神の創りし迷宮  打ち上げ 1

 ダンジョンまで、あと10分程度の所まで来ていた白竜は、巨大な魔物の気配が消えたのを感じたので、宙で静止する。

「おや?人間があれを倒したのですか・・・・・・」

 人間が戦っているのは感じたが、まとめて焼き払うつもりでいた白竜は、小さくため息を付く。

「であれば、ジーンとの約定を果たさねばなるまいな・・・・・・。まあ、面倒なことを引き受けたものだ」

 そう言うと、一気に高度を上げて、地上からは見えないほどの高さまで上がっていった。


 

 黒竜も、白竜と同時に、巨大な魔物の存在が消えたのを確認する。

「ぬうう。もしやカシムに会えるかとも思ったのじゃが・・・・・・。まあ、まさかあんな所には用はあるまい」

 そう呟いて、デナトリア山に飛び去って行った。




◇     ◇




 野営キャンプの防衛も成功した。

 攻撃陣や防衛陣でも死者は少なくなかったが、少なくとも、非戦闘員には死者は出なかった。

 

 また、ダンジョンから脱出できずに崩壊したダンジョンに取り残された冒険者グループもいくつかあることがわかったが、これはもう手の打ちようも無い。


 地上にあふれ出した魔物のほとんどは、四方に散らばって行ったが、これはグラーダ軍が殲滅してくれる事を信じるしか無い。


 キャンプの防衛には成功したが、物資のほとんどは魔物の襲来によって失ってしまったので、冒険者たちは任務達成を喜んだのも束の間で、すぐにデナンの街に向かうべく準備を始める。とは言え、準備する物もほとんど無い状態なので、すぐに行動が始まり、夜明け前には列を成して行進していた。

 

 幸いなのは、馬たちが無事だった事だ。これは、主に黒猫のメンバーが率先して、うまやを防衛してくれていたおかげだ。

 無事な馬車には、自力で歩けない人たちを乗せている。




「よう!ウンコの英雄!!」 

 動けずに荷馬車で運ばれるファーンを見舞ったとたん、とんでもない悪態をつかれる。

「なんだよ、『ウンコの英雄』って!!」

 俺が文句を言うと、ファーン同様、重傷で動けない荷馬車の冒険者たちも、ファーンと一緒になって笑う。

「ヒヒヒ!お前さ、魔王の口から入ってケツから飛び出したんだぜ!!」

 周囲の冒険者たちが爆笑する。

「ヒッヒッヒッ!!まるで、ヒィ!まるで、ウンコそのものっ!ヒィ!!」

 涙流して笑ってやがる。

「くっそう!何て事言いやがるんだよ!!」

 俺が文句を言うと、ファーンが手を振る。

「違う違う!言い出したのはオレじゃないって!」

「じゃあ、誰だよ!!」

 ファーンが指さした人物を見て、俺は頭を抱える。

 アルフレアのリーダーだ。あの後名前を教えて貰ったが、リードさんだな。今も真っ赤になって笑いを堪えている。

「あの・・・・・・」

 俺がじろりと見ると、リードさんは表情を整える。

「ち、違うよ。ぼ、僕じゃない!!」

 この人、センス・シアのくせに下ネタ言わない真面目な人だと思っていたのに・・・・・・。

「いや。その・・・・・・すまない」

 ああ。センス・シアは信じられない・・・・・・。


 俺はファーンに見切りを付けて、別のもっと良い馬車に乗るリラさんとミルを見舞う。

「リラさん。ミル。大丈夫ですか?」

 声を掛けると、ミルが幌から顔を出す。

「リラ寝ちゃってる」

「そうか・・・・・・。大丈夫そうか?」

 またしても精霊魔法で無茶させてしまった。

「お兄ちゃんほどじゃないよ」

 ミルが笑う。俺は馬に乗っているが、出来れば横になりたい。ちなみに、俺の後ろにはランダとパーティーを組んでいたイェークが乗っている。すっかり寝息を立てている。

 もう1頭の馬にはランダが、シスと一緒に乗っている。こっちは話しをしているようだ。無口なランダが、おしゃべりなシスの相手をがんばってしている。光の鎧はブローチに戻しているので、貴族か王子の様な服装で絵になる。


 歌う旅団は、戦闘が終わると、さっさとデナンに向かって行ったそうだ。シャナも、あの後は、アインと共に戦っていたそうだ。

 

 アカツキの連中はこの一団を先導している。

 

 ピレアは戦い方が無謀だと、ランダに叱られていたので、今はしょげかえっている。この2人は知り合いだったんだな。

 ピレアが、ランダの言う事を聞いていて面白い。

 

 黒猫たちは一団の殿しんがりを勤めている。・・・・・・と言うか、みんなが黒猫を恐れているので、一番下がった位置にいるようだ。

 

 それから、オレンジ色のおっさんは、結構有名な冒険者で、名前をガーランド卿と言う。職業名は「遍歴の騎士」だそうだ。遍歴の騎士とは、仕える主君を持たず、世界各地を旅している騎士のことだが、領地もある貴族らしいので、単に「旅している騎士」と言うことなのだろうか。

 ギリギリ強くて、そこそこ頼りになる人として、結構冒険者に慕われている好人物だそうだ。

 ただ、こうして考えていると・・・・・・。

「我が輩はまだ若いのである!!がっはっはっはっ!!」

 何故か、思考を読んだかのような反応が返ってくるのが不気味だ。

 若いのか・・・・・・。

 

 1人元気なユリーカは、ここぞとばかりに、いろんな冒険者にインタビューして、うんざりされていた。俺の所にも来たが、うるさいので適当にあしらった。決して「パイドン」じゃないからでは無い。



 今回は沢山の冒険者たちと出会って、顔と名前が洪水の様に溢れていて、いちいち覚えきれないな。


 そんな事を考えていたら、グラーダ軍の包囲網と出会った。

 どうやら、魔物の群れは殲滅できたようだ。

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