第九巻 魔都ガイウス
魔都ガイウス 暗殺者 1
「白銀の騎士伝説」
これは、俺の祖父の物語だが、厳密に言うと、祖父が生まれてから、グラーダ国に帰属するまでの、遊歴の騎士時代を描いた物語である。
祖父は、グラーダ国に帰属してからも、様々な伝説を作っていったが、「白銀の騎士」としての物語は、そこまでで一区切りとなる。
どの本でも、吟遊詩人の話でも、白銀の騎士の物語の最後は、祖父ジーン・ペンダートンの親友、ヴァン・ルー・シェンとの死闘である。
◇ ◇
ジーンとヴァンの出会いは、元々敵対関係から始まっている。
反乱を起こした当代五指に入る大魔導師キエルア捕縛の任務を受けたジーンに対して、ジーンの力を警戒していたキエルアが、護衛として雇った暗殺者がヴァンだった。
ヴァンの介入で、ジーンはキエルアを取り逃がすが、その際、ヴァンを打ち倒した。
そして、破れたヴァンは、自分を育てた暗殺者を養成する里の非人道的なやり方を訴え、ジーンと共に、暗殺者の里の壊滅に乗り出す。
その時、複数の任務を帯びていたジーンだったが、それを忘れて新しい冒険に乗り出した事になる。だが、こうした事は、ジーンの伝説にはよくある事だ。
その後、ジーンとヴァンは、無事に暗殺者の里を壊滅させて、再びキエルア捕縛の任に戻る。
そして、ヴァンと協力する事で、キエルアを捕縛し、グラーダ国に連れ帰る事に成功する。
その後のキエルアは、すっかり改心して、元弟子の賢聖リザリエを補佐して、今では大賢者と人々に敬われている。
それから、いくつかの冒険を、ヴァンと二人で乗り越えていく事になったが、最後の時は突然訪れた。
暗殺者の里の施した洗脳は、ヴァンを片時も解放する事は無かった。
滅ぼしたはずの暗殺者の里は「闇の蝙蝠」と呼ばれる名で復活しており、その頭領がヴァンだった。
グラーダで、ヴァンと一時別れた数ヶ月の内に、暗殺者の里を復活させていたのだ。
そして、それを知ったジーンとの死闘が始まる。
互いに死力を尽くしての戦いだったが、最後にジーンが、これまで一度も使ってこなかった魔法を使う。
これは奇しくも、カシムがエルフの大森林で、ハイエルフの長老に習った物と全く同じ、ハイエルフの魔法「
ジーンも、かつて、冒険の最中に、ハイエルフの知己を得て、魔法を習っていたのだ。
ヴァンは、ジーンが魔法を使える事など知らなかった為、ファントムを見抜けずに、ジーンに打ち倒されてしまう。
その後もジーンは、この魔法の事は、誰にも明かしていない。
親友を手に掛けたジーンが、ヴァンに歩み寄る。
「お前でも、そんな顔するんだな・・・・・・」
地面に倒れるヴァンが笑う。肩から胸まで切り裂かれている。ヴァンが大量の血を吐き出す。
「なぜ、里を復活させたりしたんだ?」
ジーンは、今でもヴァンが里を復活させた事が信じられない。ヴァンは心から里を憎んでいたはずだ。
「俺の意思じゃ無いんだ。里は憎い。だけどな・・・・・・里の洗脳は、ついに俺を解放してくれなかった。里のせいだ。お前が気にするな」
笑うヴァンの表情に、ジーンはそれまで己が見逃してきたヴァンの苦悩が、ようやく見て取れた。
「俺は・・・・・・お前の助けになれなかった・・・・・・」
ジーンは幼い頃から戦いの連続だった。まともに人との付き合いなど出来ない。それ故に、親友に差し伸べるべき手を、差し伸べられていなかった。
「バカだな、ジーン。最低な俺の人生だったけどな、最後にこうして親友に看取られるんだ。俺は充分救われたぞ」
「しかし!」
ジーンがヴァンの手を取る。
「・・・・・・そんなに言うなら、お前にちゃんと罰を与えるよ。お前が苦しまなくて良いようにな」
ヴァンの命は、もう数秒も無い。だが、苦しがる様子も無く、笑う。
「ジーン。里を滅ぼしてくれ。二度と復活できないようにしてくれ」
「わかった」
ジーンの返事を聞いたか、聞いていないか。ヴァンの命の灯火は消え果てていた。
それからジーンは「闇の蝙蝠」の里の何もかもを滅ぼした。それは、栄光や賞賛にはほど遠い殺戮の嵐だった。
そして、倦み疲れたジーンは、もう一人の親友であるグラーダ二世が待つグラーダ国に向かい、帰属する事となる。
その時、後の闘神王グラーダ三世は、幼名の「ラダート」と呼ばれる、未だ2歳にならぬ年齢だった。
◇ ◇
俺の話は終わった。
俺たちは、聖竜の領域内の村「ワルワタ」の宿屋の食堂にいた。
聖竜の棲み家から、命からがら逃げてきたばかりである。
「なんか、カシムに聞くと、ちょっと重みが違って感じるな」
マイネーが感心する。祖父から直接聞いた話だからな。
「でよ。謎なのが、ジーンの使った魔法だよ。あれは結局何なの?」
ファーンが身を乗り出してくる。
「さあ。それは俺も分からない。じいちゃん、教えてくれないんだ。光魔法の適性があるらしいから、その何かじゃないかな?」
祖父の魔法適性は、俺と同じ光魔法だそうだ。
「ジーン様、あまり魔法を使いませんよね。あまりお得意じゃ無いのかしら?」
リラさんが首を傾げる。
俺はすごく苦々しい思いで口を開いた。
「いや。兄に聞いた話では、魔力数値も桁違いで、化け物みたいな大魔導師も裸足で逃げ出す程のステイタスらしい」
人によっては、天は二物も三物も大盤振る舞いで与えるらしい。更にレベルは未だに向上中と来る。
「信じ難い話だが・・・・・・」
黒魔導師のランダが唸るが、ランダは魔導師ながら、一流の剣士だし、マイネーは、超一流の戦士で超一流の魔導師だ。どの口が言うのかな?まったく・・・・・・。
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