届かぬ願い  グラン高原 7

 先制の一撃はグー・ベルンだった。

 両腕を広げてゆったり構えるマイネーに、その巨体からは想像も出来ないほどの速さで距離を詰めて、腕を振り抜く。

 その腕は、まともにマイネーの体を捕らえる。


 ゴッ!!


 重い音が響いて、マイネーの体が吹き飛ぶ。・・・・・・が、2メートルほど後方に弾かれて、綺麗に足から着地する。

『むう?!』

 グー・ベルンが驚きと共に呻く。

「まあまあ。うむ。まあまあだな」

 腕をクロスしてグー・ベルンの一撃を受けたマイネーだが、腕の防御を解くと、ニヤリと笑う。

「オレ様の番だ」

 マイネーの姿が霞んで消える。


 ドゴッッ!!


 次の瞬間、グー・ベルンの巨体がくの字に曲がる。

『グボォオオッッ!!??』

 グー・ベルンの足が沈みかける。

「ほほう。踏ん張ったか。流石竜王だ」

『貴様、何者だ?!』

 驚愕の眼差しでグー・ベルンがマイネーを見る。

「だから、オレ様は火炎魔獣のランネル・マイネー様だ!」

『クッ。聞いた事がある。「魔竜喰い」か・・・・・・』

 グー・ベルンの言葉に、リラが眉をひそめる。

「マイネー。知性ある竜を食べるんですか?」

「いやいや!喰ってませんて!ってか、竜たちの間ではそう呼ばれてるのかよ・・・・・・」

 それはマイネーも初耳だった。

「ま、それはそうと、勝負はまだ終わってねえぜ!!」

 再びマイネーの体が霞む。凄まじい速度で動いているが、グー・ベルンも竜王を名乗るだけの事はある。その動きに反応してしっぽを振るう。

 凄まじい重さのある一撃を、マイネーは手の甲で弾いて逸らす。

 そこに、巨大な顎門が迫る。それを下からの打ち上げる拳で跳ね上げた。

『グアッ!!』

 持ち上がったグー・ベルンの腹に、蹴りを叩き込む。

『ゴブァ!!』

 だが、蹴りを受けながら、グー・ベルンはマイネーに鋭い爪を叩きつけた。

 マイネーは腕で受けるが、重い一撃に体が横に何回転もして吹き飛ぶ。それでも、着地は綺麗に足から降りる。

「いいね、いいね」

 腕から血を滴らせながら、マイネーは楽しそうに笑う。



「まったく・・・・・・。これだからあの人嫌いなのに」

 暴力で喜ぶマイネーに、リラが嫌悪感を示す。

 そんな事に気付かないマイネーは、見せ場とばかりに張り切る。

 リラは、ただ見ているだけではなく、リラに出来る事をすでにしている。



『矮小な地上人が!!』

 グー・ベルンが怒濤の攻撃を繰り広げる。

 牙、尻尾、腕、爪、足、翼。

 マイネーも、怪力と体術を使って迎え撃つ。

 次第に、マイネーは吹き飛ばされなくなり、ついに、グー・ベルンの尻尾を捕まえる。


 メキメキメキメキ。


 マイネーの体が、獣化して尚、一回り膨らんだ。

「グオオオオオオオッッッ!!!」

 雄叫びと共に、マイネーは、グー・ベルンの巨体を担いで投げ飛ばす。

 

 ズズズズズンンンッッ!!


 地面に叩きつけられたグー・ベルンの背中の翼は、片方が折れ、大きく枝分かれした角も、1本が中程から折れた。

 すかさず、マイネーは、仰向けに倒れたグー・ベルンの胸に飛び乗り、その巨体を足で踏み付けて睨む。

「オレ様の勝ちだな!」

 グー・ベルンが呻く。

『グ・・・・・・。ググゥ』

 瞬間的にグー・ベルンののどが膨らみ、マイネーに向かって炎を吐きかけた。

 マイネーは炎の一撃を真っ正面から浴びた。


 黒煙が立ち上り、グー・ベルンの口の端を焦がした炎が収まる。

 だが、そこには、無傷のマイネーが変わらずに立って、グー・ベルンの胸を強い力で踏み付けていた。

『グオオオオッ!!??』

 驚愕と苦痛で、グー・ベルンが叫ぶ。

「・・・・・・てめぇ、やりやがったな?!」

 

 ベキッ!


 骨の折れる音。

「殴り合いじゃなかったのか?!生憎、オレ様には炎攻撃は効かねぇ!!だからこその『魔竜喰い』なんじゃねぇのか?!」

 マイネーの服にも焼けた跡は全く見られない。炎耐性の常時魔法でも掛かっているのだろう。生半可な炎では、この防御は破れないようだ。

『グアアアッッ!!お、お前ら!!こいつ等を殺せ!!』

 グー・ベルンが命令する。

「やっぱり、最初からこうする予定だったのね」

 リラが呆れたようにため息を付いた。


 集まった竜たちがのどを膨らませる。一斉に炎を吐き付けるつもりだ。

『グオッ?!』

『ムウ?!』

 のどを膨らませた竜たちの動きが小さな呻きと共に、一斉に止まる。

 リラは、すでに竜たちの目の前に、小石を浮かべて狙っていた。グー・ベルンの号令で、竜たちが攻撃してくると分かって、すぐに全ての小石を、竜たちの全ての目に命中させた。

 おかげで、竜たちに隙が出来た。

「逃げますよ!!」

 リラはそう言うと、脱兎のように平原に向かって逃げ出す。

「お、おう!!」

 マイネーは一瞬戸惑うが、グー・ベルンに意識を奪う一撃を食らわせてから、リラの後を追って、猛然と走る。

「やっちまっても良かったのに」

 マイネーが言うと、リラが呆れたように答える。

「だから、むやみに殺さない!薬草を貰いたいだけなのに、竜を殺したら可愛そうでしょ?!」

「ああ。そうでした、そうでした!!」

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