでくれますか?この変態!!」

 ぐああ!!そんなつもりは無いんだ・・・・・・。だけど確かに、素肌の肩に触るのはまずかったか・・・・・・。

「ちょっと!あなたカシム君になんて口をきいているの?!」

 リラさんが、真っ赤になって立ち上がって怒る。

 すると、すぐにエレナが謝る。

「ああ。ご、ごめんなさい。あたしったら、つい・・・・・・」

 それから、目に涙を浮かべて告白する。

「ごめんなさい。本当に悪気は無かったんです。ただ、あたし、男性恐怖症だから、ああいう態度になってしまうんです」

「え?だ、男性恐怖症?」

 リラさんの激昂が音を立てて引いていく。

「はい。男性恐怖症です」

 エレナが語り出す。


「獣人族には、古くから『略奪婚』と言う習慣がありました」

「略奪婚?」

「はい。部族内での血が濃くならないようにと、男が強さをアピールするために、近隣の部族から女をさらって、強引に結婚する習慣です。もちろん、連合国になってからは禁止になっていますが、最近また流行りだしたんです。」

 俺も聞いた事がある。他国では、かなりの重罪だよな、それ。

「あたしも、強引に攫われて、あと少しで手籠めにされるところを、マイネー大族長に救われたんです。だから、大族長の命令なら、あたしは命も賭けます。・・・・・・だけど、その時に抱いた男の人への恐怖は消えません。だから、反発する事で、恐怖から逃れようと、反射的に汚い言葉を使って、嫌な態度を取ってしまうんです・・・・・・」

 そう言うと、エレナは泣き崩れる。

「・・・・・・そうだったの。それは辛いわね」

 リラさんももらい泣きしている。ミルはキョトンとしている。お子様には早い話だったな。逆に知られたらヤバいな。

 とはいえ、そういう事情なら、俺も気にしないでおこう。むやみに触ったり、近寄るのもまずいよな。

「でもね、エレナ。カシム君は私たちにとって大切な人なの。だから、出来るだけ、酷い言葉を使わないように努力してもらえる?」

 リラさんがいたわるように言い含める。さすがだな。

「分かっています。でも、我慢すると恐怖で頭がおかしくなりそうなの。頑張るけど、ダメだったら、あたしを殺してでも止めてください。もう、怖いのは嫌なんです」

 そこまでなのか・・・・・・。俺もリラさんも、エレナの身の上に、激しく同情してしまう。

 リラさんが俺をちらりと見る。俺は黙って頷いた。

「わかったわ。無理は良くないわね。ゆっくり、カシム君を知って行ってね。そうしたら怖くなくなるかもしれないから」

 そうだな。俺の行いで、エレナを男への恐怖心から解放出来るかも知れないんだ。頑張るしか無いな。

「じゃあ、ランダも気を付けてやってくれ」

 俺がランダに声をかけると、ランダは口をへの字にしてため息をついただけで、頷きもしない。

 不器用そうだから、ランダに無理強いも出来ないか。

「じゃあ、あらためてよろしくね」

 リラさんが手を差し伸べると、エレナがすがりつくようにその手を取る。

「はい!よろしくお願いします!あたし、トリ獣人のバンドラット・エレナ!16歳です!!」

 あれ。すっげぇ元気。

 めちゃくちゃニコニコしている。

「・・・・・・『バ』がつくな」

 ファーンがぼそりと不安げに呟く。それを耳ざとく聞き咎めたエレナが悲痛な叫びを上げる。

「違います!!エレッサの3バカたちは名前に『バ』が付くけど、あたしのは苗字に『バ』が付くだけです!!一緒にしないでください!」

 ああ。そうだったが、どうなんだろう。

 何だか不安になってきた・・・・・・。

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