届かぬ願い  永遠の初芽 7

「木箱には丸薬が2つしかない。使うときは考えて使われると良い。完全回復薬だから、頭さえあれば完全に再生させる事が出来るそうだ」

 とんでもない効果が有る薬だ。持っているのも恐ろしいぐらいだが、有り難い。


「次に、マイネー殿、ファーン殿。そなたたちには、我らが鍛えた魔法の武具を与えよう」

 タイアス殿がそう言ったが、ファーンとマイネーは、揃って首を横に振った。

「ハイエルフの鍛えた魔法武具とは光栄の至りなれど、我らは武功無し!受け取るべき資格がござらぬ!!」

 マイネーが武人然として口上を述べると、地に片ひざを付き、受け取りを拒絶する。ファーンもそれに習う。

 タイアス殿が、俺の方を見るので、俺は首を振る。

 それを見て、タイアス殿も授与を諦めてくれた。


「では、ミル」

「ミルも何にもいらないよ!!みんないっぱい大事にしてくれたし、帰る場所も用意してくれているし、ミルを旅に出させてくれてるんだもん!みんなの役に立てた事が嬉しいの!!みんなだ~い好き!!」

 ミルの言葉に、半数以上のハイエルフが、その場で倒れて気絶する。長老の中にも地に膝を付く人がいた。

 タイアス殿も鼻血拭こうか。


「では、せめて、諸君にはこれらを贈らせて貰いたい」

 タイアス殿は1人1人の賞与を諦めたようだ。


「まずはミルも使っている『月視の腰鞄ようはく』を2つ用意した。次に、ウンディーネの水筒を2つ。これは、水が湧き出る水筒だ。傷口に掛ければ、簡単な治癒も行える。飲めば病にも効果がある。それとミスリルの短刀2本と、不燃の服。それから、ハイエルフの名器『ファルファーサ』。横笛だよ。これらを、竜の団に贈ろう」

 どさくさに紛れて、マイネーやファーンに贈ろうとしていたであろう武具もまとめて渡された。

 ここで断っては逆に失礼にあたる。

「有り難く!!」

 俺たちは深々と礼をして、贈り物を受け取った。


「では。諸君らの旅に、幸運あれ!!」

『サー・アデュレイ!!ジェス・イェン・デレゴラヌン・レギュオス!!』

 ハイエルフの唱和に見送られて、俺たちはウルーピーの引く浮き馬車に乗り込む。

 浮き馬車に繋がれたウルーピーは2頭。跳ぶような勢いで、克つなめらかに、馬車は八光の里を北東に向かって走り出した。イーラ村最寄りの、エルフの大森林の縁まで送って行って貰うつもりだ。



「結局、いっぱい貰っちゃったね」

 ミルが呟く。

「なんか申し訳ない・・・・・・」

 ファーンが呻る。マイネーも口をへの字に結んでいる。

「まあ、貰った物はしょうが無い。ファーンはこの短剣な。マイネーは、燃えない服は欲しいだろ?」

 2人は互いに顔を見合わせ合った後、苦笑いして受け取る。

「リラさんは笛と、このバッグ。ミルは水筒と薬。ランダも水筒。あと多分この本もランダ用だろう」

 こっそり紛れていた本のタイトルは『地獄目録』とあった。

 ランダは、その本を手に取ると、静かに頷く。

「俺はずっとこのバッグが欲しかったんだよな」

 これで、冒険に関係ないハケやらルーペやら、油紙やらもこっそり入れておける。

 実はタイアス殿に相談を受けて、それぞれが欲しそうな物を頼んでいたんだよね。薬は意外だったけど。

「本当はウルーピーが欲しかったけど、一応精霊らしいから、エルフの大森林から出たら、あまり長生きできないらしい。それは可愛そうだからなぁ」

 俺は1人、口の中で呟いた。

 リラさんが、早速ハイエルフの名器「草笛ファルファーサ」を、唇に当てて、透き通る様な音色を響かせた。

 精霊の歌そのものの様な、美しい楽の音が、木々の間を縫って、空に伸び上がっていく。

 俺たちは、それを目をつぶって聴いていた。

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