魔都ガイウス  蠢動 3

 各国の代表団が到着すれば、更に水面下での蠢動が激しくなる。

「アインザークを追い落とす算段は付きましたかな?」

「いや、闘神王がもう来ているそうでは無いか。それでは難しいのでは?」

「そうとは限りませんぞ。逆に、闘神王の目の前での失態となれば、もうアインザークは取り返しがつかんでしょう」

「言うは易しだ。具体的な手段はあるのか?」

 酒場の奥の個室では、複数の国の代表者、または、その随伴の官僚たち、貴族たちが顔をつきあわせて話し合っている。



◇     ◇



「私どもは、あの者どもを手引きして入国させております。すでに儀式を始めているとの事です」

 ある国の貴族が、声を潜めて報告する。

 これは酒場などでは無い。アインザーク国にあてがわれた、豪奢な館の中の一室である。

 その報告を受けた太った男が満足そうに頷く。頭には宝冠が煌めいている。



◇      ◇



「グラーダ一強時代に終止符を打ってやろう!」

「今や世界の多くの国が力をつけた。狂王騒乱戦争では、大同盟すること無くグラーダと各個に戦をしたために敗れたが、団結すれば、いかなグラーダといえども打ち破る事が出来よう!」

「そうだ!我が国の魔導師軍は、その数を1000に増やしている。装備もかつてとは比べものにならないくらい整い、兵士も精強だ!」

「今はグラーダの内情も不安定と聞く。好機ではないか?!」

「・・・・・・聖魔大戦はどうする?竜騎士はどうする?」

「なんと愚かな!狂王の狂言を信じるのか?」

「いや。妄言ですな。はっはっはっ」

「笑うのは構わぬが、我が国は、魔物の被害が増えている。妄言だと無視する事は出来なくなってきた」

 その言葉には、他の国の参加者も黙る。

 どの国も、大なり小なり、魔物やモンスターの出現頻度が上がっている。言いしれぬ不安を感じてはいるのである。

「・・・・・・だからといって、聖魔大戦を主導するのがグラーダである必要はあるまい。竜騎士がグラーダの傘下にはいったら、もはやグラーダの世は覆らないぞ」

「まあ、落ち着け。確かに竜騎士は必要だが、それがグラーダの息の掛かった者である必要は無い。創世竜が言い伝え通りに承認を与えると言う事が分かったんだ。他の候補者を竜騎士探索行に差し向ければ良かろう。実は我が国でも、数組の冒険者に命じている」

「・・・・・・それは我が国も同じだ。だが、一組は全滅している。金ランクの優秀な冒険者たちだったのだが・・・・・・」

 


◇     ◇



 様々な考えを持つ者たちが、世界会議の前に、蠢いている。

 それは、グラーダ三世も同様だった。

「クックックッ。后捜しだと?そんな噂があるとは愉快だ」

 対面しているアインザーク国王リヒテンベルガーは、その笑い1つにも神経をすり減らす。

 今回の会合は、カーマン大臣と親衛隊長のキースも参加している。

 リヒテンベルガー王が1対1の状況から逃れるために提案して受け入れられた。

 カーマン大臣は、やむを得ず仕事の一部を他人に任せる事になった。

 キースは、暇つぶしになると喜んで参加している。


「市井の噂です」

 リヒテンベルガー王が言うと、グラーダ三世が鼻を鳴らす。

「俺が愛するのはアメリア王妃ただ1人。他の后など考えられんな・・・・・・」

 グラーダ三世のアメリアへの思いは一途だ。

 リヒテンベルガー王は、グラーダ三世の不興を買ったと思ったが、グラーダ三世の背後に控えるキースが眉を上げて、「問題ない」とサインを送ってくるので、内心胸をなで下ろす。

「だが、その噂を利用するのも面白いかも知れんな。狂王らしくて他国の阿呆どもがどう踊るか見物だな。リヒテンベルガー王よ。后を新たに迎える気は無い事を承知で、適当な人物を紹介してもらえんだろうか?」

 

 キースは驚く。グラーダ国にとっては、今のグラーダ三世の発言は一大事件である。

 グラーダ国の臣民は、グラーダ三世が新しい后を迎える事を切実に望んでいる。だが、誰もその事をグラーダ三世に諫言してこなかった。

 それほど、グラーダ三世はアメリア王妃を思っていた。

 かつて、新しい王妃を迎えるように諫言した者があった。だが、それに対して、グラーダ三世が言ったのは、ただの一言である。

「リザリエが相手なら考えよう」

 その一言で、それ以後、この話題を、少なくともグラーダ三世の前で口にする者はいなくなった。

 リザリエは皆に慕われ、尊敬される大賢者である。王妃に迎えるに、不満など有りはしない。だが、同時に、リザリエが望まぬ結婚を強いる事は、誰にも出来なかった。

 ましてや、リザリエは、その当時で50歳を過ぎている。それでは、跡継ぎは望むべくもないのだから本末転倒である。


 そんな事情から、戯れとは言え、王妃候補と会う事を明言したグラーダ三世の言葉に、キースは歓喜した。

 全力で首を縦に振り、リヒテンベルガー王に手配して貰うよう勧める。

「承知しました。幾人かの候補を見繕いましょう。無論、断られても問題ない相手を選びます。・・・・・・事のついでに窺いますが、好みの女性はどんな方ですかな?」

 グラーダ三世の後ろに控えるキースは、リヒテンベルガー王のナイスパスに、心の中でガッツポーズを作る。グラーダ国内では、その手の話は聞く事など出来ない。

「そうだな・・・・・・」

 珍しく、グラーダ三世が真剣に考える。

「どうも、俺は儚げな女性が好きなようだ。なまじ俺が強いからと言うのもあるが、俺を生んで死んだ母が、生まれつき病弱だったそうだ。それと重ねて見ているのかも知れぬ。だから、儚くとも、懸命に生きる女性には好感を覚えるな・・・・・・」

 キースは思う。

『これって誰かに話して良いヤツなのか?秘密にしなきゃいけないのか?しゃべりたい!誰かにしゃべりたい!!!』

 そんなキースの葛藤した表情をどう受け取ったのか、リヒテンベルガー王は、真面目に頷いて答える。

「せっかくですから、そう言った女性を探してみましょう。ご都合はいつがよろしいですか?」

「こっちは暇だ。いつでも構わんが、出来るだけ早くなくては意味が無い」

 世界会議の前に、色々な噂を流して、各国を惑わせるのが目的なのだ。

 リヒテンベルガー王は、自身の後ろに控えるカーマン大臣を振り返ると、即座にカーマン大臣は無い首を縦に振る。

「では、さっそく明日にでも1人ご紹介いたしましょう」

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