届かぬ願い  グラン平原 6

『バルゲー、ゾディアック、イシュタル!!魔界の秩序をになう魔神よ。金床を溶かして槍を作れ!万の槍を作り束ねろ!』

 

 旧魔法である。習得難易度が現在の魔法とは比べものにならないほど難しいが、威力は現在の魔法より強力である事が多い。

 そして、この魔法は、現在のグラーダ国魔法学校の教頭をしている大賢者キエルアが得意としていた魔法だ。


『バーナルザ・ズレース。音を聴け。ルーバス・ズレース。色をよ。練って、練って、熱く束ねろ。ヨードス・グレサリス・ズレース。引き絞れ、引き絞れ』


 ミルが次の竜を攻撃する。後ろ足を1本えぐり取る。すぐに反撃が来るが、それはリラの操る炎で防ぐ。

 炎は全て消え去り、無傷の竜たちも、手傷を負った竜たちも、ニヤリと笑って、のど元を膨らませる。炎のブレスを吐き付ける気だ。

「ミル!!」

 リラが叫ぶ。

「ウヒイイィィィ!!」

 必死になってミルがリラの元に走る。

「間に合わない!!」

 リラの至近なら、炎の攻撃を防げるが、まだミルとの距離はある。

 竜たちが大きく口を開けて炎を吐き出す。


おせえ!!」

 マイネーが吠える。


『バリ・ブロォォーーーーーッッ!!!』


 マイネーの前に、赤い魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な炎の槍が出現する。

 炎の槍は、襲い来る竜の炎を巻き取るようにして吸収し、凄まじい速度で飛翔すると、目指すコッツヴィネ山中腹に命中し、大爆発を引き起こす。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーッッ!!


 えぐれた山腹に、大量の地崩れ。

 4頭の竜たちも、その光景に驚愕して硬直する。


「今だぜ、ミル」

 まだ遠くにいるが、マイネーの小声の指示を、ミルのハイエルフの聴力は聞き逃さなかった。すぐにリラの元に駈け寄る。

「リラ!!」

 リラは頷くと、ミルの前に手をかざす。

 ヒュッと風が吹く。ミルは叫ばないように口を押さえて身構える。

 ミルの体を風の膜が覆い、その膜に、強烈な突風が吹き付ける。

 あっという間に、ミルの体は空高く舞い上がり、矢のように山の上の方にすっ飛んでいった。

『えぐい・・・・・・』

 横目で見ていたマイネーは、ミルの無事を静かに祈った。



 突然の大爆発に、コッツヴィネ山に棲む獣は逃げ惑い、怒れるアルゲイスたちは大挙して集まって来た。


 その中に、一際体の大きな竜がいた。体長は20メートルを超えているだろう。角の枝も多く、黒い髭もたてがみのように立派だった。


『この騒ぎは貴様等か!!』

 鈍く太い声が響く。

「でけえな・・・・・・」

 マイネーは呟いたが、リラは全く動じない。

「黒竜に比べれば、子猫みたいなものよ」

「うへぇ。オレ様の惚れた女は、やっぱりスケールが違うぜ」

 マイネーが笑う。

「それより、穏便に済ませられないかしら?」

 そう言うと、リラが進み出る。

「私たちは薬草が欲しいだけです。許可いただけないでしょうか?」

 そう言うリラを、マイネーが押しのける。

「ちょっと!?」

 リラが戸惑うが、マイネーは構わずグー・ベルンの前に行く。


「おし、大将!ここは一つ勝負と行こう!」

『勝負だと?!』

 巨大な竜王が四つの目を細める。

「武器も魔法もなしで、殴り合う!!オレ様が勝ったら金貨3枚で薬草を採らせろ!!オレ様が負けたら、全財産くれてやるぜ!!」

 マイネーの申し出に、竜王が大声で笑う。

『グワッハッハッハッ!!!おろかな地上人よ!!!虫けらのようなその体で、ただ殴り合って戦うだと?!』

 周囲の竜たちも、顔を見合わせてから大笑いする。

 魔法を使う竜だけあって、怪我をした竜も、回復魔法で傷は塞がっている。とは言っても、欠損部位を元に戻す事は出来ない。


「そんな勝手な!!」

 リラがマイネーに抗議する。しかし、マイネーは腕をブンブン振ってマントをはぎ取る。

「リラさん!オレ様、まだ仲間になってから全然活躍してねーんです!!ここらでオレ様の活躍を見せねえと、流石に恰好付かないんですよ!!」

 メキメキと音を立てて、マイネーの体が膨らむ。獣化してトラの顔、鋭い爪が指の先に伸びる。全身黄色と黒の体毛が生える。

『ほほう。貴様獣人か?!』

「おいおい、竜の大将!獣化しただけでもうビビっちまったのか?!」

 マイネーが挑発する。

『グワッハッハッハッ!!多少体が大きくなっただけでどうなるものでも無かろうに!!良かろう!!その愚かな勝負を受けてやる!!ただし、ワシが勝った時は、貴様等全て殺して食い尽くしてやる!!』

 竜王グー・ベルンが後ろ足で立ち上がる。

「上等上等!!それで問題ねえ!!さっさと掛かって来い!!」

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