神の創りし迷宮  魔王顕現 4

「うわあああああああ!!!」

 多くの冒険者が思わず叫んだが、気がつくと全員が地上の帰還ポイントに戻っていた。

「た、助かった・・・・・・」

 これも誰かが、思わずと言った感じに漏らす。

 帰還ポイントには、多くの回復魔法使いが集まっていて、カシムたちが出現すると、すぐに集合魔法としての全体回復魔法を唱える。

 だが、カシムは愕然とする。

「防衛体制は整っていないのか?!」

 見ると、冒険者は慌ただしく動き回っているが、ギルド職員も混乱している様で、まったく防衛体制が整っていない。右往左往しているだけだった。

 商人たちの避難も出来ておらず、未だに店を出していたりもする。

「時間が足りなかったか・・・・・・」

 稼げた時間は僅かだった。

「今すぐ移動だ!!!移動しながら回復する!!!魔力の回復も各々してくれ!!」

 カシムが叫ぶと、全員がハッとして急いでダンジョンの入り口から逃げる。

 

 同時に、エレスの大地が激しく揺れる。

 バランスを崩した者は、這って逃げる。

 

 ダンジョン入り口の、更に奥の大地が陥没する。

 そして、そこから巨大な腕が飛び出す。


 大きく陥没した、その地面から、魔王が巨大なその姿を現した。

 そして、その足元から溢れるように魔物が出現してくる。

 どの魔物も、4メートル以上の大きさで、様々なおぞましい姿をした化け物である。

 それが、一斉に四方に散らばって行く。

 そして、カシムたちのいる冒険者ギルド前線支部のある、野営キャンプにも迫って来る。

 

 出現した魔王は今や完全に地面の陥没から抜け出して、そびえるような巨体を、地上世界に顕現させた。

 夜の原野に、そそり立つ巨体が小山の様に見える。


「ヴェアアァァァァァァァッッ!!!」

 

 奇妙な咆哮が、夜空に轟いた。




◇     ◇




 カガリビ・テンマによってダンジョンコアが破壊された瞬間、遠く離れた白竜山と、デナトリア山にいた、白竜と黒竜は、エレスの大地に地獄に通じる穴が開いている事を知覚した。

「なんじゃと!!??」

「これは一大事ですね」

 互いに違う場所にいながら、地獄の監視者として、同時に住処から飛び出した。


 二柱の創世竜は、地獄の穴を発見すると、その一帯を焼き尽くす事で穴を消滅させてきた。

 白竜も黒竜も、その場でカシムたちが戦っている事など知らない。

 また、知っていたところで、行動方針に変わりは無い。

 二柱の創世竜にとっては、地獄の穴を一刻も早く塞ぐ方が、他の些事よりも重要だった。


 黒竜ならば、或いはカシムを発見したら、まずはカシムたちの避難を優先するかもしれない。

 だが、白竜であれば、いっさいの躊躇も見せずに、冒険者ごと焼き尽くすだろう。


 そして、例え地獄の蓋がされたとしても、魔王の如き、巨大な魔物が地上に出現したとなれば、やはり、苛烈な攻撃を仕掛ける事は間違いない。


 二柱の竜は、恐らく1時間もかからずに、デナン西のダンジョンにたどり着くだろう。

 そして、ダンジョンは白竜山の方が近い上に、飛ぶスピードも白竜の方が速い。


 無論、創世竜がもの凄い速度で迫り来る事など、カシムたちには知り様も無かった。





「やっぱり出て来やがった・・・・・・」

 巨大な魔王を見上げて呟いた。


 地上に顕現した魔王は、全高40メートルを越える巨体で、腕が4本生えている。内、1本は半ばで切断されているが、すでに再生が始まっている。

 長い腕は、鞭のように揺らめいて動き、1本の手を地面に下ろしているようだ。

 一応人型で2足歩行。

 全体的にのっぺりとしていて、関節がある動きには見えない。

 頭もつるりとしていて、巨大なコブが胴体に付いているように見える。

 顔の半分が口で、巨大な目が頭全体に無数にあるようで、開いては閉じてを繰り返している。



 普通なら勝ち目は無いだろう。すでに、多くの冒険者が、出現した魔王に、戦意を喪失している。

 かつて出現した、「魔王エギュシストラ」よりも大きいのではないかと思われる。

 

