神の創りし迷宮  魔王顕現 5

 俺はランダが作った道を全力で走るが、アルフレアや、ザンの方が走るのが速いので、あっという間に俺の方が後ろになってしまう。

 他にも足の速い連中にどんどん追い抜かれていく。

 まあ、俺、暫定レベル1だしな。

「ランダ。リラさんは?」

 今の光の剣の大技に、肩で息をするほど消耗しているランダは、それでも、光の鎧の力で、俺のすぐ後ろを浮遊しながら付いてきている。そのランダに背負われて、ファーンも一緒だ。

「まだ意識を取り戻さない。ミルも一緒だ」

「そうか・・・・・・」

 またしても無理をさせてしまった。キャンプの防衛はアカツキたちに任せたので、一応は大丈夫だと思うが、やはり心配だ。

「ランダ。魔法は使えそうか?」

「でかいの一発だな」

 やっぱり時間が圧倒的に足りなかったか。

「じゃあ、取っておいてくれ」

「わかった。俺はファーンの護衛を優先する」

「ひゃあー。それは心強いけど、このヒュンヒュン動く奴がおっかねぇや!!」

 ファーンは軽口を言うが、本当は立っていられないほどダメージを負っているはずだ。

「弱点は見えたか?」

 ファーンに問いかける。

「流石にまだ無理だ。だけど、アイツ足を自分でちぎって出て来たみたいだ。それと、腕は再生して来ているが、でかさのせいかもだけど、再生能力ではトロルに劣るな。しかも足は再生できていない。狙うとしたら、その辺りかもな」

 弱点は見えていないと言ったクセに、しっかり見るところ見えてるじゃないか!?たいした奴だ。

「サンキュ、相棒!!」

 俺が応えると、ファーンはニヤリと笑う。

「頼むぞ、相棒!!」



 俺には、僅かな希望がある。

 便宜的に魔王と呼称してしまったが、アレは実際には魔王では無い。魔王は地獄の第6層、第7層の魔物の中の、特に強力な個体の事だ。そして、第6層から魔物の体は、信じられないくらいに巨大になる。

 俺は黒竜の記憶で第6層までの光景を見たが、それで見ると、あの魔物は、第5層の魔物、しかも、そこでは雑魚に過ぎないだろうと思う。

 何故なら、第5層の魔物も、上位の魔物になると知性がある。服を着ている魔物もいる。だが、あの魔物には、知恵は有るのだろうが、知性は感じられない。今大量に湧いている第4層の魔物と変わらないように見える。

 

 さらに、あの魔物は、まだ地獄の重力から逃れられないのか、体を震わせて動き出せていない。

 ファーンが指摘したように、足を半分失っているのも大きい。


 また、あふれ出た小型の魔物も、今はもう出現していない事から、アクシスの力で、地獄の穴には、完全に蓋が出来たに違いない。これ以上小型の魔物は出現しない。

 そして小型の魔物は、一気にこちらに迫るのでは無く、四方に散らばって行ったのだ。

 周囲に散らばっても、グラーダ軍が、厳重な包囲を敷いている。敵の戦力が分散してくれるので、とんでもない数の魔物だが、集中されるより遥かにしのぎやすい。


 頼みは2つ。

 1つはグラーダ軍が意外に近くまで包囲を狭めていてくれて、魔物を蹴散らして駆けつけてくれる事。これは距離的にも時間的にも、ちょっと現実的では無いとは思うが・・・・・・。


 もう1つは、魔物が野営キャンプを素通りして、もしくは思いの外早めに魔物を退けて、キャンプの冒険者たちが参戦してくれる事。

 俺は、それまでの時間を稼ぐ事が、勝利への僅かな道なのではと考えている。


 


     ◇     ◇

 



 キャンプに駆け戻ったアカツキのテンマは叫ぶ。

「冒険者は戦え!!非戦闘員は旗の下に集まれ!!」

 旗は、キャンプの入り口に、グラーダ国旗が掲げてあった。 だが、それは今、グラーダ兵の手にある。ポールの根元を切断して、掲げて走る。目指すはキャンプ地で、一番開ひらけた空間だ。

「冒険者!!円陣を組んで、非戦闘員を守れ!!冒険者の矜恃を示せ!!」

 テンマの叱咤の声に、逃げ腰だった冒険者たちの目に、活力が蘇る。

 

 テンマがキャンプ内の冒険者や非戦闘員を誘導してまとめている間に、黒猫の傘下にある30人ほどと、アカツキの他のメンバーで、突貫で作られた木の柵の、内側のテントを破壊していく。

 もう、魔物たちの群れは目前に迫っていた。

 気付いた他の冒険者たちも、邪魔になるテントを破壊していき、戦闘態勢を整える。

「来たぞ!!!!」

 銀武者のロイが叫ぶ。

「迎え撃て!!!」

 ロイの声に、柵の内側に集結した冒険者たちが「おおおおおおおっ!!」と、雄叫びを上げる。

 無数の矢が飛び、炎の、氷の、風の魔法が魔物の群れに襲いかかる。

 戦士たちに支援魔法が次々掛けられる。


「旗はここだぞ!!怪我人、非戦闘員はこの下に集まれ!!」

 キースが叫ぶ。

「テメーら!!親衛隊の仕事は旗持ちだ!!何が何でも旗を守るのが仕事だ!!この旗の下にいる人たちを、絶対に傷つけさせるんじゃねーぞ!!!」

 オグマが、部下の兵士たちに檄を飛ばす。

「はっっ!!!」

 兵士たちの返事は短く、集まった人たちを囲むようにして、盾と槍を構える。

 

 テンマがギルド職員を捕まえて訪ねる。

「君!この事は、包囲しているグラーダ軍には伝えたのか?」

 尋ねられた女性の職員は首を振る。

「わ、わかりません」

 冒険者出身じゃないのだろう。完全にこの状況に怯えている。

「では、君の責任で、大至急グラーダ軍に、この状況を伝えたまえ!!」

 テンマに指示された職員は、頷くと大急ぎでメッセンジャー魔道師を探しに走った。


 柵を乗り越えて、すでに数体の魔物がキャンプ内で暴れて、冒険者との戦闘になっている。他にも、四方八方から魔物が押し寄せて、柵を破壊したり、乗り越えたりしてキャンプに侵入してきている。

「親衛隊!ここはまかせていいか?!」

 テンマがキースに言う。

「任された!!」

 キースが言い切る。

 テンマは頷くと、仲間たちの下に急ぐ。

「パーティー単位で戦え!!パーティーの無い者は、手が足りないところに援護しろ!!俺たちは冒険者だ!!冒険者の戦いを忘れるな!!!」

 テンマの指示で、冒険者たちの動きが格段に良くなる。

 軍では無い。パーティーにはパーティーの連携、戦い方がある。下手に足並みを揃えるより、戦いがやりやすくなるし、なにより、冒険者の性分に合っているのだ。


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