神の創りし迷宮  旅団 2

 最強のパーティー「歌う旅団」。リーダーは「光の皇子」ポアド・クララー。そして、「アイン」とは、「黒い稲妻」マイアス・アイン。そして、美しい声の持ち主は、「清廉なる歌姫」ピフィネシアさんに違いない。

 3頭のペガサスが地に降り立つと、その馬上から、5人下馬する。


「アーちゃん。お願いね」

 歌うような声で、多分ピフィネシアさんが言うと、突然空から雨が降ってくる。水色に近い薄緑の長い髪に、綺麗なハイエルフのドレスのような衣装。紺色のマント。尖った長い耳。

 噂に違わず美しい。

 雨粒に当たると、その部分から痛みが引いていく。回復の雨の精霊魔法か?!

「君たちはちょっと休んでいな。魔王は、僕たち『歌う旅団』が引き受けた」

 楽しそうな弾む声で言うのは、光の皇子だろう。輝くような長い銀髪に、女性のような柔和な顔がいたずらっぽく笑みを浮かべている。

 やっぱり「歌う旅団」だ。なんて心強い援軍だ!!


「また勝手に!アレ、手に負える相手じゃ無いだろうが!!マイネーもパインもいないんだぞ!!」

 つんつん立った黒髪の長身の男がクララーに文句を言う。

 腰に2本の剣。背には長い槍。防具は軽装。ズボンはゆったりしたものを履いている。

 オオカミの獣人、「マスター」のアインに違いない。

「シャナ。ティナを頼むな」

 アインの抗議に全く耳を貸さずに、黒いマントの男にクララーが話しかける。

 黒マントの男の鎧は、まるでオゥガの顔の様な、恐ろしい形をしている。

 男は無言で頷くと、その足元にいる、とても小さい少女を抱え上げる。

 この男が「闇の皇子」シャナなのだろう。

 あの小さい子は誰だ?ウェーブした赤い長い髪だが、耳が小さく尖っている。ハーフエルフか?

「さて!あんまり時間は無いぞ!ペガサスは借り物だから、お帰り願おうか」

 クララーがペガサスの首を叩くと、ペガサスは少し走り空に舞い上がっていった。

「さあ、ティナ!!俺たちに力をくれないかい?」

 クララーとピフィネシアさんが、シャナが抱えた子どもに近寄る。

「がんばってね、みんな!!」

 元気な声で、歌う旅団のメンバーを、ティナと呼ばれた子どもが応援する。

「はははは!効くね~!力が湧いて来ちゃったよ!!」

「かっこいいところを見せましょうね!」

「ちっ!チビに言われたんじゃ、仕方ねぇな」

 そう言うと、アインが影の様に走る。

 そして、クララーは空を駆け上がる。どうなっているんだ?!


 くっ!俺も参戦したいが、体が動かない。

「カシムくぅーーーーん!!」

 今度は何だ?!

 振り返ると、うわ!?こ、今度はリラさんがミルと手を繋いで空から降りてきている。どうなっているんだ?!

 と、いうか、スカート、スカート!!

 片手で必死で抑えているけど、かなりギリギリまでめくれ上がっている!!み、見ちゃダメだ!!

 だが、悲しいかな。どんなに瀕死でも、目を逸らす事など出来ないのだ!!

 見え、見え、見え、見え、見え~~~~~、無い・・・・・・。

 顔だけはシリアスを保ちつつ(多分)、心の中ではガックリする。

「み、見えました?!」

 照れた様子のリラさんが可愛い。

「何がですか?」

 俺はすっとぼける。リラさん、元気になったようで良かった。

「お兄ちゃん!ボロボロだよ!!」

 ミルが俺に駈け寄る。

「ああ。動けない・・・・・・」

 リラさんがすぐに回復魔法を掛けてくれる。

 ピフィネシアさんの雨と、リラさんの回復魔法で、痛みが徐々に引いていく。

「リラ!!目が覚めたのか!?」

 ファーンとランダも駈け寄ってきた。

「もう大丈夫!」

 リラさんが答える。

「飛んで来たぜ?!」

 それな。

 飛行魔法なんて、まだ無いはずだ。クララーも飛んでいったが、あれはどうやってるんだ?

