第八巻 届かぬ思い
第八巻 届かぬ思い それぞれの思い 1
私たちは、6月9日のデナンでの祝勝会途中で町を出発して、一路エレッサの町に向かいました。
今回の報酬と多少の色を付けることで、馬を一頭購入して、それにランダが乗って移動開始となりました。
元々、カシム君の家の馬たちには名前があって、葦毛の子が「プラム」。灰色の子が「アップル」。どちらもフルーツから名前を取っているそうで、2頭共に
新たに購入した子は、体の逞しい
ランダは、光の鎧で先に飛んで行こうと提案したのですが、カシム君が、「仲間なんだから一緒に行こう」と言う事で、馬を購入しました。報酬の消滅と、それにプラスする形での出費はありましたが、それは、仕方が無い出費と捉えましょう。
それに、歩きの旅も、馬車の旅も良いのですが、馬での旅も、私は好きです。
乗馬の練習に夢中になっているミルとファーンは、2人で交代しながら、楽しそうにしているので、必然的に、私はカシム君と一緒の馬に乗って移動する事になるので、2人でおしゃべりを楽しめます。
「カシム君。お城で暮らしていた頃は、どんな風に過ごしていたんですか?」
「そうですね~。王城の5階だったので、屋上庭園でかくれんぼうをしたり、景色を眺めたり。後はアクシスと修行ごっこや冒険者ごっことか」
カシム君は苦笑いするけれど、その苦笑の中に、アクシス王女殿下への深い愛情が見える事は、女にはすぐにわかる事。
カシム君にとって、王女殿下が特別な人だというのは分かりますが、それを隠す事もせずに嬉しそうに他の女の人の前でするのは頂けませんが、私は、そんな素直で純粋なカシム君の事が好きです。
「王女様と冒険者ごっこしたんですか?」
私は少し驚く。あの王女殿下、凄く小さく儚そうな、お話に出てくるお姫様そのものなのに、冒険者ごっこをするイメージが湧かない。
「いや。アクシスは、結構活発なんだ。
カシム君は、多少性格に難ありな子が好きなのかしら?
「リラさんは、村ではどんな子どもだったんですか?」
カシム君が笑って質問を返す。私は、あまり村の事は話したくない。あまりにも田舎で、王城育ち、王都育ちのカシム君に話すのは、気が引けてしまうのです。
「小さい村だったので、特に何もありませんでしたよ。日が昇ると、家の手伝いをして、日が暮れると、家族で集まって食事をして。星を見ながら歌を歌ったり、物語を話し合ったり」
普通の家だったなぁ。語って聞かせるエピソードなんて、これと言ってないのです。
カシム君は特に普通じゃ無いけど、ファーンもスラム育ちで、「歌う旅団」のアインと旅をしたりしていたそうです。
ミルだって、幼い頃から旅をしたり、修行をしたり。そもそもハイエルフと言うだけで、話のネタには困らないわよね。
私は、今でこそ「吟遊詩人」をして、アメルでそこそこ評判になり、王城での歌も歌ったけれど、本当は普通すぎる、つまらない女なんだなぁと、つくづく思います。
そう。私は本当に普通の女です。
だから、恋もするし、嫉妬もします。どんなに大切な仲間だとしても、私はそんな仲間相手でも、いつも嫉妬したり、自分と比べては落ち込んだりしてしまいます。
私が男の人苦手で、カシム君にも、どうしても素直に自分の感情を出せないのが悪いのは分かっているけど、これでも最近はがんばっていると思います。
こうして、一緒に馬に乗って、ここぞとばかりにギューギューってしがみついてみたり、に、においとか密かにかいで楽しんでみたり・・・・・・。あれ?これは「頑張り」と違うかな・・・・・・。
ミルも、ファーンもカシム君と平気でいろんな事話せるのはずるいと思う。
ミルは、いつもベタベタくっついて甘えていて、本当に羨ましい。我が儘を言っても、カシム君は、ちょっと困った顔をしながらも、なんだかんだと甘えを受け入れるし、甘えて貰って嬉しそうにしているのが分かります。
今はミルは子どもっぽいから何となく許してしまうけど、ミルは「早熟型」らしく、早く大人になるとの事なので、これはちょっと目が離せないわよね。
ファーンは、カシム君に男と間違えられていたけど、女と分かっても、カシム君はファーンにだけは素をだして、リラックスして話している。ファーンはカシム君にとって、今も、唯一無二の存在で有り続けているのです。
これが「友達」としてなら良いけど、ファーンは実はとても可愛い顔立ちをしているので、城でドレスを着ていたファーンに、カシム君が目を白黒させていたときほどハラハラした事は無かったわ。
それと、ファーンは自覚は無いみたいだけど、カシム君に恋していると思うねよね。多分。
お姫様はあからさまな好意を示しているし、コッコちゃんも妹としてだとは思うけど、恋は恋だもの。
お屋敷にはとても素敵なメイドさんもいるし、こういう言い方はどうかと思うけど、カシム君の回りには私の恋敵ばかりみたいです。
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