魔都ガイウス 暗殺者 4
「何で?!」
「まず、村に戻るのはまずい。多分、カシムは村で蝙蝠のメンバーにマーキングされたんだ。だから、この女はカシムの事だけを狙った。次に、本当に蝙蝠の仕業なら、こいつは重要な証人になり得る」
「なるほどな。でも、洗脳されているんだから、ぺらぺらしゃべったりしないだろう?」
訓練もされているはずだ。
「それだが、この女に限ってはそうとは言えない」
マイネーが断言する。
「なぜ?」
「カシム。お前に自分の名前を言ったろ?洗脳が半分解けている」
マイネーはそう言うが、俺にはよく分からない。
「そもそも、なんでこいつはカシムの事を『兄様』なんて呼んだんだ?」
ファーンが尋ねる。俺もそれは知りたいところだ。
「蝙蝠の洗脳方法に、大切な人がいると思わせる事。その大切な人を探し出すために暗殺業に手を染めるのも止む無しと信じ込ませる事がある。洗脳のごく一部だがな。で、こいつが大切な人として思い描いていた人物像が、たまたまカシムにそっくりだったんだろうな」
「そんな『たまたま』あんのかよ?!」
ファーンが肩をすくめる。
「あったんだろ?カシムならあり得る」
「ああ。そっか」
仲間たちが頷く。
おい。そんな一言で納得するなよ!!俺は憮然とする。
「後な。こいつは最初からここで使い捨てにされる予定だったようだ。だから、生きていれば、間違いなく殺される。そうなったらまずいからな」
これには俺も頷く。
「しかし、マイネー。あんた随分詳しいな」
俺が問うと、マイネーが苦々しげに頷く。
「この女は人間族みてぇだが、そもそも『闇の蝙蝠』の里は獣人国にあった。首領のヴァンはコウモリ獣人だ。この問題は獣人国の問題でもあってな、ジーンとも協力して調査してきていたんだ」
祖父も、まだ調査を続けていたのか・・・・・・。
「とりあえず、リラさんには申し訳ないけど、こいつは連れて行かせて貰います」
マイネーがそう断りを入れると、アールをヒョイと担ぎ上げて、自分の馬の後ろに乗せて、馬の胴の下で手足を結ぶ。
「・・・・・・そういう事になりました」
俺が告げると、リラさんは小首を傾げるし、ランダは首を振る。ミルはふくれて、ファーンは「ヒヒヒ」と笑う。
これって、俺がいけないのか?
状況が状況だ。俺たちは出来るだけ隠密行動を心がける。
その為、村や人家を避けて移動し、夜になる前に林の奥にキャンプの設営をする。
木立と窪地とで、周囲からは見えない位置で、更にカモフラージュもして、出来るだけ目立たなくする。
窪地なので、わざわざ林の奥に入り込んで、縁からのぞき込まなければ分からないだろう。あとは、馬が静かにしてくれていれば問題ない。
雨は小降りになっているが、まだシトシトと降り続けている。
石を積んで炉を作り、そこで火を焚く。明かりは外には漏れないだろうが、小さい火でマントや濡れた体を乾かす。
ここまで北に来ると、夏とは言え、濡れたままだとかなり寒い。
俺たちは着替えをして、食事の準備をする。
女性陣が、捕らえた女にも着替えをさせる。リラさんがいるから、万が一女が意識を取り戻して暴れても大丈夫だろう。
「呆れた・・・・・・」
女に乾いた服を着せ終えたリラさんがため息をついて仕切りから出てくる。
手には長柄の長刀が握られている。
「あの子のズボンの中に、こんな物まで折りたたまれて入っていました」
「ええ?!」
そう言えば、身体検査もせずに連れてきてしまった事に、今気付く。マイネーも申し訳なさそうにしている。
「それだけじゃないぜ。他にも、な」
ファーンが鎖分銅やかぎ爪、針などの暗器を両手にして出てくる。
「何も持っているように見えなかったのにな・・・・・・」
マイネーが唸って立ち上がると、仕切りの向こうの女を連れに行く。
「きゃあ!ゴリラ!ミルがまだ着替えてるんだよ!!」
ミルの悲鳴がする。
「おう!すまねぇな!あんまり魅力的な着替えシーンなんで、カシムだったらいちころだったぜ!」
「え?本当?!嬉しい!!」
マイネーの切り返しに、あっさり引っかかるミル。あいつチョロいな。
マイネーが女を担いで仕切りから、ミルと一緒に出てくる。ミルはニコニコしている。
女には、ファーンの着替えを着せている。ちょっとダボッとしている。女の方がファーンより小柄だからな。
「なんか、こう。暗殺者の里とか言うから、コウモリの入れ墨とか、何か『しるし』みたいな物が体にあるかと思ったけど、綺麗な体だったぜ」
ファーンが報告する。
「カシムは変な想像するなよな!ヒヒヒ!」
余計な事は言わなくても良い。
「あのな。んなわかりやすい印があったら、すぐにバレちまうだろ?!女の暗殺者なんてな、ぶっちゃけ、男と寝て殺すなんて事もするんだ」
マイネーが呆れたように言う。
そういう話は聞いた事がある。だから、ファーンが言うように、綺麗な体なのかは、正直わからないな。
「ああ。すまねぇ。そうだよな・・・・・・」
ファーンがうな垂れる。
「じゃあ、ちょっと確認してくるか」
ファーンが立ち上がるんで、俺は吹き出してしまう。
バカか!センス・シア並に下品だぞ!!
そう言いつつドキドキしてしまう。
「確認するまでもねー。こいつは処女だな」
マイネーが平然と言い切る。
冗談のつもりだったファーンがコケる。
「なんでわかんだよ!?見たのか?」
おーい!どんどん話が下品になっていく。内心は楽しいが、ミルやリラさんもいるから、そろそろやめてくれ。
「オレ様はトラ獣人だ。そんくらいは匂いで分かるんだよ」
さも当然の様にマイネーが言う。
「いやいや!トラ獣人だからって何でだよ!?」
ファーンはめげない。
「知らねぇよ!遙か昔は、敵の処女を喰うなんて習慣があったそうだ。阿呆らしい上に、もったいねぇ。女を敬えってんだ!」
「た、食べるんですか?!」
リラさんが青ざめて、普段から距離を取っているが、更に遠のく。
「い、いや。食べませんて。はる~~か昔の伝承ですから」
さすがにファーンも、これ以上この話を掘り下げるのが恐ろしくなったようで黙る。
「・・・・・・じゃあ、綺麗な体って事で・・・・・・」
全く。ミルがキョトンとしてるじゃないか。
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