「エリューネの風で運んで貰ったの」

 うわぁ。リラさん益々何でも有りになってきた。精霊魔法凄過ぎるだろ。

 しかし、こうして全員揃うと、体はボロボロだけど、力が湧いてくる。


◇     ◇




「野営地キャンプからの連絡が入った!」

 白蓮騎士団の団長にして、十二将軍の一翼であるケレム・アスラン将軍が、騎馬で防衛線の前を横切りながら兵士たちに語りかける。

「おびただしい数の魔物がこっちに向かっているようだ!どうだ?!嬉しかろう!!」

 兵士たちが笑う。

 魔物の大軍が迫って来ているにも拘わらず、白蓮騎士団率いる軍団は、畏れるどころか、猛る気持ちを抑えきれない風である。

「喜べ!ようやくの実戦だ!しかも相手は魔物だ!こんなに嬉しい事は無い!!」

「おおおおおおおおおおっっ!」

 アスラン将軍の言葉に、兵士たちも雄叫びで応える。

「目に物を見せてやれるぞ!!鬱憤を晴らせ!俺たちこそが、世界最強のグラーダ軍である事を、世界中に喧伝してやれ!!」

「うおおおおおおおおおおっっ!!」

 兵士たちの熱狂は凄まじかった。


 グラーダ軍によるダンジョンを囲む包囲網は、すでにダンジョンまであと3キロメートルの距離にまで来ていた。ダンジョン方面での異変も、おびただしく舞い上がる砂塵で確認出来ていた。

 なので、メッセンジャー魔道師からの連絡が入る前に、すでに兵士たちの迎撃の準備は出来ていた。

 これは、白蓮騎士団だけでは無く、恐らく、他の将軍たちの軍でも同じだろう。

 グラーダ軍は迅速である。

 更に戦意がとても高い。


 これは、国王が冒険者にダンジョン攻略を依頼した事に起因している。

 正確には、国王ではなく、ギルドがクエストを発注したのではあるが、兵士たちとしては、自分たちこそ、魔物の侵攻を押しとどめる任務に就きたかった。

 確かにダンジョン攻略では、冒険者の方が一日の長はあると思うが、それでも、単純な戦闘力では黒ランク冒険者には遅れは取らないはずだと、末端の兵士までがそう思っている。


 グラーダ条約により、他国との戦争は、もう20年以上行っていない。それ故、今回が初の実戦となる兵士がほとんどだし、それで言えば、十二将軍の半数以上は、実戦経験はなかった。

 それによる軍の弱体化も懸念されていたが、将軍はもちろん、兵士たちも弱体化の噂は完全に否定したいと心底思っていた。

 他国であれば、内戦、紛争があり、軍は実戦をしている場合が少なくない。

 最強を自称するグラーダ軍のみが、実戦経験が無かったのだ。


 それでも、やはりグラーダこそが最強である。それは闘神王の力でも、剣聖や賢聖の力でも無い。十二将軍や兵士たち1人1人の質でも、充分に他国を凌駕した実力がある。

 十二将軍も、兵士たちも、そう主張したいのだ。

 

 そして、今、ようやく実証する好機が訪れた。

 溢れる魔物を、一匹残らず、完膚なきまでに殲滅し、圧勝してみせる。

 兵士の士気は凄まじく高い。高すぎるくらいだ。

 それはアスラン将軍も全く同じだった。


「いいか!!実戦を思いっきり楽しむぞ!!」

「うおおおおおおおおおっ!!」


 士気が高まった所で、今度は一度冷静にさせなければならない。

 副団長のエル・ダンドが騎馬で進み出る。

「さあ、化け物共が見えてきたぞ!!奴らはバラバラに動いている!!到達時間にも差がある!じっくり相手してやる分にはもってこいだ!隊伍を組んで、5人1組で、一匹に対処する!だが、1つの隊だけで独占するなよ!慣れたら待ってる奴らに変わってやれ!!」

 作戦はこんな物で、実戦の練習台としての魔物と捉えている。毎日死にもの狂いで訓練してきた事が試せるのだ。今日は手加減しなくて良いのだ。

 そこにアスラン将軍が叫ぶ。

「いいか!!もうすぐギルバート様の進言によって援軍が到着する!!だが、その前に奴らを蹴散らしてやるぞ!!援軍の連中には、死体片付けの仕事だけ、残しておいてやれ!!」

「うおおおおおおおおおっっ!!」


 戦士たちに、集団魔法の支援魔法が次々と掛けられていく。これによって、戦士たちは安心して戦いに専念できる。

 昔の戦争は、戦士は敵の足止めや、誘い込みが主な仕事で、最後は魔法使いによる派手な攻撃魔法で止めを刺していくのが基本戦術だった。

 今は違う。魔法使いが増え、魔法を使える戦士も少なくない。

 そして、魔法は支援と援護、回復が主な仕事となっている。戦争の主役は戦士の手に戻ったのだ。無論、ここぞという時の最大の破壊力を持つ魔法も重要であるが。

 そして、、戦士が安心して全力を出せる影に、魔法使いの力が、かなり大きく拘わっている事は、戦士たちも充分分かっている。

 だから、いくさ前と、いくさ後には、戦士たちが叫ぶ言葉がある。


偉大リルなるディーリアよ!!!」


 土煙を上げて迫って来る魔物の大軍に対しても、全く畏れる色を見せずに、戦士たちが飛びかかっていく。

 空を飛ぶ魔物には、長弓部隊が攻撃し、飛行部隊が飛翔して、地上に叩き落とす為に戦う。


 この日のグラーダ軍の戦闘は、凄まじい結果を生む事になる。

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