届かぬ願い グラン高原 3
カント国は南北に長い国で、国土も広い。
しかし、アインザーク国との国境となっているシヴァルス山脈を西に持ち、山脈付近は広大な面積の高原になっている。
それはアインザークも同じで、アインザーク側がグラス高原。カント側が東グラス高原と呼ばれている。共に、標高2000メートル以上に位置している。
カントに入り1週間もすると、標高は1800メートルを越え、いよいよグラス高原の入り口に入ってきた。
最初の遺跡である巨石群ももうすぐなので、俺はテンションが上がってきている。
「あと2日ほどで、ヤナップ村がある。そこで高地に順応する為、数日宿泊する」
俺は予定を話す。
「了解」
「分かりました」
仲間たちからの返事。まだ誰も体調に変調を来していない。
「ファーン。リラさん。少しでも具合が悪くなったら教えて下さい」
ハイエルフのミルも、第3世代のエルフであるランダも心配はいらない。
「マイネーは?」
「オレ様は獣人だから、高地順応は問題ない!」
なら心配するだけ損だな。
取り敢えず、ファーンが具合悪くならなけりゃ大丈夫そうだ。
そこからヤナップ村までの道のりは、思ったよりも険しかった。
馬の足が取られる位の石がゴロゴロしている坂道で、折り返しながら上ったり、急に下ったりしていく。
馬を下りて引いて上ったり、休ませたりしながら、苦労してヤナップ村にたどり着いた。
雨にも降られたので、体もすっかり冷えてしまった。
「着いたぞ。宿を取ろう」
俺が言うと、元気なミルが、雨に濡れるのも全く苦にならないようで、馬から飛び降りて走って先に村に入っていった。
「さすがは忍者だ。元気だねぇ」
マイネーがミルを誉める。誉め上手なので、今は結構仲が良い。
村の入り口に着いた時には、ミルが村人と出迎えてくれて、「宿決まったよ!」と報告してくれる。
実際話が早くて、こんなに疲れている時は助かる。
「冒険者様、ようこそヤナップ村へ。たいしたおもてなしも出来ませんが、どうかゆっくり休まれていって下さい」
出迎えた村人たちが、馬を引き取ってくれた。馬たちもかなり疲れているので、ゆっくり休んで欲しい。
かく言う俺も、流石に疲れているし、雨に濡れて寒い。
標高が高い分、気温も下がっていて、防寒着を着ているが、グラーダ育ちの身としては厳しい物がある。
「お、おい。カシムゥ~」
ファーンが青い顔をしながら俺の肩に掴まる。
「どうした?」
俺が聞き返すと、ファーンはそのまま俺に抱きつく。
「気持ち悪い・・・・・・。頭痛い・・・・・・」
「お、おい」
そう言いつつも、抱きつかれた俺は、そのまま地面に尻餅をつく。雨で泥だらけの地面に2人で座り込んでしまった。
「あ、あれ?」
ファーンの体重くらい、軽々と受け止められるはずなのに、どうにも力が出ない。
手を見ると、震えている。
あれ?言われて見れば、俺も頭が痛い。耳鳴りがする。
「おい、どうした?」
ランダが俺たちの異常に気付いて、すぐに駈け寄ってくる。
「い、いや。ファーンが具合悪いって・・・・・・」
そう言った時、耐えきれない吐き気が俺を襲う。
慌てて、ファーンを突き飛ばすと、地面にうずくまって俺は嘔吐した。
「カシム君!?」
「お兄ちゃん!!」
リラさんとミルが駈け寄ろうとした時、俺の隣でファーンも吐いた。
ヤバい。体が痙攣してきた。意識が遠のく。
◇ ◇
「結構重度の高山病だな」
カシムとファーンを、宿泊先の宿まで運んで、ベッドに寝かせてから、ランダが症状を見る。
それぞれ、男女別に着替えをさせて、濡れた体を拭き、乾いたベッドに連れて行かれ、今はベッドを並べて寝かせられている。
ファーンの着替えがすぐに出てこなかったので、ファーンはリラの水色ワンピースの部屋着を着させられていた。
「魔法じゃどうにもならないわね・・・・・・」
リラが顎に手を当てて首をひねる。
「お兄ちゃん辛そうだね~」
ミルが、カシムの寝ているベッドに頬を乗せる。
カシムは荒い呼吸で、かなり苦しそうにしている。
「ファーンの方がやべぇぞ」
マイネーの指摘するように、ファーンの方が苦しそうだし、そもそもの基礎体力的にはカシムより遥かに低い。
「高山病は甘く見てはいけない。下手をすれば死んでしまう事もある」
ランダが淡々と説明する。
「それはやばいね!!」
ミルが飛び跳ねる。
そこに、この村の村長がやってくる。
「冒険者様。お困りのようで」
村長はドラゴニュートの老人だった。
ドラゴニュートは、竜の様な見た目の特化人(スピニアン)で、見た目に反して、大人しく、戦闘能力の低い種族である。温厚な性格から、神殿などで働く者も多い。
「村長さん。高山病に効く薬とかありますか?」
リラが尋ねると、村長は頷く。
「あるにはありますが、この村にはありません。この村の者が高山病に罹る事など無いですし、こんな村に、下界の人間が訪れる事も少ないですから」
村長の言う通り、ここは主街道とは大きく外れているし、主街道では無くても、もっと通行しやすい道なら他にも沢山ある。
それ故に、一行が泊まっているのも、宿とは言っても、実際は空き家を使わせて貰っているのだ。
もちろん代金は支払うし、色も付ける。
辺境の地だけに、金を得られる機会は少ないので、金払いを渋るべきでは無い。
だから、冒険者は辺境でも歓迎される。
「どこに行けば薬は手に入るんだ?」
「ミルがパ~~ッと走って取ってくるよ!」
マイネーとミルの言葉に、村長は肩をすくめて、背中の小さな翼膜をパタパタと振る。
「高山病に良く効く薬草があるんです。それは、ここから北西の、コッツヴィネ山の頂上付近に生えています」
「おいおい。嫌な予感しかしねえぞ」
マイネーが小さく呟く。
「ただ、その山には、野生の竜が住み着いています。知性ある魔竜『アルゲイス』で、名を『竜王グー・ベルン』と名乗っております」
魔竜「アルゲイス」は、知性を持った竜種で、人語も解せば、魔法も使う。
群れて棲息し、力の強弱で階級を付けて、一つの社会を形成する。
基本的には地上人には関わってこないが、狡猾で残忍であり、地上人を食料程度にしか思っていない。
こうした知性ある竜種は、他に「エドワス」、「グランドドラゴン」、「エンシャントドラゴン」、「ウル・グレイブ」等がいる。
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