届かぬ願い リラの決意 5
リラは手を伸ばす。それが何かを知らずに。
「お願い!私を、私たちを・・・・・・精霊たちを助けて!!」
ハイエルフでも契約できない、圧倒的な存在に、懸命に手を伸ばす。
それは超然と上空から地上の攻防を眺める。
炎の大蛇がジリジリとリラを飲み込もうと、風の防御を押しのけてくる。熱が伝わる様になる。
テュポーンは「エア」の存在には気付いていない。
「さあ、死ね!!」
だめ押しとばかりに、もう一体、炎の大蛇を作り出す。
リラが叫ぶ。
「あなたに名前を付けてあげるから、手を貸して、『エアリス』!!!!」
次の瞬間、4体の巨大な炎の大蛇が、音も無く消え去る。
地面を這うような風を、リラ以外の全員が、樹上にいたハイエルフたちすらも感じた次の瞬間。
パッ!!
何かが弾けたような音がした。
そして、見る。リラの目の前に、白っぽい筒が出現していて、その筒は、見えなくなるぐらいまで上空に伸びていた。
「ぐあああああっっ!!何だあれは?何だあれは??」
テュポーンは驚愕していた。
何が起こったのか、全く分からない。
炎の大蛇がかき消えた後、体が浮き上がり、周囲の見渡せない何かに捕らわれている。強い力で引っ張られるまま、上へ上へと引き上げられる。全ての精霊魔法を使うことも出来ず、一切の抵抗が出来ない。
「何が起こっている?何が?!」
テュポーンの頭の中で、何かが破裂するような音が何度もしている。呼吸もままならない。吐き出した血が瞬時に沸騰、蒸発する。
上を見上げると、白い筒の先は闇だった。
いや、星の世界だった。
それがテュポーンが最後に見た景色だった。眼球が飛び出し破裂する。
凄まじい上昇の後、筒の先から放り出されたテュポーンは宇宙空間に出る。
そこは真空でマイナス270度の世界である。
真空以上の凄まじい気圧差によって、テュポーンは筒の内側ですでに瀕死であった。それに比べると、宇宙空間の方が心地よく感じる位だった。
だが、いかにハイエルフを更に強化改造したテュポーンの肉体も、宇宙空間では生存できない。
『こんな・・・・・・バカな事が、あって良いのか・・・・・・』
散々もがいてみたが、テュポーンは秒速120キロの高速で、宇宙空間をエレスから遠ざかっていく。
『我は、邪精王テュポーンなるぞ!こんな、バカな事が・・・・・・』 その思考が、テュポーンの最後となった。
最後を遂げたのはテュポーンだけでは無い。
デルピュネーたちも、次々と活動を停止した。
これは術者であるテュポーンが死んだ事による。
◇ ◇
風の渦が収まると、その中心にはリラが立っていた。
「リラさん!!」
カシムが急いでリラの元に駈け寄る。
「リラさん!!」
カシムの呼びかけに、リラがゆっくりと振り向くと、静かに微笑んだ。
「カシム君・・・・・・」
「リラ!」
「リラ、無事か?!」
その元に、ミルもランダも駈け寄って来た。
「ミル・・・・・・。ランダ・・・・・・」
リラが2人を見て静かに微笑む。
「リラさん?」
カシムが言いしれぬ不安を感じて、静かに立つリラに手を伸ばす。
だが、リラはその手を押しとどめて、静かに頭を振る。
「リラさん・・・・・・。どうして・・・・・・?」
カシムの声が震える。
あれ程の精霊魔法を使ったのだ。その代償はどれほどのものか・・・・・・。
カシムも、ミルも、ランダも、その場に立ち尽くす。
「・・・・・・リラさん。戦い終わったよ。戦いの後に大切な話があるって・・・・・・」
カシムが声を振り絞る。
リラは静かに頷くと、小さく口を開け、聞こえるか、聞こえないかのか細い声で、カシムに伝える。
カシムはその言葉を聞き漏らさないように耳を傾ける。
涙が溢れそうになるのをグッと堪える。
「カシム君。いい加減、『リラ』って呼んで貰ってもいいのよ」
「え?」
聞き間違いか?
「もう。私だけ『さん』付けだし、敬語も使うし、普通に呼んでもらって、話して欲しいの!」
リラが真っ赤になって叫ぶ。
「は?」
「だから、もう!!恥ずかしいじゃないですか?!」
リラが頬を膨らませる。
「あの?リラさん?体は大丈夫なんですか?」
カシムが怖ず怖ずと尋ねると、リラはキョトンとした表情でカシムを見る。
「はい?私、無傷ですよ?」
「いや、そうじゃ無くって、凄い精霊魔法使ってたじゃないですか?!」
カシムがそう言うと、リラはようやく納得したように、自分の体を見回す。
「平気みたい・・・・・・」
その言葉に、カシムもランダも安堵のため息を漏らす。
「リラァァァ~~~!!」
ミルがリラに飛びつこうとするが、リラは慌てて跳んで避ける。
「リラ?」
ミルが不満そうに頬を膨らませる。
「私、その・・・・・・。いっぱい汗掻いちゃったし」
炎の大蛇と至近で対峙していたのだ。服も汗でびっしょりになっている。
「そんなの、みんな一緒だよ!!」
ミルが叫んで、遠慮容赦なくリラに抱きつく。
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