神の創りし迷宮  打ち上げ 4

 ミルの「早熟」発言に、真っ青な顔をして固まるリラを見て、ピフィネシアはまたしても首を傾げる。

「リラさん。あなた、精霊使いよね。人間なのに、凄いわ」

「い、いえ。そんな・・・・・・」

 我に返ったリラが、恥ずかしそうに言う。

「でもシルフがとても成長しているわ。その内、最上位精霊に進化しても不思議じゃないわ。ハイエルフでも多分滅多に出来ないことだわ」

 ピフィネシアの言葉に、竜の団全員が驚く。

「と言っても、私も初芽だから、本当はまだ良く知らないの。一度エルフの大森林に行ってみると良いわ」

 ピフィネシアの言葉に、カシムとファーンとランダが凄く嫌そうな顔をする。

「でも、精霊魔法を使うと、力のコントロールが上手くいかなくって、すぐに倒れてしまうんです。どうしたらもっと上手く使えるようになりますか?」

 ピフィネシアは、顎に手を当てて考えながら言葉を紡ぐ。

「そうねぇ~。まずは自然や事象を受け入れて、精霊に愛情を注ぐ事。それと、自らの力と、精霊の力を適切に畏れて、それでも恐怖に負けない事。後は精霊や全てに宿る力の存在を認めて、見つけようと努力する事・・・・・・かしら?」

 ピフィネシアの言葉は象徴的に過ぎたが、ファーンとリラは、少し考えてから顔を見合わせる。

 そして、ファーンが恐る恐る確認する。

「それって、要約すると、『愛』と『勇気』と「信じる心』って事ですか?」

 それを聞いたピフィネシアが朗らかに笑う。

「そうそう。そんな感じね!」

 それは、以前にミルが言っていた事だが、その内容と、教えの大本おおもとがミルの父親ヒシムだった事から、全員に嘘だと断言された物だった。なので、ミルが頬を膨らませて怒っている。

「だから言ったじゃん!!ハイエルフの強くなる方法だって!」

 それを聞いて、クララーが笑って情報の補正を行う。

「今のは精霊魔法の上達法だよ。ハイエルフも僕たち同様、鍛えたり、戦闘経験値で強くなるよ。ハイエルフは僕ら人間や神、魔神に出来る事は全部出来るんだ」

 クララーの説明に、竜の団は驚きと共に納得もする。ただし、クララーはゴッドハーフだ。

「まあ。ピフィーの言うように、一度エルフの大森林に行ってみると良いよ。そんなに怖がらなくても、僕はちゃんと生きて帰って来れたんだから、多分、大丈夫さ」

 その言葉にも驚くが、「多分」の所を聞き逃す竜の団では無かった。カシム、ファーン、ランダが嫌そうな顔をする。


「あら?あなたの持ってるの、『リスのほっぺ』じゃない?良いわねー。私も里から貰ってこようかしら」

 ピフィネシアが、今度はファーンの持っているリュックを見て言う。

「リスのほっぺ?」

 ファーンがリュックを見ながら首を傾げる。

「あら?違ったかしら?私の里ではそう呼んでいたわ?」

 カシムには、その意味が分かったようでわななく。

「まさか、『月視の背嚢』の『月視』って、『げつるい』から来ているのか?」

「多分そうよ。リスのほっぺみたいに、いっぱい物が入るリュックだもの」

「知りたく無かった・・・・・・」

 ファーンとカシムがうな垂れた。

「次からこいつ、なんて呼ぼうか・・・・・・」

 ファーンがリュックを手に眺めて、深いため息を付いた。


「君たちと会えて面白かったよ。来てみて良かった」

 クララーたちが去ろうとしていたので、カシムが立ち上がって声を掛ける。

「あ、あの。クララーさん!」

「クララーでいいよ」

 クララーは爽やかに笑う。

「じゃあ、その、クララー」

「なんだい?」

「歌う旅団のランネル・マイネー。彼が俺たち竜の団に入ると言ってまして・・・・・・」

 カシムの声に、アインが叫ぶ。

「えええ?!そりゃ無いぜ!!」

 だが、クララーはアインに怪訝そうな顔をする。

「なんでだよ?別にいいじゃん」

 歌う旅団のリーダーは、軽い感じでマイネーの移籍を承認する。

「そりゃあ、あんたらは良いよ!!でもマイネーの兄貴がいねぇと、ウチらメチャメチャじゃんか!!」

 クララーとピフィネシアが心外そうな顔でアインを睨む。

「どこがメチャクチャなのよ?!」

「そうだぞ!ずいぶんな言い様だな!」

「もう、こいつら自覚ねぇんだよぉ~~。マイネーの兄貴ぃ~~」

 うな垂れるアインの背中を、ファーンが叩いて慰める。

「あんたも苦労してるんだな~」

「愛弟子、お前もか?!」

「ああ」

 2人でヒシッと抱き合って慰め合う。

 今度はカシムたちがふくれっ面をする。

「心外だな!」


「竜の団。マイネーの事は別にいいよ。あいつの自由さ。まあ、うるさい奴だけど、よろしくね」

 実に軽い調子で、歌う旅団は去って行った。アインだけは後ろ髪引かれる様子だった。

「変わってるけど、いい人たちだったな」

 カシムが言うと、一同は、またテーブルに向かい合う。

「続きだ」

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