魔都ガイウス  赤髪の烈虎 5

 むくりとマイネーが起き上がり、口の中から、ペッと血を吐き出す。

「ああ?!逃げてねぇよ!」

 マイネーが言い返す。

「逃げてるだろうが!『連合国』から『国』にするとか、大風呂敷広げといて、後は丸投げで逃げ出したんだろうが?!」

 ノインさんが吠える。

「オレ様はどうせ、任期終了間近だったんだ。『国』にするなら早いほうが良いから、少しだけ早めに任期を終える事を決断したんだよ!!」

 マイネーが立ち上がる。ダメージ無いかのように振る舞っているが、膝が揺れている。しっかり効いているよ。

「男が一度口に出したんなら、自分で実行しやがれってんだ!!」

 再び襲いかかりそうな勢いだ。これ、大丈夫なのか?!

「オレ様じゃ無くても良いだろ?!ガラじゃねーんだよ!!お袋様こそ、元将軍なんだ!!適任だと思って大族長に任命したんだよ!!」

 マイネーも食い下がる。しかし、分が悪そうだ。

「ああん?いっちょ前に反抗期かい?!」

 ノインさんが挑発する。

「反抗期じゃねー!普通の反応だ!!それに、反抗期の時期には冒険者やってたんだ!!」

「そうだよ!勝手に出て行っちまったんだろ?この親不孝の不良息子が!!!」

 ジリジリとお互いに距離を詰めていく。

「だから今、殴られてやっただろうが?!」

「はぁん?避けられなかったの間違いだろうが?!!」

 話の方向も雲行きも怪しい。全く口を挟む間もなければ、そんな度胸も無い。

「てめ、いい加減にしやがれよ!」

 マイネーがメキメキ音を立てて獣化し出す。

 同じように、ノインさんもメキメキと獣化する。

 ファーンとエレナはガタガタ震えてお互いに抱き合っている。俺も、出来るだけ壁際に寄る。


「偉そうな口の利き方してんじゃねぇぞ!ひよっこがぁ!!」

「『偉そう』じゃねぇ!偉いんだよ!!まだ大族長なんだろ?オレ様はぁ!!」

 ズシン、ズシンと足音を立てて互いに距離が縮まる。俺の寿命も縮まるようだ。

「それが母親に対する口の利き方かって言ってるんだよ!!誰の腹から出て来たと思ってやがんだ!?」

 ノインさんが両腕を上げて吠える。

 それに答えるように、マイネーも両腕を上げて吠える。

「わかってんよ!!だから感謝もしてるし、尊敬もしてるだろうが!!」

 ノインさんの動きがピタリと止まる。

 マイネーも、その様子に動きを止める。

「な、なんだよ・・・・・・。わかってんじゃねーか」

 ノインさんが頬を赤らめて獣化を解く。

『デレた?!』

 拍子抜けしたように、マイネーも獣化を解く。


「あんたも言うようになったねぇ」

 急にニコニコ笑顔になるノインさん。俺たちは言葉も無い。

「いや。尊敬してるし、信頼してるから任せようと思ったんだろ?」

 マイネーが肩をすくめる。

「ああ!それはそれ、これはこれだ!!いいかい?大族長はあんただ。あたしは軍の組織や訓練はやってやる!あんたの仕事は、この世界会議と、連合国をまとめて1つの国にする事だ!それが出来たら、即、大族長は辞めても良い!!わかったかい?!」

 ノインさんがマイネーの腕を引っ張る。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!今すぐか?」

「今すぐだよ!代表者連中が困ってるんだよ!!」

「でも、オレ様がいねぇと、カシムたちが困るんだよ!!」

「あんたがいなくてもこの子たちなら大丈夫だよ!あたしが保証する!!」

 俺たちには一瞥もくれずに、ノインさんはマイネーの腕をグイグイ引っ張る。

「エ、エレナ!!オレ様の代わりにカシムたちを頼む!!大族長命令だ!!」

 マイネーが叫ぶ。

「ええ?!嫌です!!」

 エレナも叫ぶ。

「うるせぇ!黙って言う事聞きやがれ!!」

「エレナ!その子たちについていきな!ハンパしたら、あたしが許さないからね!」

 背を向けたまま、ノインさんが凄む。これは怖い。

 どんどん遠ざかりながら、マイネーが叫ぶ。

「カシム!悪いがちょっと待っててくれ!一度話をしたい!」

 一応、俺も叫び返す。

「無理するなよ~」

 それが精一杯だった。

 そして、マイネーは、ノインさんと坂の下に消えていった。




「強烈だったなぁ~~」

 俺たちは、トボトボとギルドに向かって歩く。

 途中で、ようやくファーンが呟いた。

 俺も力なく頷く。

 エレナも、かなり力なくうな垂れて付いてくる。すっかり沈んだ表情だ。

 それはそうだ。誰が好き好んで竜騎士探索行に付き合うんだって話だ。それが、無理矢理他人の命令で行く事になったんだ。俺も同じ立場だったから、今のエレナの心境は痛いほど分かる。

 掛ける言葉もないって奴だな・・・・・・。

「それにしても、マイネー離脱か・・・・・・。これは戦力的にかなりマイナスだな・・・・・・」

 ファーンの言う通りだ。俺としても、気安く話せる男のメンバーの離脱は、精神的に厳しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る