神の創りし迷宮  旅団 3

 クララーは、空を駆けながら、巨大な魔王を見下ろして笑う。

「でっかいなぁ~。もう動き出せるのか」

 魔王が再び動き出して、宙を駆けるクララーを沢山の目で追いかける。

 

 クララーが宙を走っているのは、理由がある。

 アカデミーで研究されている「魔力を固定化」する鉱石、「メタナイト」。

 2ヶ月と少し前に、王城で発表して高い評価を受けた研究が、あれから進歩して、小さな豆粒大のメタナイトに、少量の魔法を込めて保存出来るようになった。

 そして、それに衝撃を与えると、2秒後に砕けて、その場に拳大の魔力を固定する事が出来るようになった。

 「それが何だ」と言うような研究結果だが、それに協力していたクララーは、大量のメタナイトを貰っていた。

 

 今、クララーは左手でサーベルを持ち、右手に沢山握り込んだメタナイトを指で弾いて、空中に目に見えない魔力を固定化している。その魔力の塊は、数秒で消えてしまうが、クララーはそれを足場にして跳躍しているのだ。

 こんな芸当が出来るのは、クララーぐらいである。

「ふふふ。便利、便利~♪」

 クララーは楽しそうに宙を跳躍する。

「さて、行くか」

 そう言うと、クララーは魔王目がけて落下していく。

 クララーは落下しながら、全身がまばゆく輝く。

 そして、細いサーベルを一閃すると、ただの一撃で、魔王の腕が、1本切断された。

 

 地上からは、黒い稲妻の様な槍の一撃が、魔王の脇腹を大きく抉る。


「アーちゃん。押しとどめて」

 ピフィネシアが、魔王を前に、踊るように腕を振るう。

 すると、空中から水が湧き出して、巨大なヘビの様になり、魔王に向かって突き進む。水の勢いで、魔王はその場に押さえつけられる。

「砂漠が近いと、アーちゃん、力が出ないわね」

 ピフィネシアはそう言いながら、優雅に腕を振るい続ける。




 野営地キャンプで、大量の魔物と戦っていたアカツキの竜殺しザクゥが叫ぶ。

「『歌う旅団』が来たよ!!」

 銀武者ロイは、派手な水の精霊魔法にうんざりしたように呻く。

「チクショウ!元気な奴が今頃ノコノコ来やがった!おいしいとこ持っていくなよ!」

 テンマが金のマスクの中で苦笑する。

「それでカタが付くならかまわんさ」

「出たよ、お人好し!!」

 ロイの罵声に、他のメンバーも肩をすくめる。

 

 キャンプの魔物は、大分数を減らしていた。キャンプを素通りしていったり、思いの外冒険者の抵抗が強くて、攻撃を諦めて走り去る魔物も少なくなかった。

 キャンプ内の防衛は成功しつつあるが、かといって、今から魔王との戦いに駆けつけるほどの余裕は無い。

「俺たちが任されたのは、ここの人たちを守る事だろう」

 テンマの言葉に、黒騎士シンが珍しく「そうだな」と言葉を返す。



◇      ◇




歌う旅団の戦いに、俺は思わず見とれてしまった。

「なんて戦いだ・・・・・・」

 強いとかいうよりも、綺麗で、魅力的だ。胸が熱くなってくる。正に英雄の戦い方だ。


 レベルの高い奴は、もう回復したようで、魔王との戦いに復帰していく。

 黒い影に乗って、シズカさんが飛んでいく。アレもどうなっているのやら。みんな凄すぎて驚いてばかりだ。

 俺も動けるようになったので、立ち上がり、魔王に向かっていこうとしたが、ファーンが止める。

「待て、カシム!!」

 俺はファーンの方を向く。

「どうした?!」

「奴の弱点がわかった!」

「何っ!?」

 俺たちは、魔王から目を離さないようにしながら、全員でファーンの話しに耳を傾ける。リラさんは俺への治療を続行してくれている。

「アイツ、腕とか足とか、体とか切られても、ちっともダメージが無いな」

「ああ。それは俺も感じる」

「だけど、2回だけ、奴に攻撃が効いた」

 んん?そうだったか?

「切れた足のことか?」

「いや。あれは何か、オレンジのアレのせいだ」

 地獄の蓋の事か。アクシスの力のおかげだな。

「でも、関係なくは無いな。攻撃は2回ともお前がやった攻撃だぜ、カシム」

「嘘だろ?!」

 俺が驚く。

「本当だ。一度目は、切れた足に剣を投げただろ?あの後、魔王が身震いして叫んだ」

 たまたまだろう?

「次は口の中に剣を投げただろ?アレがなかったら、俺たちほとんどが死んでいたはずだ」

 俺は手元の剣を見る。確かにそれは俺も思った事だ。

「でも、何で?」

「まずはその剣と奴の相性だ。確かその剣、柄から手を離すと超微振動するんだよな?それが奴には効くようだ」

「マジでか?!」

「多分だ。それから、奴の体。アレは言ってしまえば髪の毛みたいな物だと思う。奴の本体はもっと小さい。それを大量の外皮で覆っている。だから、外側を切られただけじゃ意味が無い。カシムが足に攻撃したときに、奴の本体に刺さったんだと思う。だから、その衝撃で動き出したんだろう」

 本当か?

「じゃあ、体の中の本体を傷つける必要があるのか?」

 ファーンが頷く。

「そうだけど、多分奴の本体は、口の中のずっと奥だ。カシムの投げた剣の速度と、到達時間から考えると、人間で言うへそ辺りだ」

 魔王の胴回りを見て、俺はげんなりする。

「チャンスはあるだろ?」

 ファーンがそう言うので、俺はファーンの言わんとしていることを理解して戦慄する。

「やれるか?」

 俺が言うと、ファーンが仲間を見回してから頷く。

「やれる!!」

 こいつ、本当にたいした奴だ。俺は生唾を飲み込んでから、覚悟を決めた。

「よし、やるぞ!!」


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