届かぬ願い それぞれの思い 3
「ちゃんとやれてんのかな、リラの奴」
オレから見ても、リラはどうにも硬い。ぎこちない。カシムも同じだ。
まあ、カシムに色々期待するのは間違っている事ぐらい弁えているんだけどな。
「ねえ、そろそろ代わってよぉ!」
「おお。じゃあ、交代な」
ミルがせがむので、馬の手綱を譲ってやる。ミルが前に乗っているので、いちいち乗り換える必要は無いからな。
「ちゃんと休ませてから走ったりしろよ」
その辺は、オレよりミルの方が動物の心が分かるんだけどな。
「うん。アップルちゃん大事にするよ~!」
ここで、「わかってるよ!」とか言わない辺りがミルの可愛いところだ。
オレは、この乗り合わせは、一応リラに気を遣っている訳だ。リラはちょっと見ていられない痛々しいところがあるからな。
アイツがカシムにぞっこんなのは、一目で分かる。だけど、アイツ、男が苦手とか、ちょっと見た目に反する弱点がある。
オレも、それを知らなければ、時々「姉さん」辺りの立ち位置で満足なのかと思ったぐらいだ。
男が苦手な女と、女に免疫が無い男では、ちっとも進展なんか望めないからな。
リラはカシムの事が好きだ。
で、このちっこいのも、カシムの事が好きだ。好きに度合いがあるとか思いたくねーが、愛情の格みたいなのがあるとすれば、このちっこいのは半端ない。それも分かる。
しかも、このちっこいのはハイエルフで、今でこそちっこいが、どうも、あと2年ほどでおっきくなるらしい。
ハイエルフがおっきくなって男に迫ったら、どんな男だってコロリと落ちるんじゃ無いか?
しかもミルはすこぶる性格が良い。オレが男だったら、間違いなくミルに夢中になるだろう。
だから、ちょっとハンデのあるリラに、少しだけだけど、助け船を出したくなる。
こうして、2人の時間を作ってやる。
オレにしてやれるのはこの位だ。これ以上は、自分の力でがんばりやがれよ、2人とも。
カシムは、いつもリラに嫌われてるんじゃ無いかとか、軽蔑されていないかなんて、完全にお門違いな心配をしている。はっきり言ってアホだし、お子様だ。
そのくせ、アイツ、まだ誰かに真剣に恋をした事もない。
だから、「実はリラはお前に惚れてるんだぜ」とオレが一言いうだけで、簡単にリラに惚れるだろう。
だいたいいつもリラの事ばかり見過ぎなんだよ。まあ、助平さん心で見ているのもバレバレだけどな。
最近、リラは、そのカシムの助平さん心を利用する戦術を学んだらしい。だが、効果的なのは認めるけど、まどろっこしいったらありゃしない。
あと、リラが最近自分の妄想だけで満足しかけているところも、ちょっと危ういな。リラだってカシム同様助平さんなんだからさ。
で、このパーティー1の良識派で、克つ、苦労人たるオレが、こうして損な役回りを演じている訳だ。
お互いに言葉を交わして、お互いに関係作りをしろ。で、少なくとも、「敬語」やめろよな!
オレか?
オレは、まあ、良いんだよ。
だって、この3人の中では、オレが一番有利だもん。
カシムを本気で落とす気になれば、オレなら簡単だと確信している訳だ。
いいか?愛や恋には理想よりも、現実の方が大切だ。
オレとカシムは、互いに言いたい事を言い合えるし、互いに深い信頼と尊敬で結びついている。
なんと言っても相棒だ。
アイツにとって、オレはすでに隣にいなくては落ち着かない存在になっていると自負している。
アイツはオレには甘えたり弱音を吐いたり、寄りかかったり出来る。
そうした相手が、女としての行動に出たらどうだろう?
オレが男だったら、とんでもない美人よりは、安心できる相手を選ぶだろうよ。ま、「最終的には」だけどな。
た~だ!!
アイツがオレを男だと勘違いしていた件はいただけねぇ!!
しかも、アイツ、もうすっかりその件を流しきった顔して、1人でスッキリしている。
オレも、「気にすんな。オレも気にしてない」なんて強がり言っちまったのも悪いが、それでも、スッキリし過ぎだろう。
で、今は普段は男扱いして来やがる。
ほんとにカシムはダメダメなんだよな。
などと偉そうな事を言ってみたが、オレも、カシム同様、未だに「愛だ」「恋だ」とか、いまいちピンときてない訳だ。
アインの事が好きだったけど、それって、ただの憧れだったし、カシムの事も悪くないけど、結構今の関係で満足しているのかも知れない。
だから、こうして助け船を出す余裕はある。
ただな~。
お姫様だけはいけない!アレは相当に強敵だ。物語で言うところの主人公だ。どれだけ不利になっても、結局作者の都合でどんな状況もひっくり返す雰囲気がある。
噂では父親の闘神王にも、カシムの事となると平気でケンカを売っているそうだ。
これはペンダートン家の情報網から得た話しだが、その際にことごとく闘神王をボコボコにやっつけているそうだ。
間違いなく姫さんは最強の魔王なのだろう。
コッコもな。妹としてだが、カシムのコッコ偏愛ぶりも半端ない。カシムが変態なら、勝者コッコで、この話は終わってしまう。
オレはカシムといる時間が多いが、アイツ、コッコの事、関係ないときでも急に話してくるんだよな。
だから、有り得ないとも言い難い。
さらに、カシムは人を引き付ける特殊能力があるようなので、これからも、強敵は現れそうだ。
男にも妙にモテるから、そっちの道に入ったらヤバいんでないかい?
なんで、オレがこんな思いをしなけりゃなんねーの?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます