届かぬ願い  それぞれの思い 2

 更に、カシム君には他の疑惑もあります。

 それは「男色」。

 考えたくなくも無いけど、カシム君はもしかしたら、女の人に興味が無いかも知れない。

 だって、こんなにも周囲の女の子に好かれているのに、ほとんどまともな反応を示さずに、素っ気ない対応をする事も多いのよね。

 私ががんばって、胸とか、太ももとか、凄くさりげなくだけど、アピールしてても、全然ヒットした感じがありません。

 まあ、ヒットしたらどうなるのかなんて、私には分からないんだけど・・・・・・。


 ファーンの事は男の子だと思っていたから、今でも気安い感じで反応してるだけなのかも。カシム君が男の人にも女の子にも関心がある人だったりしたら、ファーンって、もしかしたら、相当おいしい立ち位置なのかも知れないわね・・・・・・。

 

 そして、ランダと合流してからは、ランダと2人でよく話したり、2人でいる事が増えた気がします。

 ランダはエルフだから、それは美形だし、何だか、2人が並んでいるのが尊いもので、文句も言えないのです。何というか、眼福です。ゴクリ。


 それと、カシム君の2人のお兄様たちも、とにかくカシム君に対してのスキンシップが、こう、目の毒なのですが・・・・・・。ゴクリ。


 あと、これから迎えに行くマイネーさん。私、はっきり言って、あの人嫌いです。

 大きくて怖いし、粗野で乱暴だから嫌いです。私に「惚れた」なんて言っても、誰にでも言ってそうで信用できないし、とにかく怖いから嫌いです。

 カシム君が仲間にすると言わなければ、絶対に一生関わり合いになりたくないタイプの人です。

 どうせならウサギ獣人のレック君なら良かったのに・・・・・・。

 だけど、カシム君は、そんなマイネーさんと随分と親しくなって、話しているときもリラックスして楽しそうなので、そう考えると、やっぱり実は男色趣味なのかも知れないのよね・・・・・・。

 それなら、やっぱり、ここはレック君の出番よねぇ。

 

 そうだったら、私は・・・・・・どうしたら良いのかしら・・・・・・。


「リラさん?リラさん?」

 カシム君の呼びかけに、我に返って、カシム君の背中から、埋めていた顔を離す。

 あ・・・・・・。カシム君の上着にシミが。私のおよだだ。ちょっとバラ色の景色が見えてしまったみたいだわ。

「リラさん?どうしました?」

「あ、いえ。何でしたっけ?」

 すっかり妄想に耽ってしまったわ。とんでもない田舎育ちなので、遊びと言えば妄想ぐらいしかありませんでしたから、すっかり妄想力が逞しくなってしまいました。

 おかげで、精霊の姿を見たり、話しも出来るようになったのかもしれませんが。

 そして、最近気付いたのですが、私は男の人は苦手だけど、嫌いでは無いし、むしろ偏った興味があるようです。妄想する分には男の人は怖くないですから。

 ファーンが男だったとしたら、2人のやり取りには嫉妬せずに、むしろ好ましい思いで眺めていることが出来たのに・・・・・・。などと、最近はそんな事を考えたりもします。

 ・・・・・・と、またボンヤリしてしまいました。


「ははは。リラさんの子どもの頃の話しですよ。実はおてんばだったとか?」

 カシム君が朗らかに笑う。

 この人は、きっと私がどんな粗相をしても、穏やかに優しく微笑んで許してくれるんだろうなぁ~。

 本当に好きだなぁ~。


 小さく首を傾げて右側から少し振り返る。

 カシム君の右目は完全に見えません。けれど、修行のおかげで、視力には困っていないそう。

 その為か、こうして、つい見えない方で振り返ったりする。

 カシム君の右目は、まぶたの神経が傷ついて、その周囲の表情が動かせなくなっています。ですから、右目は閉じたまま、眉の形もほとんど動かせません。

 右目だけ長い睫毛が白くて、それがとても神秘的。

 思えばその神秘的な佇まいと、自然と一体化したような雰囲気、それと、優しい眼差しと声。それで私はカシム君に一目惚れしたのです。

「ふふふ。当然、おてんばでしたよ。だから冒険者にもなったんですし」

 笑って答える。

「でも、同じ年頃の子がいなかったから、遊び相手は自然ばかりでした」

 一番近くて、10歳年上のお兄さんでした。物心つく頃には村を出て行ったので、顔も思い出せないけれど。

「そうして、自然と遊んでいたおかげで、精霊とも話せるようになったんですね」

 カシム君が真剣に聞いてくる。ミルも言っていたけど、カシム君にも、精霊の世界を見て欲しいと思う。


「カシム君も、右目を使ったら、精霊の世界が見えるんじゃ無いですか?」

 カシム君の右目は、コッコちゃんに貰ったドラゴンドロップだと言う事です。なら、何か特別な力が込められているに違いないのですが、その辺りはカシム君は話してくれません。

 コッコちゃんの話では、コッコちゃんと連絡が取れそうな感じだったのに、エレッサの防衛戦で、ファーンと試したけど、何も起こらなかったそうです。

「ああ~~。この、右目は、どうも失敗作みたいで、何も見えないんですよ。それに、自分じゃ目を開けられないし・・・・・・」

 やはり言葉を濁すけど、それは嘘だと言う事ぐらいはすぐに分かります。でも、何か深い事情があるに違いないと信じています。カシム君は竜騎士の承認を得るほどの人なのだから、特別な事情の1つや2つはあって当たり前です。 


「でも、俺も精霊の世界を見てみたいとは思います。仲間と同じ景色を見てみたいもの」

 カシム君が穏やかに笑う。

「どうやって見れるのかな?」

 私はおかしくなって、思わず笑ってしまう。

 そう言うカシム君の目の前には、今、エリューネが飛んでいて、頬を叩いたり、右目をこじ開けようとしたり、いたずらしていたのです。

「私は、ボンヤリと、周囲全体を見る感じで森の中を歩くのが好きでした。そうすると、何かを集中して見るよりも、より多くの自然の変化に気がつくことが出来ます」

 これが精霊を見る能力に関係しているかは分からないけれど、思いついた事を言ってみます。

「ああ。それは分かります。俺も、『無明』を使うときは、そんな感じに物を見ますから。って事は、『無明』を突き詰めていったり、応用すると、精霊が見える様になるのかな~」

 そんな事を言いながら、カシム君は前方を見る。多分今、カシム君は早速「無明」を使っているんだろうなぁ。

 この人のこういう所が可愛い。


 もうしばらくは、こうしていたい。

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