届かぬ願い グラン高原 8
リラが小石で作った隙は、一瞬のものである。
「きゃああ。ちょっと、これは
リラが悲鳴を上げる。
リラが施していたのは、小石での攻撃だけでは無く、魔竜が得意とする精神系魔法からの防御魔法を掛ける事である。
見た目では全く分からないが、術者はびしびしと感じている。魔竜たちが幾重にも精神魔法をリラたちにかけ続けているのを。
「オレ様が上書きします!」
すぐにマイネーが魔法を詠唱し、リラの構築した精神魔法防御魔法よりもレベルの高い魔法をかけ直す。
「おお!?確かにバリバリ削られる」
どこか嬉しそうにマイネーが言う。
そして、後ろを振り向いて報告する。
「飛んで追ってきましたぜ!」
「それは任せて!」
少し先行するリラが立ち止まって振り向く。
『エリューネ!!!』
上位精霊シルフにより、細い竜巻を3本作り出す。威力も規模も小さいが、飛翔する竜にとっては邪魔な物である。迂回しようにも、竜巻はうねうね動いて接触すれば流石に墜落してしまう。
「ナイスです!今のうち!」
マイネーがリラを誉める。
リラもすぐに走り出す。だが、後ろから、ドガドガ、ガシャガシャと音がするので振り返り、悲鳴を上げる。
「きゃああああ!走って追いかけて来たーー!!」
リラはあっという間に追いつかれて、竜の一撃を食らう。
ドインッ!!
「きゃあああああああ~~~~~っっ!!」
リラは空中を高く吹き飛ばされて、地面をボヨン、ボヨンと弾んで転がって行く。その様は、まるで巨大なボールが弾むようだ。
リラは強力な風の防御によって、恐らく怪我はしていないだろう。だが、とにかく弾んで回転しているので、堪ったものでは無いだろう。
それを見たマイネーが激しく怒る。
「テメエら!!オレ様の未来の嫁に何しやがる!!!」
吠えて、腰の
殴られた衝撃で、突進してきたはずの竜がその場で上に吹き飛んで、全身を黒炎で包まれて落下する。
マイネーは、黒炎燃えさかる竜の上に飛び乗り、追ってくる竜たちに向かって吠える。
「テメエ等!!!これ以上ゴチャゴチャぬかすようなら、まとめてぶっ殺して喰ってやる!!!」
そう言って、犠牲になった炎に包まれ絶命した竜の首をもぎ取り掲げる。
「覚えておきやがれ!!オレ様は『火炎魔獣』、『魔竜喰い』のランネル・マイネー様だ!!!」
竜たちは、あまりものマイネーの迫力と、力の差に、すっかり戦意を失ってしまった。
マイネーがリラの元に駆けつけると、そこにはミルがいた。
「マイネー、無茶苦茶だよ!」
ミルがマイネーを非難する。
「悪い悪い。それよりリラさんは?」
「怪我はしてないけど、目を回してるよ」
確かに、見たところどこも怪我はしていないが、ぐったりしている。
「よし!任せろ!」
マイネーはリラを抱え上げる。まだ獣化を解いていないので、身長は3メートル近く有り、まるで小さな人形を抱えているように見える。背を丸めて、落としたら割れるガラス細工の宝物でも運ぶかのように、慎重に動く。
「薬草は?」
マイネーが尋ねると、ミルはニンマリ笑って、自分のポーチをポンポン叩く。
「上等だ!」
「それより、そんなヨタヨタ走ってるなら置いてっちゃうよ~!」
ミルはそう言うと、猛然と速度を上げる。
「ああ、クソ!リラさんは繊細なんだぞ!!」
そう言いながら、マイネーも速度を上げる。ネコ科の柔軟さで、リラに振動を与えないようにしながらも、ミルに負けない速さで走る。
結局、3人は、半日もせずに村に帰ってくる事が出来た。
その速さに、村長はとても驚いていた。
ランダの対処は、土魔法で体を芯から温めて、ハイエルフの水を飲ませるだけだったが、カシムも、ファーンも、少し楽そうで、薬草で作った薬も、苦さを我慢して飲めた。
2日もすると、2人とも具合が良くなり、更に、2日掛けて、高地順応する。
そして、出発の日が来た。
「みんなにはかなり迷惑を掛けちゃったな」
カシムが照れくさそうに言う。
「まあ、オレ、レベル3だし、しょうがねえって!」
ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。
「自分で言わないの!」
リラにビシッと怒られる。
「でも、体調の事は仕方が無いもの。困った時は助け合うのが仲間でしょ?」
リラがクスクス笑う。
「その通り!!」
またしても、ファーンが胸を張る。
それに対して、カシムも笑う。
「ま、そうだな。みんなが困った時は、俺も絶対助けるよ」
「疑ってねえよ」
マイネーが笑う。
「すでに助けられているしな」
ランダも言う。
「じゃあ、出発だ!!」
カシムが言う。
「目的地は巨石群遺跡だ!」
「ええ?!諦めてねぇのかよ?!」
「当然だ!!」
ファーンとミルは、かなり嫌そうな顔をした。
リラは機嫌が良い。
ランダとマイネーは首を傾げる。
ともあれ、こうして、再びカシムたちは東グラン高原の旅を続ける事が出来る様になったのである。
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