神の創りし迷宮  旅団 1

 見上げる小山の様な魔王は、まだ出現地点から動けていない。しかし、周囲を取り巻く冒険者たちの事は認識しているようだ。2本の巨大な腕を持ち上げる。

 冒険者たちが、振り上げられた腕を見上げる。あんな腕に直撃されたら命は無い。

 そこに足から大量のつぶてが射出される。

「うわああああああっっ!」

 何人もの冒険者が痛打されて倒れ込む。

 冒険者の動きが乱れたところに、鞭のようにしなる、巨大な腕が横に振られる。

 腕は、地面をえぐり、大量の土砂を振りまきながら冒険者たちを襲う。10人ほどの冒険者が宙を舞う。もう1本の腕も振り下ろされてくる。

 これはもう災害だ。

 冒険者は必死に回避するしか無い。


 更に、魔王は大きな口を開けると、真上に向かって大量に炎の玉を撃ち出した。

 炎の玉は、放射状に広がり、周囲の冒険者たちに雨の様に降りかかる。

 俺の上からも、炎の玉が飛んでくる。大きさはスイカ大だが、数が多い。

 俺は剣で次々振ってくる火の玉を切り、打ち、弾いて防ぐ。

 ランダは光の鎧で、周囲の魔法使いを庇いつつ防ぐ。

 火の玉も、腕の攻撃も一歳構わずに攻撃を仕掛けているのは、ピレアとザンだけだ。

「バーサク・ラァーッシュッッ!!!」

 ピレアが魔王の足元で光の刃を連続で叩きつけている。

 ザンは、地面に付けた腕を切り刻みながら駆け上がる。

 ピレアの場合、武器防具の性能のおかげだが、ザンの戦闘力は群を抜いている。

「本当に俺、足手まといになりそうだな」

 思わずこんな状況なのに苦笑する。

「でも、出来る事はあるはずだ!」

 俺は己を鼓舞して、再び魔王に向かっていく。


 後方から、俺にいくつかの支援魔法が掛けられる。どんな効果かはわからないが心強い。

 俺はついに魔王の足元にたどり着く。

 片足にはすでに何人もの冒険者が取り付いて斬りかかったり、攻撃を仕掛けている。

 ファーンが指摘した、切断された方の足は、確かに再生の兆候は無く、ぼたぼたと、酸性の体液を零している。足の半分を失っている為、体を支えるのに、腕を1本地面に付いている。

 足の切れ口は10メートル程上空にあるが、俺は魔剣トビトカゲを構え、投擲一閃!

 剣は鍔まで一気に刺さり、震えて戻って来る。

「ダメージ与えてるのか?!」

 あまりにも敵が大きすぎて、いくら剣で切りつけても効果が無いように見える。

 それでも俺に出来るのはこのくらいだ。

 再び投擲の構えを見せた時、魔王が巨体を振るわせて、グオオオオオオオッッ!!っと叫ぶと、腕を振り上げる。横薙ぎの一撃だ。

 その振るわれる先に、動けない怪我人が何人もいて、1人の回復魔法使いが治療しながら、攻撃圏外へ引きずり出そうとしている。逃げ切れる訳が無い。

「やばい!!」

 俺は何かを考えるよりも体が先に動いた。


 「圧蹴」!!

 一気に10メートルを移動して、振るわれる腕の前に飛び出す。


 剣を構えて、巨大な壁のような腕の一撃を迎え撃とうとする。どう考えても無謀だ。歯を食いしばる。

 だが、俺の後ろには、動けない冒険者や魔法使いがいる。

「ガハハハッ!!我が輩も手助けしよう!!」

 俺の横に、オレンジ色の全身鎧を着た冒険者が立ち、盾を構える。

「あたしもやります!!」

 正義の翼の武闘家、アリシアだ。

「正気じゃねぇな!!」

 更に、アルフレアの赤鎧の女ドワーフ、リザードマンが加わる。更に数人の冒険者も並ぶ。

「うおおおおおおおおおおっっっ!!」

 土砂を巻き上げながら迫る巨大な腕の一撃を、全員で受け止める。

「ぐあああああああああっっっ!!」

 全身の骨が軋む。


『レザリプト!!』

『グラブロック!!』

 

