届かぬ願い グラン高原 2
ようやくザラ国の国境を越える事が出来た俺たちは、エルウス国に入ると、主街道を避けて、シヴァルス山脈を左手に見ながら、細い山道を登っていった。
途中なだらかな平原もあるが、次第に標高が上がっているのは確かだ。
エルウスと言えば、上手いソーセージとビールが有名だ。そして、何故か驚くほどマズい魚料理も有名だ。
地元の人間は美味く感じるらしいのだが、外から来る人間は、鼻をつまんで逃げ出したくなる代物だそうだ。
そのマズさが有名で、敢えて挑戦しにエルウスを訪れる人は後を絶たない。
俺たちも、途中の村で勧められたが、その匂いだけで逃げ出してしまった。後引く匂いで、その日一日、鼻の奥が臭い気がしてならなかった。
世界で2番目に大きな湖「カジッカ湖」が遥か東に海のような煌めきを見せ始めた頃、エルウス国と、カント国との国境に到着した。
登り道が続く旅だったが、順調に旅は進んだ。
国境は、主街道では無い田舎の検問所だったので、のどかな雰囲気のまま、「はいよ~」と、通してもらえた。
カント国に入ると、俺は少し興奮してきた。
カントと言えば「遺跡」だ!
巨人が作ったと言われる巨石群遺跡。
三千年前、一夜にして滅んだビルダス王国の遺跡。
天空の都「エスパイア」。
虹掛かる、秘境の神殿跡。
少なくともこれだけの数の、ロマン溢れる魅力的な遺跡が、進路付近にある。
絶対に2つは見て回るぞ!
「おい。気持ち悪い笑いやめろよ~」
呆れた様子でファーンが俺を振り返る。
珍しい事に、今日は俺とファーンが相乗りしている。
前日にリラさんとミルが、何やら大ゲンカしたらしい。
今は、2人で一緒の馬に乗って、何やら楽しそうに話しをしているのだから不思議だ。
「気持ち悪いとは失礼な奴だな!俺はカントにロマンを感じてるんだよ!」
俺が主張すると、ファーンが怪訝そうな顔で俺を見る。
「お前さ。遺跡見に行きたいとか言うなよ」
え?何でよ?!
「『え?何でよ?!』じゃねえよ。お前、遺跡に関わると、ちょっと気持ち悪いんだよ」
おい!心を読むな!しかも気持ち悪いとは何だ!?
「ずっと意味わかんない事しゃべっているし、それだけなら良いけど、オレたちにも同意を求めてきたりするじゃん?あれ、迷惑なの!」
「はあ?俺、いつそんな事したか?!」
はっきり言って覚えが無い。
「したんだよ!行くなら1人で行けよ!」
ファーンに冷たくそう言われてしまった。
まあいい。どうせファーンは高山病で苦しむ事になる。
ファーンは置いて、理解ある奴等と観光を楽しむさ。
数日後、立ち寄った村で、ゴブリンが出現しているというので、俺たちは討伐に向かった。ファーンとランダは、村の防衛に残り、他のメンバーで村の近くの洞穴に向かった。
洞穴はゴブリンの巣穴と化していて、1人の女性がゴブリンに捕らわれたそうだ。
ゴブリンは人間の男は食う物。女は犯して食う物としてしか認識していない。
善意は無く、悪意のみの残虐なモンスターである。
決して共存出来る存在では無いので、地上から抹殺するべき存在である。
「捕らわれている人がいるのだから、まずは救出を優先する」
洞穴に入る前に、俺は基本的な目的の優先順位を確認する。
「捕らわれている人の救出、もしくは・・・・・・遺体の回収が済み次第、モンスター討伐を行う」
最悪は、その遺体すら残っていない事だ。
「幸い・・・・・・とは言えねえが、掠われてからまだ3日だ。まだ食われてはいねぇだろう」
マイネーの言葉に頷くが、食われていなくても、散々犯されてはいるだろう。そう思うと沈鬱な気持ちになる。
「ミル。中の様子を探ってきてくれ。いるのはゴブリンだけとは限らないから、決して無理するな」
「まっかせて!!」
ミルは風通信の忍術として、小瓶を俺に渡して、素早く洞穴の中に消えていった。
俺は小瓶に耳を当てる。何かあったら、ミルの声が届くはずだ。
少しすると、小瓶から微かな声がする。小瓶に耳を押し当てて耳を澄ませる。
「・・・・・・お兄ちゃんはミルと結婚する。お兄ちゃんはミルと結婚する。小っちゃい子が好きになる。小っちゃいミルが堪らなく好きになる」
「余計な事言ってないで仕事しろっっ!!!!!!」
思わず大きな声で怒鳴ってしまった。
「馬鹿!!てめぇが大声出してどうするんだよ!!」
マイネーに頭を小突かれる。
「カシム君、どうしたの!?」
リラさんも叫ぶ。
「ああ、しまった。つい・・・・・・」
慌てて身を隠すが、遅かった。
洞穴から数匹のゴブリンが姿を現した。
「作戦変更だ!このまま巣穴に突入する!ミルを追いかけて合流するぞ!!ゴブリンを殲滅しつつ、女性を救出する!!」
作戦もへったくれも無かった。
ひたすらにゴブリンとの戦闘を繰り返しながら、巣穴の奥に突き進み、ミルと合流し、女性を救出して、最後にかなり奥まで掘り進められていた洞穴を、マイネーが外から炎の大魔法で燃やし尽くして村に帰ってきた。
村は無事で、女性も、取り敢えず命だけは助かった。後は周囲の人間のフォローと、精神的な回復を願うばかりである。
俺は、作戦の反省会で、メチャクチャ叱られた。
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