届かぬ願い  記事 4

「闘神王により竜騎士探索行に指名され、世間を驚かせた、ペンダートン家の末子、カシム・ペンダートン率いる竜の団。

 発表当初は、あまりの出来事に、冒険者ギルドのみならず、世間は戸惑いと期待とが半々な状態で、この一行の冒険を見守っていた。

 しかし、すぐに彼らは異常なほどの功績を挙げまくって、更に世間を驚かせた。

 詳細は不明なれども、魔術師の塔攻略。それに伴って、ハイエルフとの交流。また、そのハイエルフからアズマとの関係正常化の指名依頼。

 もしこれが叶うとすると、世界規模での影響は計り知れない、歴史的な大快挙となる。

 続いて、白竜、黒竜と、立て続けに竜騎士の承認を得たとの事で、世界の注目はいやが上にも竜の団に集まっている。

 これらの活躍で、カシム・ペンダートンには『森の友人』、『竜の眷属』の称号が正式に与えられている。


 だが、カシム・ペンダートンは、白銀の騎士の孫ではあるが、その実力を知るものはいない。

 これらの偉業は、果たして彼の実力なのか?それとも単なる七光りや偶然が重なった物なのか?

 そうした疑問は、皆が思っていることだろう。

 

 そこで、この度、わたくしユリーカ・パイドンが、彼ら竜の団に密着取材して、その真偽を確かめる事にしました。」



「何か、こうして読んでみると、大変な事をしたものだって思うけど、ほとんど勢いと運と偶然だよな」

 俺はそう述懐する。

「まあ、そうだよな~」

 ファーンも呟く。

「エレッサの事、書いてないね」

 ミルが俺を見上げる。

「エレッサはまだ落ち着いてないからな。あとは、その記者の取材不足だな」

 マイネーが補足し、指摘する。まあ、ユリーカらしいな。



「まずは、竜の団のパーティーメンバーに注目したい。なんと言っても、竜の団は、カシム・ペンダートンと、ハイエルフの少女以外は、謎だらけだったのだ。

 そして、読者諸君も驚愕するメンバーがいた事が、密着取材で初めて明らかになった。

 グレンネックを中心に活躍していて、ここ2年ほどはグラーダ国に活躍の場を移していた、『白の歌姫』リラ・バーグ嬢が、吟遊詩人として、竜の団に加わっていた。

 リラ・バーグ嬢と言えば、訪れた先々の王城に招かれるほどの実力者で、牧歌的、神秘的、叙情的、様々な音楽を表現し、人々を魅了している、今、最も注目を集めていた正当派吟遊詩人である。

 グラーダ王城での独唱から、姿を消していたと思ったら、竜の団に加わって、危険な竜騎士探索行に参加していたのだ」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 俺たちを沈黙が襲う。

「リラさん?」

「は、はい!」

「どういう事ですか?」

「い、いや。私にもさっぱり・・・・・・」

 慌てふためいて、真っ赤になっている。

「すげえじゃねーですか!オレ様の目に、やっぱり狂いは無かったって訳だ!」

 マイネーが嬉しそうだ。

 しかし、ここまで有名な人だったとは知らなかった。こんな有名な人が、一緒のパーティーで良いのだろうか?文化的損失なんじゃ無いかと思える。

「わ、私の事は良いんです!!」

 リラさんが真っ赤になって先を促す。



「次に、噂のハイエルフの少女、ミル。ハイエルフと言う事で、私も構えて対応したが、本人は素直で可憐な少女だった。だが、やはりハイエルフだけあって、輝きや気品を感じる。

 身のこなしは、幼いながらも一級品で、高い戦闘力を持っているのだから、甘く見てはいけない。

 しかし、やはり生まれてくるのは、なぜ、永遠の命を持つハイエルフが、排他的で有名な種族の幼子が、竜の団の危険な任務に同行しているのだろうか、と言う疑問である。 

 私が見るからに、この少女は竜の団の団長カシムを、とても慕っている為、恋人関係なのではとも疑われる。

 しかし、カシムは胸の小さな女性への対応は、極めて冷淡な所が見られるので、その線は薄いかも知れない」



「おおおおおおーーーい!ユリーカ!!何書いてくれちゃってんのぉ!?」

 俺は思わず立ち上がる。膝の上のミルが、つんのめって、テーブルに顔をぶつけるが、知った事では無い。

「これ、どうすんの!?みんな俺の事、誤解しちゃうよ!?」

 叫ぶ俺を、ファーンとリラさんが懸命になだめるので、仕方が無く、俺は座って、記事の続きを読む。



「最後に、ファーンというハーフエルフがいる。これは全くなんなのかわからない。レベルは僅か3で、戦いの最中も剣を抜かずに、一心不乱にメモを取っている。

 しかし、このパーティーでは、この者への信頼は厚く、こうした奇行も受け入れられているのだ。

 だが、このファーンが真価を発揮したのは、大きな戦いの場だった。全体を見通し、魔物の行動パターンを読み、弱点を見抜く力が、今回の緊急クエストの任務成功に一役買った事は確かである」


「おお。わかってんねー!」

 ファーンが嬉しそうに言う。まあ、そうだよな。こいつの洞察眼に頼る場面が増えている。

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