 だが、さすがは一流の冒険者だ。

「やるぞ!!いけるな!?」

 アカツキとアルフレア、正義の翼は多少回復できたのか、巨大な魔物に向けて突き進もうとする。

「待て!!」

 俺が大声を上げて突進を止める。

「またか、ペンダートン!!」

 アルフレアのリーダーが苛立って睨む。

「まただ!!すまないが、アカツキ、黒猫、それとグラーダ兵たちはキャンプ地の防衛をしてくれ!!魔物たちの被害を食い止める!!」

「なぜ我々がやる!?」

 アカツキの黄金騎士が詰問する。今いる冒険者では、消耗しているとは言え、未だにアカツキが最強戦力なのは間違いない。本来であれば、魔王と対峙して欲しい。

 キャンプ内には他にも冒険者たちが大勢いる。しかし、戦意喪失したり、無秩序に動いて混乱している。

「組織立っての行動が取れるのは、アカツキと黒猫。それとグラーダの兵士たちだ!今、キャンプも大混乱だ。それをまとめるには圧倒的なカリスマが必要だ。それがアカツキが防衛する理由だ!!」

「むう。黄金の鎧は目立つからな。そう言われると頷くしかあるまい」

 テンマは唸りながらも納得したようだ。

「あと、黒猫の人たちも防衛して貰うが、ザンは一緒に魔王と戦って欲しい!!」

「ああん!!兄貴を使おうってのか、三下ぁ!!」

 エルフが凄むし、モヒカンも怒鳴る。だが、ザンが「わかった」と言えば、他の連中も黙る。

「アルフレア、正義の翼も魔王と一緒に戦って欲しい!!」

「君が足を引っ張らないようにしてくれよ!!」

 ピレアが言う。ダメージはまだ残っているが、胸を張って強がる。

 

 そう言っている間に、魔物の集団が押し寄せてきた。

「まず、あいつらを何とかしないと、先には進めないね」

 アルフレアのリーダーが言う。

 ちょうど良いタイミングで、ランダが駈け寄ってくる。

「それは竜の団で切り開く!!」

 俺が宣言すると、冒険者たちは一斉に動き始める。

 

 防衛班はキャンプに走り、攻撃班は、竜の団の後ろに控える。

「ランダ!!最後の一回、道を切り開いてくれ!!」

 俺が言うと、ランダはすぐに頷いて、光の剣を抜き放つ。


「光の剣、二式。フルバースト!!」

 ランダが気合いを込めて、光の剣を横薙ぎに一閃。更に斜めに振り降ろし、切り返して振り上げる。

 光の刃が3枚飛んでいく。

 広範囲になぎ払い、超射程で2枚の刃が、魔物を切り裂いて、魔王までの道を、文字通り切り開く。

「うおおおおっっ!!」

 俺たちの後ろの連中が驚愕に目を剥く。だが、驚くのはこの後だ。

 刃が通った後が、一気に爆ぜる!!


 ズババババババババババーーーーーンッッ!!!


「行くぞ!!!」

 歓声を上げる冒険者たちの先頭に立って、俺は走り出した。

「おおおおおおおおおおっっ!!」

 アルフレア、正義の翼、ザンの他にも、地下で戦った冒険者たちが俺の後に続く。

 地上にいた冒険者たちは、まだ、魔王の巨体と、大挙して押し寄せてくる魔物の群れに、完全に呑まれている。

 いや、気持ちを立て直した冒険者たちも、俺たちの後に続いてくる。

 さすが、高レベルの冒険者たちが集まっているだけある。

 その中でも、オレンジ色の、派手なフルプレートの冒険者が、なぜか「ガハハハハハハッッ!!」と、大笑いしながら、長大な槍を手に走って追従してくる。

 目立つし、顔がすごく濃い。その目立つ男が高笑いしているので、緊張していた冒険者たちの表情も、すこし軽くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る