届かぬ願い  永遠の初芽 3

 それから4日かけて、俺たちは八光の里に着いた。


 マイネーはその道中に、ようやく精霊界に順応した。

 ファーンは未だに、1日の半分以上の時間を眠っている。

 ファーンが順応が遅いのは、レベルが低い事と、体質だそうだ。

 マイネーの場合は、初日に無茶をした代償だそうだ。そうとう無茶をして俺たち全員を救ってくれたそうだから、本当に感謝だ。

 なのに、マイネーは、テュポーンとの戦いで活躍できなかったことを、もの凄く反省している。

「オレ様、ここまで役立たずとは思わなかった。猛烈に凹んでいる。申し訳なかった」

 そう言うが、これはマイネーのせいじゃない。むしろ、あの状態でも駆けつけようとしてくれた事が嬉しい。

 ファーンは、目が覚めると、怒ったり泣いたり、落ち込んだりと、相も変わらず情緒不安定だ。

 精霊界の空気って、精神にも影響を与える物なのだろうか?

 そう考えると、マイネーの落ち込みようも納得できる。

 ミルの幼児化もある訳だし、俺のおっぱい事件もそうだ。リラさんでさえ、妙な発言をしている。・・・・・・ランダも光の剣にスーパーボール付けられて喜んでいたし、可能性は大いになるな。

 そう言えば、エルフの大森林に入って戻ってきた僅かな人たちは、大抵が発狂していたそうだ。順応出来ていなければ、俺たちもそうなっていたかも知れない。


 そうだ。だから、あのおっぱい事件も精霊界の空気が原因なんだ。

 そう思おう。



      ◇     ◇ 




 八光の里は、エルフの大森林のほぼ中央に位置していて、外界からは見えないが、とてつもない巨木があった。

 天界には「世界樹」と言うものがあるらしいが、少なくとも俺が今まで見た中で一番大きな木で、黒竜の館に使われていたドアの一枚板も、この木からなら作れるだろう。

 そして、その木を中心に、暮らす木トロッタが広がっている。

 森と一体化した里なのは、暁明の里と同じだが、トロッタもそうだが、普通の木々も大きい。そして、空中回廊が縦横に張り巡らされていて、ハイエルフの数も多い。


 中央にある巨木が、生きるのに飽いたハイエルフたちが眠りについている「眠る木シャックル」だ。

 そして、背が低く、やたらと太い針葉樹が「集う木ホロゥタ」と呼ばれる、ハイエルフが集まって話し合いをするときに使う木だ。

 

 俺たちはまず、その集う木ホロゥタに集められた。

 そこには俺たちが置き去りにしたリュシア長老とザエル長老がいた。

 俺は頭を下げるが、2人は微笑んで手で制してくれた。

 他にも14人のハイエルフたちが待っていた。恐らくが全員長老と呼ばれる人たちだろう。


 俺たちが席に着くと、タイアス殿がこれまでの経緯を、丁寧に報告する。

 ミルはすっかり飽きているし、ファーンはそもそも眠っていて同席していない。

 リラさんは居心地悪そうにモジモジしているし、ランダは真剣そうな表情だが、絶対にボンヤリしている。

 マイネーと俺だけが真剣に話しを聞いている状況だった。

 

 途中でミルだけは案内人付きで、遊びに行く許可が下りた。

「わ~~~い!」

 案内はエイシャさんがついてくれて、ミルと一緒に外に行った。




「しかしそうか。テュポーンは死んだか・・・・・・」

「怪物になり、歪んだとは言え、あやつもあやつなりの正義感から行動していた訳だし・・・・・・」

「なんとも淋しく、虚しいものだ・・・・・・」

 長老たちは、事の顛末を聞いて、切なそうにため息を付いた。


 それからも報告は続き、時々長老たちからの質問が出ると、タイアス殿や俺やリラさんが答えた。

 長老たちからしても、リラさんの存在は驚きに満ちていたようだ。

「リラ様のような例は、今まで一度も無かった事なので、はっきりとはわからん」

 長老たちが話す。

「まず、人間が精霊使いになる事が希有じゃ」

「さらに、その精霊使いの人間が、精霊界に来る事も希有じゃ」

「精霊界に順応する事も希有ですね」

「それ以上に、精霊界で攻撃的な精霊魔法を使用する事となると、皆無でした」

「だから、確信は持てんのだが、人間の精霊使いには、精霊界の、ハイエルフの制約は無効なのではと思われる」

「今後は、いくら才能があっても、人間に精霊を授ける事は、禁止となるだろう」

「人間の精霊使い全員が、リラ君の様に、優れた人格を持っているとは限らないからねぇ~」

 長老たちが代わる代わる口を開く。年寄り口調の長老もいるが、見た目は皆若々しい美男美女たちだ。


「本当なら、リラ様には、このまま精霊界で暮らして欲しいと思っております」

 その一言に、俺はゾッとする。

「それはやめて下さい!」

 俺が叫んで立ち上がる。長老たちが驚いたように目を剥く。

「どうしたのかね?」

 俺は答える。

「私たち竜の団には、行動の自由を阻害されると、黒竜が報復をするという加護が掛けられています」

 俺の言葉に、長老たちが驚きつつ、笑う。

「それは恐ろしい。ですが、心配は無用です。我々は、恩人に仇成す程の恥知らずでは無い」

「言い方が悪かったですな。誤解させて申し訳ない」

「我々は竜の団の役目を知っておるし、応援している」

「竜の団は、皆、森の友人じゃ。助けが必要なら、何を置いても馳せ参じよう」

 そう言えば、どうやって助けがいる事をハイエルフに知らせたら良いのだろうか?そんな事を思ってしまう。


「ともあれ、恩人の竜の団には、何かお礼をしなければいけないな。何か望みはあるかな?」

 俺たちは顔を見合わせる。

「い、いや。俺たちは冒険者として、森の友人として当然の事をしたまでです」

 俺はそう言う。成り行きでもあるが、これは本心だ。

「ふむ。まあ、そう言うのではないかと思っていたが、お礼はこちらで用意させて貰おう。それまではしばし、八光の里を楽しまれよ」


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