魔都ガイウス  暗殺者 2

「さあ。今度はマイネーの番だ。『歌う旅団』の話を聞かせて貰おうか」

 俺たちは、しょっちゅうこんな話で盛り上がっている。

「んん~~。お兄ちゃん、眠いよ~」

 俺の隣でミルがムニャムニャ言う。ハイエルフは眠らないでも平気なはずだよな?

「おう。そうだな。今日は聖竜に会うまでも戦闘の連続だった。ちょっと早いけどお開きにした方が良いんじゃないか?」

 マイネーが笑う。ちょっと残念だが、確かに俺もクタクタだ。

「じゃあ、今日はもう部屋に戻って寝ようか」

 俺は立ち上がる。

 結構狭い食堂に、多くの人が詰めかけている。それなりにうまい飯だし、評判の店のようだ。

「おっと、すまんね、兄ちゃん」

 店が狭いので、酔った男とぶつかってしまう。

「これは、階段に行くまで大変だな」

 奥の階段に行き着くまで、どうしても人にぶつかってしまうが、あきらめるか。マイネーなんか、体が大きいから特に大変そうだ・・・・・・と思ったら、マイネーを見た人が勝手によけていく。マイネーを先頭にすれば良かった。


 俺たちは男女で部屋を別れて宿泊し、その翌朝早くに、宿を出発する。


 


 目的地は、むらさきりゅうの棲む西の大国グレンネック国の奥地だ。

 そこに行くには、現在地から隣国にあたる、東の大国アインザークの王都ガイウスから、海路でアール海を横断して、グレンネックに入る事になる。

 さしあたり、これから向かうのは東の大国、アインザーク国の王都「麗しの白の都ガイウス」である。

 

 現在、ガイウスはグラーダ三世の宣言によって行われる「世界会議」の開催に向けて準備をしているはずだ。

 様々な国の思惑やら陰謀が渦巻く「魔都」となっているのではと、マイネーが予測していた。

 だが、俺たちは一冒険者として、素通りする予定だ。

 ガイウス郊外の街ヘルネ市には、マイネーの知り合いの魔具師がいる。そこで装備を調える事にもなっている。



 出発の朝、外は土砂降りの雨だった。

 リラさんとミルは、特に気にしていないが、他のメンバーは、雨の旅は憂鬱だ。

 マントにフードもしっかりかぶって馬に乗る。

 俺たちパーティーは、荷物がとにかく少ないのがせめてもの救いだ。

 俺とミル、ファーンとリラさんのペアで馬に乗る。俺も装備は調えている。

 ランダとマイネーはそれぞれの馬に乗る。

「獣化すれば、雨なんか弾くんだけどなぁ」

 マイネーがやくたいもない事をブツブツ言う。

「一応、俺たち聖竜の怒りを買ってるわけだから、領域に長くいるのもまずいだろう。さっさと出発しよう」

「完全に八つ当たりだけどな。ヒヒヒ」

 俺の言葉に対して、ファーンが笑うが、俺は面白くない。

 聖竜は黒竜の事をよく思っていないからこうなった。コッコを悪く言われた気がしてしまう。

 コッコは可愛いし、俺とも話が合うんだぞ。


「お前、黒竜の事になるとムキになるよな。変な奴だ」

 マイネーがおかしそうに言うが、創世竜が人型になれる事は秘密だからな。説明も弁明もできない。

「いいだろ、別に・・・・・・」


 そんな事を話しながら、村を出てしばらく道を進んだ辺りで、俺は道の端に、人が倒れているのを発見する。

「誰か倒れているぞ?!」

 俺は馬を急がせる。

「女の人だよ!」

 俺の前に座っているミルが叫ぶ。

 俺の視力では、この雨の中ではそこまで分からない。とにかく急いで駆けつける。

「本当だ!!」

 俺は手綱をミルに預けると、馬から飛び降りた。

 うつぶせに倒れているが、長い黒髪の女の人だった。

「おい!大丈夫か?!」

 俺は女の人を抱え起こし、顔を上向きにして、状態を確認する。

 年齢は恐らく俺と同じくらいか?

 呼吸はある。天気のせいで、顔色までは分からない。外傷もなさそうだ。熱は?

「大丈夫ですか?!」

 リラさんたちも俺に追いついてきた。

「リラさん!一応回復魔法を」

 

 俺がリラさんの方を振り向いた瞬間だ。

「カシム、危ねぇ!!」

 マイネーの言葉より早く、俺は殺気を感じる。

 反射的に体を反らすと、鼻先を鋭い短刀がかすめる。

 短刀が眼前で翻り、俺ののど元めがけて突き落とされてくる。

 体をひねって避けようとするが、俺が抱えた女が、俺の腕を押さえて身動きを封じている。

 俺は自ら体を後ろに落としながら、短刀の攻撃を避けつつ、頭でブリッジしながら、抱えた女を投げる。

 地面に叩き付ける投げを打ったはずなのに、女は投げられる瞬間に、俺の力を利用して、自ら跳んで低い姿勢で着地する。

 かなり腕が立つ。

「カシム君!!」

 リラさんやマイネーたちが駆け寄ろうとするが、女の動きが速い。

 仲間たちに一切構わずに俺に攻撃してくる。超近接戦闘だ。短刀に合わせる様に、俺も胸に装着しているナイフを抜くと、密着した状態での攻防を繰り広げる。

 切る、付く、叩く。打撃や関節技も織り交ぜる戦闘方法だが、相手も、全く同じに戦う。戦闘方法が似ている。

 こうなると、マントが重い。動きの妨げになるが、脱いでいる暇など無い。

「ならば!」

 俺は体をひねる。マントが水を含んで広がり、しぶきが女の顔に掛かる。一瞬女の動きが止まる。

 その隙に、逆手に持ち替えたナイフで、女の手首を切りつけつつ、短刀を引っかけて、ひねり落とす。

 同時に腕を取って、肘を折ろうとするが、女はその場でくるりと空中で一回転して腕の拘束を解く。

「くそ!技が同じだ!」

 相手の技も分かるが、こっちの技も見抜かれている。極まるはずの技が極まらない。

 

 少なくとも、肘を痛めたはずだが、女は全く意に介さずに再び間合いを詰める。

 離れると仲間の介入を許してしまうからなのだろう。その前に、俺の事は何としても殺したいらしい。その後の事など、全く考えていないようだ。

 それほどの殺意と覚悟。

「これが暗殺者か」

 俺は戦慄を覚える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る