届かぬ願い  永遠の初芽 6

「ミル。ごめん」

 俺はミルに謝る。

「俺たちにはミルが必要だ」

「竜の団として?」

 そうだな。「たち」は卑怯だった。また逃げ道を用意したみたいになってしまった。

「ごめん。言い直す。俺にはミルが必要だし、ミルの事が大好きだ。がんばって良い子にしているミルも可愛いけど、我が儘言ったり、拗ねたりするミルも可愛い。大好きだ。だから、本当は俺の側にいて欲しいと思っている」

「・・・・・・ミル、怒ってるの」

 

 それはそうだ。俺はこの子を傷つけた。俺は学習しないな。

「ああ。わかってる。ごめ!!???」

 またやられた!!!

 ミルが不意打ちでキスをしてきた!!!

「んんん~~~~~!!!」

 ミルは俺の頭を押さえ込んで、足で腕の自由を奪う。柔軟性の高いミルの関節可動域のせいで、引きはがせない。

 長いキスだ!!誰か、助けてくれ~~~!

「はい!そこまで!!」

 リラさんがそう告げると、ランダが無言でミルを引きはがしてくれた。

「少し同情してたけど、やっぱりその心配はなさそうね!ミル!!」

 リラさんが不敵に笑う。

「それはこっちのセリフだ!!どうやらお兄ちゃんは小っちゃい子が好きなんだよ!!そうで無いなら、ミルがそうしてみせるまでだ!!ミルとコッコちゃんとでお兄ちゃんを籠絡してみせる!!」

 立ち直り早っ!

「くっ・・・・・・。コッコちゃんは反則よ!!」

「しかも今の私には妹たちがいる!!永遠の初芽を甘く見るな!!」

「おお~~~~!!」

 ちびっ子たちが応える。

 もうツッコミ所が多くてなぁ。一応丁寧にツッコんでみるぞ。

 え~。妹って、みんなミルより年上じゃん。男の子もいるぞ。あと、俺はどちらかというとおっぱいの大きめの人の方が好きだ。

 最後にな。俺、今お前の涙と鼻水で、顔がベッチャベッチャなんだが、どうしてくれる?!

「リラさん。そいつほっときましょうよ」

 諦念の思いでリラさんに声を掛ける。

「カシム君は黙ってて!!どうやらミルとは決着を付けなきゃならないようね!!!」

 うひぃ。精霊女王がちびっ子大将とケンカを始めた。なんでだ?なんでこうなった?

「へへん!リラはまだお兄ちゃんに『さん』付けで呼ばれてらぁ!!」

「何をぅ!!永遠ペッタンコのくせに!!」


 何かマイネーは、荒れ狂うリラさんを、ほっこりした表情で見ているので、そのまま放置して、俺はランダとエイシャさんとでその場を離れた。退避だな。

「リラさん、凄いケンカするのな・・・・・・」

 俺がため息を漏らすと、ランダが首を傾げる。

「いや。俺の知る限り、ファーンも含めて、あの3人はよくケンカしてるぞ」

 ええ?なんでランダの方がパーティーメンバーの内情に詳しいんだ? 

 



 俺たちは、エイシャさんに連れられて、ファーンが寝ているトロッタを訪れた。

 ファーンは、目覚めていて、美味そうな麺料理を食べていた。

「ふまひな!ふまひ!!」

 幸せそうに、頬いっぱい膨らませて麺をすすっている。

「おお。ちょっとは元気そうじゃ無いか」

 俺が声を掛けると、ファーンが笑顔を向ける。

「おう、カシム。オレがいない間に、もめ事とか起こしてないよな?」

 グゥ。お前、もしかして見てた?

 エイシャさんが吹き出してるじゃないか。

「カシムはダメダメだから、ちょっと良い事言おうとして、リラとミルがモメ始めたりしてたんじゃ無いかって心配になってよ。ヒヒヒ」

 「ヒヒヒ」じゃねぇよ。お前、見てただろ?

「あと心配なのは、おっぱい関係のトラブルかな?」

 お前は千里眼でも持っているのか?

 悔しいかな、何も言い返せない。

 ファーンが箸を止めて、訝しげな顔で俺を見る。

「え?もしかして、図星か・・・・・・?」

 俺の隣のランダが頷く。ファーンが気の毒そうな、哀れみ、労るような目で俺を見る。

「・・・・・・カシム。何か、すまん」

「いいんだ。俺の方こそ悪かった」






 ファーンの順応まで、それから2日必要だった。

 その間、俺は、ハイエルフの魔法は教えてもらえなくなった代わりに、剣や弓矢を教えてもらって過ごした。弓矢は相変わらず上達しなかったが。

 リラさんとミルは、あんなに激しくケンカしていたのに、その後はずっと2人であちこち遊びに行っていた。なんだかんだで仲が良い。

 ランダは、長老のトロッタに入り浸り、マイネーはちびっ子たちとよく遊んでいた。ちびっ子たちに気に入られていて、ハイエルフたちから羨ましがられていた。



 

 そして、出発の日になった。



 俺たちは、森の外れまで、ウルーピーの馬車で送って貰う事になっていた。

 その前に、長老に見送られる事となっている。

 

 馬車の前で、準備を終えて長老たちを待つ。大勢のハイエルフも、綺麗に整列して立っている。皆、儀礼用の白に金の刺繍が入った、美しい服を身に纏って、頭にはミスリルの頭環とうかんを身に付けていた。

 ゆったりとした旋律の楽の音が鳴り、長老たちが姿を現す。こちらも、より洗練された服装に身を纏っている。

 代表として、暁明の里の里長タイアス殿が前に進み出る。


「カシム殿、リラ殿、ランダ殿、ファーン殿、マイネー殿。そして、ミルよ。此度は我が魂癒の地たる精霊界の危機を救っていただき、感謝に堪えない」


『ハー・シュレイ!!』

 居並ぶハイエルフたちが、完璧なタイミングで唱和し、音も立てずにその場に片ひざを付く。

「皆さん。どうかお立ち下さい」

 この流れは2回目なので、今度は素早く対応できた。


「此度のあなた方の活躍に、我らもできる限りの謝意を表したい」

 タイアス殿がそう言うと、後ろにひかえていたハイエルフが、木のお盆を手に進み出て、タイアス殿の前で膝を付く。

 タイアス殿がお盆から取り上げたものは、小さな木の箱だ。


「これは我らが秘薬。今は失われた技術で作り出された『生命の種』だ。死者の体内にこの丸薬を入れる事で、その者は命を取り戻す事が出来る。ただし、この薬が効くのは、死んでから10時間以内だ」

 

 タイアス殿が木箱を差し出すので、俺は震える手で受け取る。

「あ、有り難く・・・・・・」

 そう言いながら、俺はこの薬を、本当に受け取って良い物か悩む。そんな薬があるなんて、フィクションの中だけの事だ。だいたい死んでから10時間も立ったら、脳に重大な障害が残るのではないか?死んだ時が大怪我だったら、傷とかはどうなるんだ?

 そんな薬の存在自体が、事件を引き起こしかねない。

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