届かぬ願い 永遠の初芽 1
夜が明けて、朝日が昇り、昼になった頃、トロッタでゆっくり休んだ後、俺たちは中央広場に集まっていた。
広場では、椅子とテーブルが地面から無数に生えていて、食事や飲み物も準備されていた。
規模的には、100名に満たない数なので、それ程大規模では無い。
そう。祝勝会だ。
俺たちは一応、里の、さらにはエルフの大森林を救ったとされる英雄的な存在なはずだが、みんな俺を見るとクスクス笑う。
おっぱい好きの人間と言うレッテルが貼られてしまった為だ。
そうじゃ無い。俺は女性に優しく接したいだけなんだ。例え怪物であったとしてもだ。
・・・・・・いや。この言い訳は無理がある。どうすれば汚名返上できるのだろうか。憂鬱だ。
幸い、仲間たちからは、多分白い目では見られていない。
ランダは、呆れてはいるが、一応俺を擁護してくれた。男の仲間というのは有り難い。
ミルは、俺に見せたがるくらいだから、まあ良いだろう。
やはり問題はリラさんだ。
戦いの勢いで、なんかメチャクチャなこと口走っていたが、その辺、リラさんは何か考えがあるのか?
そして、リラさんのお胸のご開帳は実現するのか?
「カシム君?」
「うひぃ!!」
そんな事を考えていた時にリラさんから声を掛けられたもんで、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
「きゃあ!ビックリした!」
リラさんも俺の悲鳴に驚く。
「ああ。す、すみません、リラさん」
俺がそう言うと、リラさんが苦笑してため息を付く。
「カシム君。結局呼び捨てにはしてくれないんですか?」
俺はドキッとする。
あの時、俺はリラさんを失うのかと、かなり焦っていた。パニック状態だった。だが、落ち着いて考えると、リラさんの言う事もよく分かる。
とは言え、すぐに変えるのは困難かも知れない。
「あの・・・・・・。リ、リラ・・・・・・さん」
やっぱり無理だった。俺も大概ヘタレだよな。
「ちょっと淋しいです・・・・・・」
拗ねたように口を尖らせるリラさんの仕草はずるいほど可愛らしい。
「すみません。・・・・・・じゃあ、俺の事をカシムって呼び捨てで呼んで下さいよ」
代替案として提案してみる。
「え?カ、カシム・・・・・・君」
むむ。俺と同じ展開。
「もう!いきなり言われたら緊張します!」
真っ赤になってうつむくリラさん。もしかして、リラさんも俺同様のヘタレなのだろうか?
いや。王宮でソロで歌うほどの吟遊詩人だ。ヘタレで有るはずが無い。
「お兄ちゃん!リラ!いつまでそこで、イチャイチャ、イチャイチャ、イチャイチャしてるの!?ずるいよ!!」
ミルが怒っている。結構怒ったり拗ねたりが多くなっているな。幼児化の影響だな。
「わかった。悪かったよ」
俺はそう言うと、ミルがバンバン隣の席を叩いて指名するので、俺はそこに腰を降ろす。そして、左隣の空席にリラさんが真っ赤になって座る。
「では、揃ったようだな」
タイアス殿が、杯を持って全体を見回す。
「此度のテュポーン復活と言う、未曾有の精霊界の危機を、見事に乗り越える事が出来たのは、森の友人であるカシム殿率いる、竜の団の活躍があっての事。我らが救世主である、竜の団。そして、精霊女王リラ・バーグ様に乾杯」
「かんぱーい!!」
「ちょちょちょっと、ちょっと!待って下さい!!今の『精霊女王』って何ですか?!」
リラさんが絶叫する。
「おお。そうだった。精霊女王の誕生に乾杯!!」
タイアス殿が、再び杯を掲げると、全員が杯を掲げて「乾杯」を唱和する。
「いや、だからですね!精霊女王って?!」
杯の中には、実に芳醇な香りの果実酒が入っている。アルコールは飲めないと言ったら、精霊魔法でアルコール分を跳ばしてくれているので、俺たちの杯に入っているのはフルーツジュースだ。それでも、ちょっとお酒っぽい。
ミルは最初からフルーツジュースなので、一気に飲み干して、すかさず数人のハイエルフにおかわり分を注がれていた。かなりミックスされたフルーツジュースになっている。
「あの?タイアス様?!どういう意味ですか?」
ハイエルフの食事は薄味だが、実に美味いのは知っている。沢山並べられた料理の中で、特に美味いのが、このハンバーグだ。
フォークで刺すと、中からたっぷりの肉汁が皿に池を作る。甘めのソースも凄く美味い。
「それは私が作りました」
そう答えたのは、俺の正面に座るエイシャさんだ。この人の作る料理は、本当に俺の舌を捕らえるな。
「メチャクチャおいしいです!」
「エリューネ」
テーブルの上をそよ風が吹く。全員が手と口を止める。
ああ。リラさんが怒っていらっしゃる。静かに怒る美人って、本気で怖いよな・・・・・・。
静まりかえった祝勝会で、リラさんが笑顔でタイアス殿に質問をする。
「『精霊女王』の意味、教えてくださいますよね?」
ハイエルフの里長を脅迫している人間って、史上初なんじゃ無いか?タイアス殿の顔色がみるみる青くなる。
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