届かぬ願い 永遠の初芽 5
他の仲間がミルと合流して、他の子たちとお菓子を楽しんでいる間も、俺はエイシャさんに懇々と初芽の素晴らしさを聞かされていた。
まあ、一理ある話しなのはよく分かった。
つまり、ハイエルフにとって、子どもが希少である事が原因だ。
寿命が無い彼らにとって、子どものハイエルフが子どもの姿でいる10年くらいの単位は、瞬きほどの一瞬。だが、永遠の初芽は、そのごく僅かな期間の子どもの姿を、永遠に保っている。だから、可愛くて堪らないのだそうだ。
ハイエルフの子どもを愛でたいという感情は、怪物になったテュポーンにも根強く残っていたのだから、無視は出来ない程、重要な事なのだろう。
「お兄ちゃん、お話終わった?疲れた顔してるよ?」
お菓子を食べていたミルが、俺の顔をのぞき込んで、心配そうに言う。
「ああ。まあ、ちょっとな・・・・・・」
確かに、ミルは可愛がり甲斐のありそうな子だが、ハイエルフのそれは、ちょっと病的だなぁ。命懸けみたいだし。
「この人がミルちゃんのお兄ちゃん?!」
「うわー!かっこいいね!!」
ちびっ子たちが俺に群がって来る。いや。年齢的には俺より遥かに年上なのだろうが・・・・・・。
「こっちのゴリラのおじさんより優しそう!!」
「誰がゴリラのおじさんだ?!ゴルァ!!」
マイネーが呻る。
「俺はまだ若いし、ゴリラでもねぇ!!」
「あのおじさんちょっと怖いよね~」
「ね~!」
子どもたちは(大人だが)無邪気で遠慮が無い。だが、人を見る目はあるな。
「でもミルのお兄ちゃんって、ちょっとスケベっぽくない?」
「あ~確かにね」
子どもたちがちょっと引く。子どもだけに、人を見る目がまだ無いな。
「お兄ちゃんは、ちょっと人よりおっぱいが好きなだけの優しいお兄ちゃんだよ!!」
ミルが懸命にフォローしてくれようとしているらしいのだが、傷口に塩を塗っているだけだ・・・・・・。
「いーんだよ!男ってのはスケベじゃ無けりゃ強くなれん!!」
出た。マイネーの持論。賛同すると白い目で見られそうだが、賛同したい。
リラさんは、ミルの事で落ち込んでいるのか、難しい顔をして顔を伏せている。
「ミル。俺たちはここに長居できない。ファーンが順応しないと、後々心配だから、順応出来るまではいるつもりだけど、その後はまた竜騎士探索行に戻らなきゃいけない」
ミルは真っ直ぐ俺を見つめる。
「うん。そうだね」
「ミル。お前はここに残っても良いんだぞ?友達も出来たみたいだし、ここにいればお前は可愛がってもらえる」
「え?やだよ?」
ミルが表情を曇らせる。
「でもさ。俺と旅してたら、危険がいっぱいだし、またミルに無茶させる事になる」
「やだよ!!お兄ちゃんと一緒に行く!!なんでそんな事言うの?!」
ミルが俺にしがみつく。
「お、俺もさ。しょっちゅう顔を見せるよ!竜騎士探索行が終わったら、ずっと一緒にいても良いし」
ミルの事はずっと考えていたんだ。ハイエルフたちが至宝と言うほど大切にするミル。明日どうなるかもわからない旅に巻き込んだままで良い訳がない。
俺と一緒が良いなら、旅の後でも充分だろうし、永遠が孤独なら、コッコと一緒にいれば淋しくない。
俺は竜騎士探索行が終わって、聖魔大戦も回避出来たなら、きっと考古学者に戻る。
平和な世界になったら、ミルや、コッコと旅をするのも構わない。そう考えていた。
でも、エルフの大森林に来て、幼児化していくミルを見るにつれて、ミルはここにいた方が幸せな気がしてきていた。
「少しの間、ここで待っていてくれないか?」
俺はミルにそう提案した。しかし、ミルは更に強く俺にしがみつく。
「やだよ!やだよぉ~!お兄ちゃん、ミルの事がいらなくなっちゃったの?!役に立たなくなっちゃったの?!」
ミルが泣き叫ぶ。
「いらなくなんかなって無い。役に立つとか、立たないとかじゃなくって・・・・・・」
「じゃあ、ミルのことが嫌いになったんだ!!ミルがずっと子どものまま、大人になれないから、嫌いになったんだ!!」
「!?」
・・・・・・知ってた?いつ?
「ミ、ミル?」
俺はミルを優しく引き離して、泣きじゃくるミルの顔をのぞき込む。
「知ってたのか?」
ミルは涙と鼻水でべちゃべちゃになった顔で頷く。
「何となくそうじゃないかなって思ってたよ・・・・・・。でも、この子たちを見たら、わかっちゃったんだよ。ミルはもうこれ以上は大きくならないの。お兄ちゃんが好きな大人の女の人にはなれないの・・・・・・」
俺はとっさに言葉が出ない。ミルにとっては残酷な真実だ。
にもかかわらず、俺は子どものままでいる生き方を、この子に強要しようとしていた。
永遠の初芽を、「至宝」として大切にするハイエルフたちでさえ、ミルが危険な旅に出る事を承知で送り出したというのに。
俺はなんてバカで、考え無しなんだろう。
ミルの為とか言い訳して、悩んだ振りして、自分の重荷を下ろしたかっただけなんじゃ無いか?
最低だ、クソ。
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