神の創りし迷宮  旅団 5

 魔王は、クララーの攻撃も、アインの攻撃も素早く左右に動いて躱し、水のヘビを従えるピフィネシアさんに迫る。

 つまり、こっちに向かってきている。

「みんな!やるぞ!!」

 俺が仲間を鼓舞する。

「はい!」

「了解だ!」

 リラさんとランダが答えて立ち上がる。

 ファーンはもう動けそうも無い。

 ミルも、今は懸命に立ち上がろうとしている。


 リラさんは俺に回復魔法を掛ける。

 ランダは長い詠唱に入る。

 俺はトビトカゲの柄では無く、鍔を両手で握りしめる。

 尖った部分が手のひらに刺さるが、そのおかげでしっかり固定できる。柄から手を離した事で、剣が超微振動を開始する。鍔を握るアイディアは、アルフレアのドワーフの女戦士が使っていた剣がヒントになった。

 同時に、脚に力を溜める。頭から背骨、腰、腿、膝、脛、足首、踵が1本の杭になるイメージで力を溜める。射出の瞬間に一瞬俺は、1本の強固な杭と化すのだ。それが「圧蹴」の根幹で有り、基礎である。

「!?」

 急に体に力が湧き上がる。 

 見ると、近くの魔法使いたちが、俺に支援魔法を掛けてくれている。


 素早く動く魔王が、至近で水の大蛇と衝突する。魔王の脚が一瞬止まった。

 その隙に、空のクララーと地上のアインが凄まじい攻撃を放つが、数十本の脚により弾かれ、更に逆撃を喰らう。

 

 ギャボボボッ!!


 奇妙な声を発した魔王の音波攻撃で、水のヘビが霧散して、俺たちの上にスコールとして降り注ぐ。

「くっ!ランダ!タイミングはまかせる!!」

 俺が叫ぶ。ランダを確認する余裕は無い。

「エリューネ。これで最後。お願いね」

 リラさんの精霊魔法が俺の足に掛けられる。ミルの両親がしていた、足が速くなる魔法だと思う。


 足には充分力が溜まっている。後はランダの魔法が決まればいける!!


 だが、その時、至近の魔王が大量につぶてを飛ばして来た。

「マズい!!」

「ガハハハハハッ!!我が輩にまかせろ!!」

 オレンジ鎧のダンディーが、俺の前に立って、つぶての攻撃を、ベコベコにヘコんだ盾で受け止める。が、衝撃のでかさに、俺をかすめて後方に吹き飛ばされる。

 その瞬間、魔王の口が、俺たちの方を向く。


『グラビティー・レイ!!!!』


 そのタイミングを逃さず、ランダの超重力魔法が炸裂する。紫色の魔法陣が魔王の上に出現して、魔王を押しつぶして身動きを封じる。魔法陣から紫色の光が、杭のように付きだして、魔王の体の側面に6本ずつ突き立つ。とんでもない魔法だ。

 エレッサ防衛戦では、オゥガのみを選別して地面に押しつぶした。威力だけでは無く、繊細なコントロールも出来る。


 グゲェェッ!!


 ランダのこの魔法は強力で、魔王でさえ、地面に縫い付けてしまう。

「行け!もう保たん・・・・・・」

 ランダが苦悶の表情を浮かべる。

 だが、開いた口から、魔王が無数の火の玉を発射する。1発が真っ直ぐ俺に向かってくる。

「させない!!」

 俺の前に飛び出したのはミルだ。腕を大きく広げて、迫る火球を真っ二つに切り裂く。

 そして、そのまま地面に倒れ込みながら、俺の剣に向けて指を振る。

 俺の剣が赤く輝いた。炎属性付与だ。


「うおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 俺は全力を振り絞って、最高の「圧蹴」を発動する。

 俺の足元が強く発光し、俺は凄まじい速度で走り出す。

 赤い輝きを放つ、超振動する剣の鍔を両手で掲げて、こっちに向いて開いている魔王の口の中目がけて突進する。

 距離、50メートル。

 圧蹴、2歩、3歩、4歩!

 光の足跡を残して、俺は巨大な口の中に突入する。

 5歩、6歩!

 口の中のその奥に、またしても口があり、巨大な牙が蠢いている。その奥に白い塊が見えた。

 牙を躱して、最後の圧蹴7歩目!

「うおおおおおおおおっっっ!!!」

 俺は白い塊に突進する。

 炎の精霊魔法、風の精霊魔法、攻撃、防御の支援魔法を受けた俺は、一本の矢となって、魔王の体内を突き進み、肉を切り裂き、体の外に突き抜けた。

「うわああああああっっっ!!」

 俺は勢い余って地面に落下して、剣を放り出して激しく転がる。

 ようやく止まった俺は、顔だけ上げて、魔王を見る。


 魔王は動きを完全に止め、痙攣した後、肉がそげるように体の外側がはがれ落ちて、白い塊がむき出しになって動かなくなる。

 それを見て、俺はため息を漏らす。

「ああ。終わった・・・・・・」

 冒険者たちが快哉を叫ぶ。ああ。終わったんだ。

 ヒュンヒュンヒュン!!

「うわあ、危ねぇ!!」

 ギリギリの所で、回転して飛んで来たトビトカゲを転がって避ける。トビトカゲが地面に刺さったので、這いつくばって飛びついて、鞘に収めた。

 そして、再び魔王を見るが、やはり魔王は完全に活動を止めていた。

「もう、頭を掻く力も残ってないよ・・・・・・」

 そして、その場に仰向けになった。

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