届かぬ願い  記事 3

 俺たちは、イーラ村を出て、以前に白竜山に向かった時のように、南下して、シニスカ国を通り、ザラ国に入る。

 そこで、大陸東側を2つに分割するように、南北に長く連なるシヴァルス山脈の最南端を迂回し、エルウス国に入る。

 後はシヴァルス山脈をずっと西側に見ながら、高地を北上すればカント国に入り、そのカント国の北端で、聖竜の領域に入る事が出来るはずだ。

 

 聖竜の領域は、そのカント国、レダ国、ドルトベイク国の三国にまたがって展開していた。


 しかし、国境越えの度に、俺たちは1日~2日と足止めをされている。

 以前は、スムーズに通行できたのに、急に「審査が必要だ」とかで、冒険者たちだけ、国境で立ち往生である。

 何を審査しているのかさっぱりわからない。

 更に、国境通過税も、冒険者だけ上がっているので、リラさんがカンカンだ。


「これはアインザーク経由にした方が良かったかもな」

 俺が呟く。

 アインザーク経由なら、国境は2つだけだった。グラーダからアインザークへの国境越えは、多分税金も審査も無いはずだ。だから、アインザークからドルトベイクへの国境越えだけ考えれば良い。

 今はザラ国からエルウス国に入る国境の町で足止めを食っている。

 仕方が無いので、その町の冒険者ギルドに来ていた。


「そうとも限らねぇみたいだ」

 マイネーが真剣な表情で、小声で言う。

 ギルドの食堂には、俺たちのように足止めされている冒険者たちが大勢いる。

「どういう事だ?」

「例のな、世界会議。いよいよ発表された。9月1日にアインザークで開催するようだ。さっき職員に聞いてきた」

 ・・・・・・脅したな。

「はっきり言って、俺たち竜の団、と言うよりお前は、世界各国から狙われている」

「俺が?何で?」

 と言いつつ、何となく理解できた。

「世界のパワーバランスだ」

 マイネーが言う。

 

 その通りだ。俺はまだ竜騎士では無いが、陰謀家にとっては関係ない。現時点でも、俺を自分たちの陣営に引き込めば、グラーダに次ぐ発言力を有する・・・・・・と、勝手に思い込んでいてもおかしくない。

 

「アインザークは、暗い歴史が多い。前科持ちだからな。だから、追い落とそうという勢力は多い。そのアインザークが会場となるのだから、今のアインザークは魔都と化しているだろう。世界会議までは近付かない方が良い」

 俺は頷く。って言うか、俺たちこの先の国境、ちゃんと越えられるのか?

「それとな、もう一つ」

 まだあるのか?

「お前は地獄教に狙われているんだろ?暗殺者に対する警戒を怠るなよな」

 ああ。そうだった。一応、実家に戻った時に各方面に働きかけて貰って、対策を講じて貰っているので、家族とかは大丈夫だと思う。

 ファーンは天涯孤独。ランダも同じだ。俺の家は流石に問題ない。マイネーも大丈夫だろう。ミルはハイエルフなので、流石の地獄教もハイエルフには手を出さないと思うし、あの人たちも一応強い。

 一番の問題はリラさんだ。だから、その点だけは特に警戒するように頼んでおいた。


 現状、地獄教が一番手を出しやすいのは、やはり俺なのだろうな。

「地獄教も、次は聖竜を目指すと踏んでいるだろう。だけど、オレ様たちは、エルフの大森林に入ったから、敵さんも見失っているはずだ。だから、順当に行けば、聖竜の所に行くのに、グラーダの大街道を使うのが一番だと考えるはずだ」

「なるほど。地獄教は、アインザークで網を張っているって訳か」

「確定は出来ないがな」

「でもよ。地獄教だって手は1本じゃ無いだろ?」

 ファーンが俺たちの会話を聞いていて、話しに入ってくる。「ま、そうだな。だから、警戒は必要なんだって話しだ」

 マイネーが笑う。

「でも、この面子にケンカ売ってくるか?」

 ファーンがマイネーを見て笑う。

「いや。マイネーの加入は知らないんじゃないか?」

 俺が言うと、ファーンも「そっか」と納得する。

「それよりマズいのは、俺たちが竜の団だからって理由で、行動を制限されて日数が経ったら・・・・・・」

「そっか!黒竜の加護か!」

 俺が頷く。

「実際、どの程度で加護が発動するかわからないからなぁ。この辺り一帯が焼け野原になったらヤバいだろうに」

「その加護な。便利なようで曖昧だ。もうちっと、何とかならなかったのか?」

 マイネーには詳しい話しはしていない。行動に制限を加えたら、黒竜が暴れに来るとだけ伝えている。

 俺たちは曖昧に笑うしか出来なかった。でも確かに面倒くさい。今度コッコに会ったら話してみよう。



「お兄ちゃん!『ただ中』にあたしたちの事出てたよ!!」

 ミルが嬉しそうに、念写が沢山印刷された雑誌を持ってやってくる。冒険者やその他一般人にも人気の雑誌「ただいま冒険中」だ。

 って事は、この前の緊急クエストの記事が載っているな?!

 

 俺たちはテーブルに置かれた雑誌をのぞき込む。ミルは俺の膝の上、両隣がリラさんとファーン。ランダは興味なさそうで、テーブルの対面でお茶を飲んでいる。マイネーは対面から俺たちの様子を眺めている。


「どれどれ?うん」

 俺は雑誌をめくる。

「何だよ。ほとんどが緊急クエストの記事じゃねーか」

 ファーンが言うが、まあ、あれだけでかい騒ぎになったんだから当然だ。

 しかし、内容は、アカツキとアルフレアの活躍がメインで、人気があるから、歌う旅団にもページを割く。

 正義の翼のページもあり、俺たちは中々出てこない。

 そのまま緊急クエストの特集は終わってしまった。

「ここからだよ」

 ミルが言うので、ページをめくると、あったあった。

「密着『竜の団』!!謎多き、竜の団の真実に迫る!!七光りなのか、実力か?竜の団の快進撃!」

 大げさな見出しだ。吹き出してしまう。

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