 衝撃魔法の援護と、土魔法だ。俺たちの横の地面から岩が隆起して、腕の勢いを減退させる。

 そのおかげで、腕は止まったが、俺たちは宙を吹き飛ばされる。

「うわあああああっっ!!」

 激しい衝撃で、ダメージが大きく、受け身を取る余裕が無い。

 すると、俺の背中を引っ張る力があり、空中で姿勢を直してくれて、地面に優しく降ろしてくれた。振り返ると、アルフレアのシズカさんが地面に座り、術によって影を伸ばして受け止めてくれていた様だ。

「シズカ、助かったぜ!!」

 赤鎧のドワーフが言う。他の冒険者も、オレンジのおじさんも助けられていた。


 だが、腕を止められた事で怒ったのか、魔王が動く。

 全ての腕を地面に付いて、地面に這うような恰好をする。

 頭頂部がこっちを向く。

 その頭頂部に口が移動して、大きく開く。

「マズい!!」

 またしても、体はとっさに動く。

 地面に座っているシズカさんの元に行き、その前に立つ。

 開いた口から何かする前にと、トビトカゲを投擲する。

 剣は魔王の口の中に消える。

 と、同時に魔王が攻撃してくる。


「ギャアアアアアアアアアッッ!!!」


 声の攻撃だ!!口をこっちに向けていたので、指向性のある音による攻撃だ。

 俺も、周囲の冒険者たちも吹き飛ばされる。だが、魔王にとって必殺の一撃だったはずだが、即死レベルの攻撃では無い。

 吹き飛ばされながら魔王を見る。トビトカゲが帰ってくる。必死でトビトカゲを受け止める事に成功してから、地面を転がる。

 

 もしかして、トビトカゲの攻撃が効いたのか?!トビトカゲの振動が関係したのか?

 わからないが、取り敢えず命だけは助かった。

 だが、立ち上がる事は出来ない。

 上体だけは何とか起こす。

「うああ。これはヤバい」

 ついに、魔王が前進を始めた。腕1本を足代わりにして、1歩、2歩と前進を始めていた。ついに地獄の重力を振り切ったようだ。

 周囲には、多くの冒険者が倒れている。アルフレアのメンバーも倒れている。

 今、無事なのは、ランダたちと、数人の魔法使いに、ザンと、オレンジのおじさんだけだ。

「ガハハハハッ!!無事では無い!!」

 俺の心でも読んだのか、オレンジの紳士は、何故か俺の方を見て笑う。顔がこゆいとか、1ミリも思っていません。

 彼は、立ってはいるが動けないのか・・・・・・。

 今の一撃で、攻撃陣はほぼ全滅じゃないか・・・・・・。



 その時、突然どこからか一言だけ声がする。


『うごくな』


 そのとたん、魔王がピタリと動きを止める。

 何事だ?!



「いやははははは!なんとも派手な展開だね~」

 この戦場に似つかわしくない、爽やかな明るい声が響く。

 どこから?

 見上げると、夜空に大きな鳥が3羽、羽ばたいている。

「笑い事じゃねぇだろ、クララー!!」

 その鳥の上から怒声が飛ぶ。

「あらあら。でも、出番がありましたよ」

 凛とすんで、それでいて、楽しそうな声もする。


 よく見ると、飛んでいるのは鳥じゃない。

 神獣ペガサスだ。

 そのペガサスが、翼を羽ばたかせて、ゆっくり降りてくる。

「そうだぞ、アイン。魔王と戦えるなんて機会、滅多に無いぞ」

 馬上の人たちは、なんて気楽な会話をしているんだろうか。


 何者だ?とは思わない。

「歌う・・・・・・旅団?!」

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