神の創りし迷宮  迷宮 4

「ちょっと見てくれ」

 そう言うと、カシムが、ウエストバッグから、薄い金属のカードを取り出して、ダンジョンの壁の、石と石の隙間に差し込む。

「ほら!なっ!?」

 そして、仲間たちに同意を求めるように、壁に挟まったカードを指さす。

「・・・・・・いや。『なっ!?』じゃねーよ。わからねえって」

 ファーンが眉を寄せると、カシムが渋い表情で壁やら天井やら、柱を指さす。

「これを見て見ろ!なっちゃいないだろうが!!」

「は?」

「この石組みは平積みなのに、石と石に隙間がある。造りが雑なんだよ!」

「崩れるって事ですか?」

 リラが首を傾げる。

「いや。それはないです」

「じゃあ、何が問題なの?」

 ミルも困った様に尋ねる。


「古代遺跡には、複雑な形の石なのに、カミソリの刃一枚入らないように加工された石積みがあるんだ。なのに、神が作ってこの雑さが嘆かわしい!それに、この壁はグレンネックの様式ながら、柱は前期アッバース朝ニシアス地域で発展したロイギス様式!更に梁に彫られたブドウとツタの模様は、エルカーサ国南方の遺跡によく見られた物だ!!」

 カシムは興奮したように、一気にしゃべるが、誰1人何を言っているのかさっぱりわからない。

「え~~~と。・・・・・・それで?」

 ファーンが呆れた表情でカシムを見る。

「だから!年代も場所もメチャクチャな様式が混ざってるんだよ!!」

 「何でわからないんだ?」とでも言いた気な剣幕である。

「いや、でも。こんな感じの建物って、結構無いか?」

 ファーンが根気強く付き合う。

「それだよ!!」

 カシムが、ファーンの言葉に満足そうに頷く。

「つまり、この建物は適当にその辺りにありそうな物を、とってつけた近代建築だって事が問題なんだ!」

「でも、最近作られたんだよね、このダンジョン?」

 ミルがそう言うが、カシムはもう聞いていない。

「まったく・・・・・・。どうせダンジョンを作るなら、もっと年代設定とか、歴史的背景とか、文化の広がり方とか、そう言う事に拘(こだわ)って作って欲しいのに・・・・・・」

 などと、ブツブツ言いながら、カードを回収したら歩き出す。


 それを見たユリーカが、呆れたようにリラたちに尋ねる。

「カシムンって、いつも、ああなんですかニャ?」

「ああ、いやいや。多分、初めてのダンジョンに興奮してるんだよ」

 ファーンがフォローを入れる。

「ちょっとキモいのニャ」

「ああ。それは否定できねぇ」

 ユリーカとファーンが漏らすが、リラはそんなカシムをニコニコ見ていた。

「でも、好きな事に夢中になってるカシム君って、可愛いわ」

「そーか?!」

「そうですかニャ?!」

 2人に言われて、リラは笑って誤魔化す。

「もう、みんな早く行こー!!」

 ミルが最後尾なので、先を急かしてファーンたちも歩き出す。



 少し進むと、道が3つに分かれていた。聞いていて通り、進むべき道に矢印シールが貼ってあった。

 しかし、その道に進む前に、別の道から、襲いかかってきたモノがあった。

 それは単体では無く、5匹程度の大きなネズミのような生き物だった。

 カシムたちは、瞬時に密集する。

 カシムがすでに抜き放っていた剣で、飛びかかって来たネズミの一匹をたたき落とす。

「コイツらニオマーモだ!」

 カシムが仲間たちに伝える。

 ニオマーモは、グラーダ砂漠地帯に棲息する大型のネズミで、体長は80~120センチ。5~10匹で群れて行動する。雑食で、臆病ながら、ダンジョンでは凶暴化しているようだ。

 背中に体毛が進化した棘をいくつも持っていて、逆立てながら、体当たりして攻撃してくる。

「うわ!?」

 ミルが体当たりから身を躱す。

「えい!!」

 リラは杖のハンマー状になっている持ち手側で、ニオマーモを殴りつける。

 カシムも、飛びかかってくるニオマーモを交わしてから棘のない側面を蹴りつけたり、鼻っ面に剣のグリップを叩きつけたりする。

「ユリーカは戦わないのか?」

 ファーンが、ニオマーモの攻撃を巧みにかわしながら、ユリーカに尋ねる。

「それはもちろんなのニャ!アタシは記者だから、皆さんの活躍を記録させて貰いますのニャ!もちろん、自分の身は自分で守るので、心配無用なのですニャ!!」

 ユリーカは革鎧に、バックラーという小さな盾に、ショートソードで武装している。元盗賊だけあって、身のこなしが良い。

「さあ、竜の団の強さを見せてもらいますのニャ!!」

 目を輝かせて、ユリーカが手帳を構える。

「あ~~~~。オレみたいだな」

 ファーンが苦笑する。

「まあ、こういう人には慣れてるよね~」

 ミルも苦笑する。

「そんな事言ってないで、このネズミ、やっつけなきゃ!!」

 リラが杖を振るって、ニオマーモに叩きつける。

「じゃあ、やっつけるぞ!」

 カシムは、そう言うと剣を鞘に収めて、新しい剣鉈を腰の後ろから抜く。そして、ニオマーモが飛びかかる構えを取る前にダッシュして、その眉間を剣鉈の峰で打ち据える。

 目を回したニオマーモが動かなくなる。

 ミルも刀では無く、縄の付いた分銅を取り出して、振り回してニオマーモに投げつける。

 リラの杖も、ニオマーモの弱点である眉間を捉え、パッシィィィーンといい音をさせて吹き飛ばす。

「やだ。ちょっと快感かも」

 打ち付けた手の感覚に、リラが嬉しそうに言ってから、顔を赤らめる。

「いや、ナイスだ!」

 カシムが言う。

「よし、敵が怯んだ隙に、先に進もう!」

 カシムの号令で、仲間たちは戦闘をやめて、道の先に走って逃げ出した。

 3匹気絶させられて、残った2匹はそれ以上追撃はして来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る