届かぬ願い  グラン高原 4

「アルゲイスか。群れてやがるから面倒だな」

 マイネーがぼやく。

「採りに行きましょう!」

 リラが迷わずに言い切る。

「そうだね!行こう!」

 ミルも続く。

 マイネーはチラリとランダを見ると、ランダも頷く。

「わかった。じゃあ行くが、1人は残ってカシムとファーンを見なきゃいけない。ランダ、お前残れ」

 マイネーの言葉に、ランダは無言で続きを促す。

「お前が一番高山病に詳しそうだし、多分ミルより看病も適切に出来るだろう。リラさんの力ははっきり言って外せねえ」

「なるほど」

「ムキーーー!ミルだって看病は出来るもん!!」

 マイネーはミルの文句は無視する。

「一応言っておくが、俺がしゃしゃり出るのは、リーダーとサブリーダーの2人が機能していないからだ。承知してくれ」

 律儀にマイネーがランダに断りを入れる。

 意外だったのは、マイネーがファーンをサブリーダー、つまりこの竜の団のナンバー2だと認めていた事だ。

「承知した」

 ランダは素直に、自分の役割を引き受けた。



 マイネーたちは早速村長に山の詳しい位置と、薬草の特徴を教えて貰って出かけていった。

 目的の山「コッツヴィネ山」は、シヴァルス山脈の山々の一つで、この辺りでは一際高く、標高3500メートルになる山である。

 山頂は雪に覆われていて、しっかりした装備が無ければ登る事は厳しい。

 ただし、道としては険しくは無い。

 距離はこの村から40キロ程度と、割と近い所に山に入る道がある。






「うう・・・・・・」

 カシムが目を開く。

「意識が戻ったか」

 ランダがベッドの横の椅子から、声を掛ける。

「すまない。みんなは?」

 辛うじてそう言ったが、目眩に発熱、強烈な頭痛に耳鳴りがして、小さく呻く。

「心配ない。それより、気がついたなら、意識がある内に水を飲んでおけ。ハイエルフの水筒だ」

 そう言って、ランダは水筒をカシムの口元に持っていく。頭を支えて飲みやすくしてやる。

「何やら回復効果があるらしいから、少しは楽になるだろう」

 ハイエルフから貰った水筒は、飲んでも飲んでも尽きない。おまけに、怪我や病に対して、多少の回復効果があるそうだ。高山病に効くかは不明だが、気休めにはなるだろう。

「ありがとう。助かる」

 カシムは、何度もむせながら水を飲んで、再び目を閉じた。





 リラ、ミル、マイネーたちは、かなりのペースで高原地帯を走っていた。

 ミルはハイエルフなので言わずもがな。マイネーも獣人で体力、走力とも人間族とは比べものにならない。体は大きく重いが、それ以上の筋力と持久力、回復力を持っている。

 普通であれば、人間族は両者ほど早くも走れなければ、持久力も無いはずである。

 にもかかわらず、リラは2人に全く遅れていない。

 と、言うのも、リラはエリューネの力を借りて、走力を上げており、しかも、時々空に舞い上がり、滑空しながら進む為、地形を物ともしないのだ。

 服装も白竜山登山並の仕様なので、スカートがまくれる心配も無い。

 さらについでに言えば、エリューネの力を借りれば、寒さなど簡単に凌げる。

 実際、現在も降りしきる雨に濡れる事無く進んでいる。

 つまり、一番苦労しているのはマイネーと言う事になる。

「雨と寒さはいけねぇよ・・・・・・」

 マイネーは肌の露出が多い獣人の服を着ていて、その上に厚手のマントを羽織っている。マントもすでに雨を吸って重そうだ。


「山に入る前に、一度休憩しましょう」

 舞い降りてきたリラが提案する。

「疲れて無いよ!」

 ミルが言う。それは当たり前である。寒さもすぐに適応してしまうので、雨に濡れようが、風に吹かれようが、雪に埋もれようが、ハイエルフは平気なのだ。

「オレ様も平気だぜ!」

 マイネーも続けて言う。しかし、リラは首を振った。

「マイネー。あなた無理はいけません」

 そう言うと、リラは指をサッと振る。

「うお!?あったけぇ・・・・・・」

 マイネーとミルを、暖かい風が包む。

「少しすれば服も乾きますから」

 リラの言葉に、マイネーがにっこり笑う。

「すげぇな。それに親切にしてくれて嬉しいぜ」

 マイネーの言葉に、リラも笑顔を向ける。

「カシム君の為ですから」

 リラの言葉に、一応ガックリくる様子を見せるが、すぐに真顔になって尋ねる。

「僭越ながら尋ねさせて貰うけど、リラさんはカシムに自分の気持ちを伝えたりしないのか?」

「え?ええ?」 

 マイネーの表情は真摯な様子で、茶化したり、からかったりするものでは無い。純粋にリラの事を心配している様子だった。

 だからリラも戸惑う。

「ちょっと、バカゴリラ。何余計な事言ってるんだよ~!」

 ミルが小声で言いながら、マイネーの足をポカポカ殴る。

「い、言ってません。カシム君の旅は過酷な物ですから。余計な事を言って邪魔したくありませんもの」

 リラの言葉に、マイネーが目を細める。

「本当に?」

 リラの言葉が、誤魔化しである事など、マイネーは見抜いている。言われて、リラは動揺する。

「・・・・・・まあ、リラさんの選んだ道なら、取り敢えずオレ様は黙って見ているさ」

 マイネーはネコ科らしい笑顔を見せる。

「マイネーって変なの。リラの事好きなくせに、お兄ちゃんとの事応援しちゃうんだ」

 ミルが首を傾げる。

「オレ様は大人だからな。自分の感情よりも、好きな女の幸せを願うんだ。といっても、最終的にはリラさんはオレ様を好きになるんだけどな」

「どこから来るんだ、その自信」

 

 そんな事を話している内に、2人の服は完全に乾いていた。

「便利な魔法だな」

 マイネーが感心する。

「多少の雨なら、私からあまり離れなければ防いでくれます」

 リラが付け加える。

「ねえ。精霊感能力エーテル使いすぎじゃ無いの?」

 ミルが心配してくる。

「心配しなくても大丈夫。これでも結構抑えて使っているのよ。それに、精霊界に行ってから、魔力マナ精霊感能力エーテルも随分増えた気がするの」

「うひゃあ。天才の開花だね~」

「地上界ナンバー3でいられるのも、あと少しっぽいな」

 マイネーが満足そうに笑う。

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