神の創りし迷宮  打ち上げ 3

 そんな中、カシムたちはそうした表彰そっちのけで、1つのテーブルに丸くなって、お互いの表情を窺って黙っていた。


「おい!にらみ合っててもしょうがねーだろ!?さっさと見せ合おうぜ!!」

 ファーンが言う。

 誰も自分の新しいステイタスを見ていない。ここで初めて発表して、自分でも数値を確認するのだ。

 全員の顔に緊張が走る。

 いや、ランダだけは呆れた表情でため息を付く。

 そもそも、元のランダの数値はレベルしか知らないのだから、カシムたちにはここで発表されても面白みが薄い。

「俺から見せるよ」

 ランダが無造作にテーブルの上に冒険者証を開いて投げる。

 全員がそれをのぞき込む。

「おお?!」

「おおおおっ!!」

 ランダの元々のレベルは42だったはずだ。

 ランダ・スフェイエ・ス

 職業 黒魔道師

 レベル 44

 力   343

 体力  266

 俊敏性 223

 器用さ 276 

魔力  554

 魔力適性 光・地

 潜在性  B

 スキル  空欄


「2、上がってる!!」

 ミルが小声で叫ぶ。

 本来ステイタスは、個人情報だから公表するものでは無い。だから、ヒソヒソと頭を付き合わせて、表彰のどさくさに紛れてやっているのだ。

「じゃあ、次はオレな!」

 そう言って、ファーンがテーブルに冒険者証を出す。

「ぶっふっっ!!!うはははははっっ!お前また、念写失敗してやがる!!」

 カシムが爆笑し、ミルとリラも吹き出して笑う。

 ポーズを決めようとしたのだろうか、恐ろしく念写がぶれている。ほぼ原型を留めていないが、これでも冒険者証で通用するのだろうか?

「ほぼほぼ幽霊みたいになってやがるな!!」

 カシムのその言葉に、ランダも笑いを堪えているのか、小刻みに震えていた。

「う、うるせー!!ってか、マジかよぉ~・・・・・・」

 文句を言ってみたが、ファーン自身驚き、呆然として念写を見る。だが、気を取り直して、自分のステイタスを見て喜ぶ。

「よっしゃ!レベル3キープ!!」

 確かに冒険者証のレベルは3だ。

「おい。それって喜ぶ事かよ!?」

 カシムが呆れた様子でファーンを見る。リラもミルも、怪訝そうにするが、ファーンはキョトンとする。

「あれ?言ってなかったっけ?『探究者』って出来るだけレベルを低くしておかなきゃいけないんだぜ?」

「聞いてねぇよ!!」

 カシムが叫ぶ。

「あれ?あれあれ?いや、わりわりぃ!でも、今回は結構戦闘とかしたし、色々あったから、レベル上がるかと思ったぜ。セーフだ、セーフ!!」

「ファーン。お前絶対騙されてるだろ」

 カシムが唸る。

 

