魔都ガイウス  赤髪の烈虎 3

 男たちはカシムのレベルを知っていた。例の「ただいま冒険中」でユリーカがばらしていたからである。

 強気に出る以上、男たちの方がレベルはずっと高い。

「おい。いいのか?」

 カシムがマイネーに囁く。

「かまやしねぇ。あいつら冒険者じゃねぇ。傭兵崩れだ」

「確かに。ランクのプレートねぇよな」

 ファーンが、ちらりと後ろから付いてくる男たちを見て言う。

「それに、大将を馬鹿にされたのが気にくわねぇ」

 マイネーはかなり腹を立てている。

「俺は気にしないけどな」

 カシムが澄まして言う。

「オレ様が気にするんだよ!」

「わかった、わかった。でも建物とか壊すなよ」

 カシムが心配するのは、周囲への被害だけだった。

「心配ご無用!!」

 マイネーが胸を張る。


 人通りの少ない路地裏まで行ったところで、カシムたちは男たちと向かい合う。

「それで、なにが聞きたいんだ?」

 カシムが一応尋ねる。

「竜騎士になる方法だよ」

 リーダー格の男が言う。

「だから、そんなの知ってたら、俺だって苦労してないっての」

 カシムが、うんざりした表情で、ため息をつく。

「そりゃあ、ただでは教えてくれないよな・・・・・・」

 そう言うや、男たちは武器を抜く。

「一応言っておくが、この男は、あのランネル・マイネーだからな」

 これで、引き下がってくれれば楽で良いとカシムは思うが、やはり無駄だった。

「知ってるよ!俺は小僧をやる!お前らは化け物とやれ!こっちは7人もいるんだ!化け物でも退治できる!」

 そう言うや、男たちが武器を振りかざして飛びかかってくる。

「オレは?」

 レベル3と知られているので、誰も向かってこないファーンは、暇そうに壁に寄りかかる。



 カシムに向かって行った男は、振りかざした剣を、あっさり受け止められて、ひねり取られる。そのまま腕をねじ上げて地面に倒されて、後頭部に一撃肘を落とされて気を失う。

「技はレベルじゃないんだよ」

 対人戦なら、カシムは相当に訓練されている。命のやりとりさえしなければ、この程度の男には負けない。


 振り返ると、マイネーの方も終わっていた。

「有象無象が!!」

 まだ怒りが収まらない様子で、マイネーが吠える。


「しかし、他の竜騎士探索行者か。考えても見なかったな」

 カシムが呟く。

「まあ、その点では、こいつらの言うように、保険として、他にも候補がいた方が良いかもしれないよな」

 ファーンが呟く。

「創世竜が認めりゃあな」

 マイネーは面白くも無さそうに呻く。

 その時、上空からカシムたちの元に2つの影が舞い降りる。



◇     ◇



「まずは洋服ね」

 リラは機嫌良さそうに、街を歩く。

 追跡者はいない。

 ミルが発見して、リラが待ち伏せして、精霊魔法で意識を失って貰ったからだ。

「乱暴な手を使うな・・・・・・」

 ランダが呆れる。

「付けてくる人たちが悪いの」

 リラは憤慨しながら言う。

「ふむ・・・・・・。それはその通りだな」

 ランダが苦笑する。

「アールちゃんの変装が、もっとちゃんと出来るようにしないとだね~」

 ミルがダボダボのマントを身につけて、手も出せないでいるアールの裾を引っ張る。

「すみません」

 アールが申し訳なさそうに言う。

 

 アールは、時々洗脳と戦うように頭痛を訴えたり、ボンヤリするが、平素は穏やかで、物静かだ。生真面目で、律儀な所もある。

 アールは獣人では無く人間族である。年は15歳だと自分は思っている。だから、カシムが兄でもおかしくは無い事になる。

 自分の出身地の事も覚えていないが、兄が自分を殺し屋から助けようとして、崖から落ちた事。アールはその後、殺し屋に攫われて訓練された事を覚えている。

 今も、崖から落ちていく兄の顔が忘れられない。

 兄は生きていて、どこかに捕らえられている。その手がかりと引き替えに、アールは厳しい訓練を受け、暗殺者として働いてきたのだ。


 今、アールは武器は身につけていない。

 自ら望んでそうしている。寝るときは手足を結んで貰う。そして、兄と慕うカシムに触れて貰い、「また明日」と行って貰う事で安心して目を閉じている。


 だが、夢を見る。

 カシムが、幻のように消えてしまう夢。それと、自らの武器がカシムを刺し貫く夢。

 どちらも恐ろしいが、後者の方が寄り恐ろしい。

 アールは、夢の事は誰にも打ち明けられないでいた。口に出すと、それが現実になってしまいそうで・・・・・・。


「服はお任せします」

 アールがぺこりと頭を下げる。



 あれやこれやと服屋や武器防具の店を巡り、着せ替えをして、しばらくは魔法使いの様に振る舞う事に決まる。

 いかにも魔法使いらしいマントと、帽子と杖を購入した。

 顔の左半分だけの仮面を身につけている。

 マントの下は、タイトなロングドレスとなった。リラが選んだので、スリットが入っている。

「可愛いのが良かった~」

 ミルは、派手な色や模様が入った服ばかり選ぶ。

「冒険者としておかしくなくって、アールからかけ離れた職業を選んだの!私だって、もっとおしゃれさせてあげたいわよ!」

 リラもやや不完全燃焼だった。

「じゃあ、部屋着と水着も買っちゃおうよ!!」

「そうね!!」

 2人は張り切り、アールは申し訳なさそうにする。

 一番の苦痛を感じているのは、女の買い物に付き合う形となっているランダだった。

「俺は選択を誤ったかな・・・・・・」

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