届かぬ願い 永遠の初芽 4
そう言う事で、俺たちは長い話し合いを終えて、八光の里の観光を楽しむ事となった。
まずはミルと合流しなければいけないので、ミルがどこに行ったのか尋ねると、すぐに答えが返ってきた。
他の永遠の初芽に会いに行ったそうだ。
永遠の初芽は、里の中で、唯一の巨大な桜の木のトロッタに住んでいるそうだ。
桜の木など、俺は見た事がないが、ピンクの花が咲いているそうで、遠目からでもすぐにそれがどの木かわかった。
背は他のトロッタよりも低いが、薄ピンクの花が咲き誇り、風が吹く度にその花が散って宙を流れる。
この桜の花は、常に、咲き、常に散っている。散った花びらは、その内に精霊の光となり、精霊界に帰るそうだ。
ため息が出るほど幻想的で美しい光景だ。その花びらが舞い散る木の下で、ミルは、小さな子どもたちと一緒に遊んでいた。
「・・・・・・?」
「あれ?初芽って、確かミルとピフィネシアさんだけだったはずよね?」
俺が感じた疑問は、そのままリラさんが口に出していた。
近くで見ていたエイシャさんが、俺に手を振ってやって来る。
「あ、エイシャさん。あの子らって?」
俺が見ると遊んでいる5人の子どもたちを指さす。耳も尖っているし、どう見てもハイエルフだ。年齢は、5歳から10歳程度。あの中ではミルが一番のお姉さんに見える。
「あの方たちが永遠の初芽です」
エイシャさんの言葉に、どこか納得する。
「・・・・・・つかぬ事をお伺いしますが、永遠の初芽って、一生子どものままのハイエルフって事でよろしいでしょうか?」
あまり聞きたくないが、恐らくそうだろう。そして、当然の様な表情でエイシャさんがあっさり肯定する。
「はい。そうですが?」
「ええ?じゃあ、ミルもずっと子どものままなんですか?」
リラさんが小さく叫ぶ。
「もちろんそうです。ミルちゃんは、今の姿のままで大きくなれません」
「でも、ピフィネシアさんは、ミルは早熟タイプだって・・・・・・」
「はい。早く大人になります。大人になればそれ以上は成長しませんから」
つまり、ハイエルフの基準では体は成長が止まったら大人。精神は100年以上経ったら大人と言う事か。
「そ、そんな・・・・・・。ミルはあんなに大人になりたがっていたのに・・・・・・」
リラさんが口元を抑えて肩を振るわせる。
「胸もいつか大きくなるって信じていたのにな・・・・・・」
そう思うと、ミルがちょっと哀れになる。
「はあ?あのな。ハイエルフは例え大人になってもそんなにボイーンとはならねぇよ」
マイネーがあきれた顔で言う。
「え?」
「ええ?」
俺とリラさんはマイネーを見て、エイシャさんを見る。
するとエイシャさんは頬を赤らめて頷く。
「そ、その。我々ハイエルフは、出生率がとても低くて、子育てをする必要がほとんどありません。だから、母乳の必要性も低く、胸はあまり発育しません」
言われて見れば、エイシャさんのお胸は控えめだ。でもだな。俺はピフィネシアさんの念写を切り抜きで持っていた。この前もしっかり確認させて貰ったが、ピフィネシアさんのお胸は、そこそこあったぞ!?
「ああ。ちなみにピフィネシア姉さんは、重武装している。本人はバレてないつもりだろうが、日によって大きさが違う」
俺は地面に倒れ伏して泣きたい気分だった。
「そ、そんな。ミルは、あんなに大きくなるのを楽しみにしていたのに・・・・・・」
リラさんが両手で顔を押さえてうずくまり、小刻みにプルプル震えている。丸い耳が真っ赤だ。
ミルの為に、ここまで悲しめるなんて、本当に優しい人だ・・・・・・。
「ぷひ・・・・・・」
ちょっと変な声が聞こえるが・・・・・・。
「エイシャさん。ミルはこの事知っていますか?」
俺が尋ねるが、エイシャさんは不安そうな顔をする。
「いいえ。と言うか、今まで知らなかったんですか?ミルちゃんのご両親は、なんでそれを教えていないんですか?」
クッソーーーーッ!!ヒシムの野郎ぅ!!
次に会ったら間違いなく全員で殴ってやる!!ランダ先生のトラウマ級にキツい一発、喰らうが良い!!今ならマイネーもいるしな。
「まあ、わかりました。その内アイツには俺たちから伝えます」
他の初芽たちと、楽しそうに無邪気に遊んでいるアイツに、この事実を今伝える勇気は、俺には無い。
「こうして見ると、アイツは本当に子どもなんだな」
俺はため息を付く。遊んでいるミルの姿が、とても自然な物に見える。冒険に付き合わせず、このままここで遊んで暮らした方が、ミルは幸せなんじゃないかと思う。
「精神は姿に引っ張られます。見たままの精神年齢なのが普通です」
「そうですね。俺たちに合わせて、アイツも色々無理していたんだなと思います。ちょっと反省だな・・・・・・」
「秘中の秘」と言われて尻込みしていたけど、これは知っておくべき事だな。
「エイシャさん。『永遠の初芽』の果たす役割というのは・・・・・・一体なんですか?」
永遠の初芽は、ハイエルフにとっての至宝中の至宝。種族を上げて、その宝を守ろうとする存在だ。
ハイエルフである事を捨てたテュポーンですら、永遠の初芽を大切に扱っていた。
さらに、種族を越えて、敵対勢力であるはずのアズマ国のアマツカミたちにも何らかの影響を与えるほどの特別な役割。
ミルはどんな宿命を背負わされているのだろうか?
エイシャさんが意を決したかのように、真剣な表情で俺を見つめる。
「永遠の初芽の役割は、私たち大人のハイエルフたちの目と心を癒やす事です」
「・・・・・・。特別な治癒能力があるのですね?」
「いいえ。可愛がられる事があの方たちの宿命なのです」
「・・・・・・えーと。ちょっと何言ってるかわからないんですが?」
俺はこめかみを押さえる。目眩がしてきた。
「何故わからないのですか?あんなに可愛らしいじゃ無いですか?小さいフォルムも、いちいちの仕草も、発言も、発想も、何から何まで可愛らしいじゃ無いですか!私も出来れば暁明の里にも1人いて欲しいです。でも、それじゃあ、一人ぼっちで可愛そうです!だからみんな、数年に一度、八光の里に行く日を心待ちにしているんです!その為に、寝ないで起きて生きる道を選んでいるんです!!」
うわああああ~~~!?エイシャさんが凄い熱量だ!
「す、すみません。わかりました」
「いいえ!まだ充分わかっているとは言えません!!良いですか?私たちハイエルフにとっての初芽とは・・・・・・」
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