 そこに歌う旅団がやってくる。

「おう、ファーン!久しぶりだな」

 黒い稲妻アインである。

「おお、アイン!久しぶり!」

 ファーンが当然の様に気軽に挨拶するので、全員がギョッとする。

「え?お前知り合いなのか?!」

 カシムの言葉に、ファーンがカシムを睨みつける。

「お前ぇ!!何回目だと思ってんだよ!!」

 カシムが首をすくめる。かつて、スラムの孤児だったファーンを救ったのは、アインを名乗る偽者だと思い込んでいたのである。

「い、いや、すまない」

 カシムが慌てて謝るが、ファーンは睨み続けている。

「お前が、噂の竜の団にいるって聞いて、気になってたんだ。どうだ、調子は?」

 アインが気さくにファーンに声を掛けながら、カシムたちにも笑いかける。


「見てくれ、アイン!!」

 ファーンが得意げに冒険者証をアインに見せる。

『うわ。これは怒られるぞ』

 カシムたちは首をすくめる。

「うわ!何だ、この念写?!これ有りなのか?!」

 アインが笑いをかみ殺しながら言う。

「ちげぇ!そっちじゃねぇ。レベルとステイタス見ろって!!」

 ファーンが真っ赤になって言うと、アインが数値を確認する。

「おお!すげぇな!!レベル3とか、マジかよ!!がんばってるな!!」

 他のメンバーの不安を余所に、アインの反応はすこぶる良好だ。

「手帳はどうだ?」

 ファーンが手帳をアインに見せながら、2人で話し出す。


「ごめんなさいね、お邪魔しちゃって」

 ハイエルフの、ミル以外のもう1人の初芽、ピフィネシアが笑いながら言う。

「僕たちは今回参加しないつもりだったんだけどね。噂の竜の団が参加するって言うから、面白そうだから来ちゃったよ」

 屈託無く笑うのは、銀髪の光の皇子ポアド・クララーだ。柔和な顔立ちで、女性のように見える。だが、実に堂々としている。

「あ。いえ。お会いできて光栄です」

 カシムが立ち上がって礼をする。

「まあまあ。気にしないで座ってよ」

 クララーが着席を促すと、カシムは怖ず怖ずと座る。そして、憧れのピフィネシアにチラチラ視線を送っていた。

「一応紹介しておくよ。僕がクララー。こっちがピフィネシア。で、アイン。それから、迷惑かけちゃったのがシャナだ。すまなかったね。そして、ウチのアイドル、ティナ嬢だ!可愛いぞ~!!」

 クララーは、一番得意げに、小さい女の子を紹介する。

「はじめまして」

 少し緊張しながらも、クルリと一回りしてお辞儀をする少女の仕草に、カシムもリラもクララーもデレデレになる。

「ただし、いくら可愛くっても、下手にちょっかい出さない方が良いわよ。怖~いお父さんが睨んでるからね」

 ピフィネシアがシャナを指さして笑うと、シャナがむすっとした表情になる。


 それから、カシムたちも自己紹介をする。

「あなたね。新しい初芽は」

 ピフィネシアがミルをジッと見つめると、首を傾げる。

「なぁに?」

 ミルも首を傾げる。

「あなたって早熟タイプなのね・・・・・・」

「『そうじゅく』って、何?」

 ミルがリラに尋ねるが、リラは表情が強ばったまま固まっている。

 そこで、ピフィネシアが代わりに答える。

「早熟って言うのは、早く大人になるって事よ」

 それを聞いたミルは、もの凄く嬉しそうな顔をしてリラとファーンを見て胸を張る。

「あたし!早熟なの!!」

「マ、マジかよ・・・・・・」

 アインに手帳を見せていたファーンが唸る。


「おお。すげぇな、ファーン。『鷹の目』の訓練とか見れて羨ましいな」

 アインが手帳をファーンに返す。

「これなら、次に会うときにはマスターになれそうだ。その時に老師に紹介するぜ」

 アインの言葉に、ファーンが喜ぶ。アインが、カシムに向かい頭を下げる。

「カシム君。竜の団の人たち。ファーンの事を理解してくれて、ありがとう。探究者の道は、まず周囲の理解者を得る事が困難だ。よく、コイツを見捨てずに付き合ってくれた」

「お、おい。よせよアイン」

 ファーンが言うが、アインは無視してファーンの頭をガツッと掴んで、グイッと頭を下げさせる。

 カシムは慌てて首を振る。

「とんでもないです、アインさん。ファーンは俺たちには無くてはならない仲間です。俺たちも助けられています」

 アインが安心したように笑う。

「そっか。良い仲間に会えた事を感謝しろよ!」

 アインがファーンに言うと、ファーンは赤くなって唸る。

「わかってるよぉ。お前はオレのかーちゃんかよ・・・・・・」

「ハッ!お前、かーちゃんに捨てられたくせによ」

「うっせー!ヒヒヒ!」

 カシムたちでは言えないような事をさらりと言えてしまう辺り、ファーンとアインの絆の深さが感じられる。

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