魔都ガイウス 赤髪の烈虎 1
「麗しの白の都」。
東の大国と言われるアインザーク国の王都ガイウスは、そう称されている。
海に面した都は、急勾配から、緩やかな坂になり、丘の上まで広がる都である。
いくつかの湾を持ち、南北に細長い。
丘を越えた太陽は、昼から夕方までを、ギラギラと照らす。
空気が乾燥しているので、気温はそこまで高くなくとも、日差しは強いため、日焼けしている人が目立つ。
南部の丘の上の方では、段々畑が広がり、オリーブやブドウなどが特産品として栽培されている。
「白の都」と言うのは、その丘の斜面に建てられた建物の壁が、皆眩しいほどの白だからである。
屋根は瓦屋根で、明るいオレンジに統一されている。
元々、決まりがあったわけでは無く、材料の都合でそうなったのだが、景観が統一されていくと、住人たちが拘りを持ちだして、今では法的に取り決められている。
都市「ガイウス」は、いくつかの区分がされている。
王城があるのは、ガイウスのやや北側、ラインガルデン市である。丘の上の開けた高台に広がる城塞都市である。その為、丘の斜面に広がるブラウハーフェン市から見上げると、城壁が長くそびえて見える。
冒険者ギルドがあるのは、この、港に面したブラウハーフェン市である。
カシムたちが、ガイウスのブラウハーフェン市に到着したのは、8月23日の事であった。
「さて、聖竜承認失敗の報告をしないとな」
カシムたちは冒険者ギルドに向かう。
「いいのか?」
ランダがぼそりと囁く。
通りには沢山の人が行き交っている。
道は入り組み、狭い。更に階段や坂がずっと続いている。
他国から来た人間が見たら、生活するには、少し厳しそうだが、都市に住む人々はそれほど不便さを感じていない。
幼い頃から坂があって当たり前の生活だったのだ。
壁もまっすぐな壁は少なく、湾曲してクネクネ続いているので、迷路に入ったかと思ってしまう。
ただ、アメルのように、上がって、くぐって、戻って、行き止まりがあってと、理不尽なまでの本格的な迷路都市では無い。
ランダが囁いた事に、カシムが頷く。
「まあ、仕方が無い」
「結構な数いやがるな」
マイネーが涼しい顔して言う。
カシムたちは、ガイウスに入る少し前から、誰かに追跡されていた。
ガイウスに入ってからは、追跡者の数が増えている。
「ミル。勝手に様子見に行くなよ」
カシムがミルに釘を刺す。以前、ランダがカシムたちを追跡してるのを察するや、勝手にランダと接触しに行ったのだ。
「え?ダメなの?」
キョトンとしてミルが言う。行くつもりだったようだ。
「ダメだよ。必要になったら俺が言うから、それまで離れるなよ」
カシムがため息交じりに言うと、ミルは「わかった」と元気に返事をする。
「アールも離れるなよ」
「はい。兄様」
アールはランダの灰色マントを貸して貰って頭から顔まで隠している。かなり丈が余っているので、腰で縛って長さを調節しているが、それでもだぶだぶで、かなり奇妙な恰好になっている。第一、腕が出せなくなっている。
「先に、ちょっと服とか買った方がいいな」
カシムがアールの様子を見てため息を漏らす。
「それでしたら、私たちは別れて買い物してきましょうか?」
リラが提案するので、カシムは少し思案する。
追跡者がいる状態で、分散しても大丈夫なのだろうか?
「それなら、俺も同行しよう」
ランダが言う。ランダとリラがいれば、大抵の事には対処できるだろう。あとは、ミルも行かせるのだから、ハイエルフに軽々に手を出すヤツもいないだろう。
カシムはそう考えて、パーティーを2つに分ける事にする。「じゃあ、俺と、ファーンとマイネーでギルドに行ってくる。リラさんたちは、買い物をしてきてください。観光もしてきて貰って良いので、夕方、5時にギルドで合流しましょう」
そういう事になり、カシムたちは二手に分かれた。
別れると、追跡者の大半はカシムに付いてくるが、ごく一部がリラたちの方に向かったようだ。
「奴らの目当ては大将だからな」
マイネーが笑う。
「きゃーーーー!」
不意に前方から悲鳴が上がった。カシムたちが見ると、前から女の人が走ってくる。
金髪の美しい女性が、上着の半分を引き裂かれたようで、必死に逃げてくる。
その女性は、カシムたちを見ると、急いでカシムの後ろに隠れるようにして身を寄せてくる。
「た、助けてください!悪漢に襲われました!」
見ると、人相の悪い男たちが、ナイフやら棍棒を手に4人現れる。
カシムは女性に頷きかけると、そっと肩を押して、自分から離れるように促す。
「おうおう!なんだてめーらは?!」
「俺たちの邪魔するんじゃねーぞ!?」
男たちが下品に笑って、これ見よがしに武器をちらつかせる。
カシム、ファーン、マイネーの3人は、そんな男たちに臆する事無く歩み寄り、そのまま素通りする。
「は?お、おい!ちょっと待ちやがれ!!」
男たちが狼狽する。
「邪魔しないから勝手にやっててくれ」
カシムが振り向きもせずに手を振って歩み去る。
残された男たちも、女も呆然とする。
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